東京から新幹線で銀山温泉に向かう
雪景色が似合う温泉街といえば銀山温泉。というわけで山形へ向かいます。東京駅から山形新幹線に乗り、米沢、山形を通り過ぎます。この時は雪が少なかったせいか、山形駅周辺では田んぼにうっすらと雪がかかっている程度でした。
とはいえ、天童駅、さくらんぼ東根駅を通り過ぎると、少しずつ雪の量が増えていきます。銀山温泉はどんな姿をしているのだろうと、期待感が高まります。
東京駅を出て3時間ほどで大石田駅に到着。東京から銀山温泉へのアクセスは、山形新幹線のほかには車で直接向かう方法や、飛行機で山形空港に入り、バスに乗り換える方法もあります。たくさんの乗客が新幹線から降りていきます。みなさん銀山温泉に向かうのでしょうね。
山あいにこつ然と現れる銀山温泉の街並み
駅前には銀山温泉からの迎えのバスが何台も待っていました。乗客は三々五々にバスに吸い込まれていきます。私たちは今夜の宿である旅館永澤平八と書かれたバスに乗り込みました。ちなみに永澤平八の場合、大石田駅からの送迎バスは1日に13:40発と15:45発の2本で事前予約が必要です。
銀山温泉まではバスでおよそ40分。途中の光景は雪でほぼ真っ白です。山に向かうと雪原が広がり、次第に積もった雪の量が増えていくようです。
平野部を超え丘陵地帯から山あいに入ったとたん、こつ然と街並みが現れました。これが銀山温泉です。時代劇のセットのような街並みで、とつぜん不思議な空間に迷い込んだような印象なのです。
温泉街の手前でバスを降りて、狭い歩道を歩いて宿に向かいます。荷物は旅館の方が台車で運んでくれます。意外と雪はほとんどありません。街の中央を流れる銀山川の両側に狭い歩道があり、そのわきに旅館が建っていますが、その裏は山の斜面。狭い歩道に雪が積もって歩きにくくならよう、すぐに除雪をしているようです。
木造三階建て 大正ロマンの面影が残る宿
ようやく今夜の宿、永澤平八です。大正時代末に建てられた銀山温泉最初の木造三階建ての宿だといいます。「永澤平八」という不思議な宿名はじつは初代の名前で、代々その名前を名乗るそうです。現在のご主人は8代目・永澤平八。
建物は古いのですが、床はきれいに磨き上げられて光っていました。しかもきれいに掃き清められて、気持ちのいい宿です。
その名の通り、かつて銀山として栄えたこの地は、江戸中期のころは人口が20万~30万もあったといいます。その後銀山は衰退し、細々と湯治の温泉宿を営んでいましたが、1913年(大正2年)に銀山川の大洪水でほとんどの宿が流出してしまいました。
しかし温泉街の復活を期して温泉を掘り、昭和元年には良質で高温多量の湯が出たのだそうです。各旅館は一斉に三、四層の木造構造に建て替えを行ったといいます。渓流沿いで土地が狭いために木造高層建築となったのではないでしょうか。
戦後は知る人ぞ知る秘湯でしたが、1983年に放送されたNHK朝の連続テレビ小説「おしん」の舞台として脚光を浴びます。さらに1986年に「銀山温泉家並保存条例」を制定し、風情ある旅館街を保存し観光復興に生かすことで人気を高めてきたのです。
我々の泊まった部屋は山側。といっても斜面を横に見る部屋でした。狭い土地を最大限に生かすよう、斜面に吸い付くように建てられているのです。
お湯が自慢の銀山温泉
さて、この宿はお風呂が3か所に分かれています。泉質は含食塩硫化水素泉で源泉かけ流し。無色透明でキリっとしていて冬場はよく温まるお湯で、旅の疲れと寒さで凝り固まった体が優しくほぐれていくようです。たしかに良質のお湯です。
3階にある2つのお風呂はそれぞれ家族風呂として貸切になっていて、空いていれば自由に入ることができます。3~4人ほど入れるような、広々として気持ちの良いお風呂でした。
1階にある男女別の内風呂も4~5人は入れる浴室でした。これで3つともに入浴。さわやかな泉質を楽しませていただきました。
ちなみに温泉街にも浴場があるのです。そのひとつは貸切り浴場の「おもかげ湯」。50分で2000円。受付はカレーパンのお店「はいからさん通り」で当日受付です。
そしてもうひとつは温泉街のはずれにある共同浴場の「しろがね湯」。無休で9~17時の営業、入浴料金は500円です。とはいえこの日は残念ながら点検工事のために入浴できず。
今では13軒の宿が残るという銀山温泉。1軒ずつ宿のデザインを見ながら歩いてみました。家並保存条例によって古い街並みが大切に守られ残されてきてはいますが、少しずつ変わってきているようです。
21世紀風の和モダンの温泉宿も誕生しています。上の写真は藤屋さん。古くなった建物を建て替える際に現代風のアレンジが施されているのですね。異彩を放つこの藤屋さんはなんと新国立競技場を設計した隈研吾氏によるものです。
それでも大正ロマンの面影は温泉街の色んな所に残されていて、歩いていても楽しいですし、文化的な遺産として残してほしいものだと思いました。
さて、お待ちかねの夕食です。山形の豊かな食材が並んだようです。尾花沢牛のステーキや名物の蕎麦もありました。山形は野菜やフルーツなど、何でもおいしいところです。
夕食後はふたたび夜の温泉街を散策しました。温泉と食事で体は温まっています。寒さは感じません。街灯に照らされた美しい温泉街は風情があります。幻想的な景色です。雪が降っていればもっと雰囲気が盛り上がるのかもしれませんね。
翌朝も雪は降りそうにありません。朝の温泉街も散策しました。夜とはまた違った不思議な雰囲気です。
奥の細道 芭蕉の足跡を訪ねて
大石田駅ではもう一か所訪ねたいところがありました。じつは松尾芭蕉が「奥の細道」の旅でこの地を訪ねているのです。芭蕉は大石田に3泊して最上川を船に乗り、「さみだれをあつめて早しもがみ川」という名句の原型「さみだれをあつめてすゞしもがみ川」という句を詠んでいたのです。
その句碑が最上川のほとりにあるはずだったですが・・・河畔は大雪で覆われていて石碑に近づくことができませんでした、残念。この時、銀山温泉よりも平野部の方が雪がたくさん積もっていたのでした。
[All Photos by Masato Abe]