一生に一度は拝んでみたい、本の神殿「世界で最も美しいドミニカネン書店」の現地ルポ【オランダ・マーストリヒト】

Posted by: 鈴木幸子

掲載日: Nov 30th, 2019

本好きにはたまらない書店巡り。それが、英国紙ガーディアンが「世界で最も美しい本屋10選」と選んだ場所ならなおのこと。700年以上の歴史をもつドミニコ教会が2006年に書店として生まれ変わりました。今回のオランダ・リノベ建築のベスト1にしたい傑作です。

オランダ最古の街は「マーストリヒト条約」締結の地


きっと昔、誰もが歴史の教科書で学んだであろう地名、マーストリヒト。1992年の欧州連合(EC)条約締結の地に、今回のお目当ての書店はあります。ルールモントから電車で30分、辿り着いた駅はレンガ造りの風情あふれる建物。駅舎内部は鮮やかなステンドグラスで飾られ、駅ピアノが置かれクラシック曲が流れていました。


駅からマース川に向かって歩き、13世紀に造られた聖セルファース橋を渡って旧市街の中心部へ。マーストリヒトは、紀元前50年、古代ローマ人が「マース川の渡し場」を築いて始まったといわれています。ローマ時代の史跡が残り教会も多いマーストリヒトは、古くより近隣諸国から巡礼者が訪れていたそうです。そんな話をガイドから聞きながら、目的地のドミニカネン書店(Boekhandel Dominicanen ブックハンドル・ドミニカネン)へ到着。

エントランスの演出から驚かされます


まずは入口から驚きでした。鉄鋼でできた焦げ茶の四角い物体。それが後ろのゴシック教会と不釣り合いではあるけれど、なぜか中を見て出てきた後にはしっくりと馴染むから不思議です。この玄関の茶色の物体は、25の言語で「本」という言葉が刻まれているそう。

朝日に輝く教会内は、どこまでも神々しく


小さな入り口から入ったその先は、まさに「本の神殿」。この表現は、オランダ観光局資料から拝借した言葉ですが、確かに的を得ていると思いました。


優雅なアーチを描く天井と、かすかに残る美しい宗教画。

元々の教会の材料は、黄色を帯びたマール石(泥灰岩)を多用し、天井のアーチ上部を締めるためにアイボリー色のキーストーンという石を使用。教会内の全体の黄色っぽさとステンドグラスから入ってくる朝日が溶け合ってか、得も言われぬ美しいレモンライム色に輝いているではありませんか。

13世紀の荘厳なゴシック教会と、スチール製のモダンな黒本棚が溶け合う


そして、中世時代の教会内部の石に合わせているのは、木製ではなくステンテス製のシックな黒の本棚です。正面入って右側には高さ7.5m×長さ30mのモダンな書架が自然にフィット。本棚や階段、エスカレーターは教会の建物には触れないように設計されています。中に入った瞬間に誰もが感嘆の声を漏らしてしまいそうな、目を見張るほどの斬新な光景。なるほど世界で最も美しいと評価されるに値します。

教会としては機能せず、倉庫、音楽ホール、屠殺場になったことも


ドミニコ教会のオリジナルの建物は1230年頃、ベギン会修道院として始まり、1294年、オランダで初めてのゴシック様式教会として建設されました。ドミニコ修道院&教会として16世紀まで続きますが、マーストリヒトはスペイン、ドイツ、フランス、ロシアなどに繰り返し支配され、偶像破壊や復興を経て、17~18世紀にはバロック様式のフレスコ画や主祭壇が加えられたこともあります。18世紀終わり頃からは、フランス革命により修道院は禁止され、軍事目的で利用されることに。19世紀初めには著名なオランダ人建築家によって純粋なゴシック様式に戻されました。


1830年以降、教会はマーストリヒト市の所有となります。当時は倉庫や催事場、音楽ホールとして使用されており、なんと屠殺場も兼ねていたそうです。毎週水曜日は食肉の屠殺を行い、金曜日はオーケストラの練習、土曜日は演奏会という時代もあったというから驚きです。

地元の人々にとっては恋のレッスンの場?


第2次大戦後は子供達のカーニバル会場となったこともあります。8~14歳の男女が集まり、大胆にも、女子の方から気に入った男子を選んでキスをする「キッシングダンス」が恒例となっていて、マーストリヒトの住民の多くはファーストキスはこの教会でという人が多いそう。地元の人々にとっては幼少時代の甘酸っぱい恋の記憶が詰まった場所でもあるのです!

書店奥の「天国のカフェ」で半日は過ごしたい


書店のいちばん奥には、吹き抜けの広々としたカフェがあります。地元で約140年愛され続けてきたマーストリヒトの老舗カフェ「ブランシュダール」。このスペースはかつて聖歌隊が賛美歌を歌っていた場所。天井の窓から柔らかい光が降り注ぐ中、ゆっくりとコーヒーをいただきながら至福の時間を過ごせそうです。


本には興味がないという方でも、観光合間の休憩スポットとしてとして楽しめますよ。書籍売り場は3階まであり、建物の2階、3階から、教会の隅々を見渡すことができます。天井のフレスコ画や明かり窓、ステンドグラスなど細部をゆっくりと鑑賞しましょう。


置かれている本は、書籍や雑誌、デザイン書など新書のみならず古書、CDやDVDも揃い、オランダ語、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語と言語も揃います。定期的に、朗読会やミュージカルなどイベントなどの催しも開催

ドミニカネン書店(Boekhandel Dominicanen)
住所:Dominicanerkerkstraat 1, 6211 CZ Maastricht, The Netherlands
電話番号:+31 434 100 010
営業時間:【月】10:00~18:00、【火~土】9:00~18:00、【木】9:00~21:00、【日】12:00~18:00
休日: 一部の祝日
HP:https://www.libris.nl/dominicanen/

取材協力
KLMオランダ航空
オランダ政府観光局
ユーレイル

PROFILE

鈴木幸子

sachikosuzuki 旅行記者、エディトリアル・ディレクター

出版社勤務や地球の歩き方編集を経て2001年に独立。世界60か国以上を頻繁に取材し、一期一会のハッピーな記事を書いています。JTBるるぶ「アンコールワットとカンボジア」初版制作。著書『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』ほか。有限会社らきカンパニー主宰。「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前です。

出版社勤務や地球の歩き方編集を経て2001年に独立。世界60か国以上を頻繁に取材し、一期一会のハッピーな記事を書いています。JTBるるぶ「アンコールワットとカンボジア」初版制作。著書『もち歩きイラスト会話集タイ/池田書店』、『みやざきの自然災害』ほか。有限会社らきカンパニー主宰。「らき」はギリシャ・クレタ島の地酒の名前です。

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