国道沿いの赤い山門を目印に
地元の人から「福石観音」と親しまれている清岩寺。佐世保駅から路線バスで5分ほどの場所に位置し、九州四国霊場第27番札所でもあります。
710年、行基によって開かれたお寺で、江戸時代まで「神仏習合」の考えがあったことから、入口には鳥居の形をした山門があります。
お寺の入口に“開運”の2対の龍神
山門をくぐり、100メートルほどの参道を抜けると、いよいよ清岩寺の入口です。
入口の両脇に龍をあしらった石灯籠があり、右側が「女龍」、左側が「男龍」です。「女龍」をよく見ると、口の中に珠を咥えていることに気づきます。一方、左側の「男龍」は口を閉じています。
龍神には「運気を開く」パワーが宿るといわれています。開運成就を祈りながら、男龍と女龍の間を通り抜けましょう。
むき出しの岩肌に囲まれた寺院
清岩寺に一歩足を踏み入れると目に入るのが、岩や石です。右側には岩壁が険しく切り立ち、野趣あふれる雰囲気です。
自然の造形に包み込まれるように建つ祈りの場には、古来より多くの人が参拝に訪れました。
本堂は岩窟に建ち、奥の壁は板ではなく、岩壁になっています。祭壇の扉の中には、年に数回の限られた機会のみ御開帳される秘仏「十一面観世音菩薩」が安置されています。
本堂の横の岩壁には「清厳」の文字が彫られています。これは明治時代に生きた佐賀鹿島出身の儒学者・谷口藍田の彫によるもの。緑の木々と苔むした岩が、悠久の時の流れを感じさせます。
受け継がれた「二十三夜塔」に秘められた思い
本堂横の岩の崖の上に「二十三夜」と刻まれた石塔があります。
同寺院では、江戸時代まで、二十三夜に供物を備えて月が出るのを待ち、月を拝んで飲食を共にする「月待ち」という行事が受け継がれてきたのだそう。
福石観音は子授け安産祈願の聖地としても認知され、二十三夜に女性たちが集まって、不妊や子育て、家庭の悩みなどを吐き出す場にもなっていたといわれています。現・住職の奥さん、松本祥子さんは「時代を超えても女性の悩みは共通する。二十三夜を現代に復活させたい」と語ってくれました。
大自然と祈りの融合「五百羅漢」
本堂の階段を下りて右側の斜面を15分ほど登っていくと、国指定名勝「平戸八景」にも選定されている「五百羅漢」があります。看板が立っているのでルートの確認を。
奥へ進むにつれ、足元がどんどん険しくなっていきます。散策にはスニーカーがオススメ。
写真右手にあるのは、室町時代~南北朝時代に建てられた五輪塔と宝篋印塔(ほうきょういんとう)。供養を目的とする石塔またはお墓であり、仏法復興を祈願した証となる遺物群です。
削り取られた岩肌に木々の根が絡み、まるでラピュタのような世界。さらにずんずん歩いていくと、洞窟に安置された五百羅漢が姿を現します。
こちらが五百羅漢。
足を踏み入れた瞬間、空気が一変するのを肌で感じました。さっきまでいた場所とまったく別の時間が流れているような、厳かな空間が広がります。
五百羅漢とは、お釈迦さまの500人の弟子たちのこと。仏教の教えを広く世の中に伝え、人々から「らかんさん」と呼ばれ慕われたといいます。
帰り道の光景。さっきと同じ風景なのに、何かが違ったように目に映るのが不思議です。
身も心もスッキリ軽やかに
五百羅漢の山から戻る道の途中、木々が開けた隙間から、佐世保の港が一望できました。佐世保港は上から見ると、港の形がカエデの葉に似ていることから「葉港」とも呼ばれています。
崖の上から見た本堂。清岩寺はさまざまな角度から景観が楽しめ、春夏秋冬と、季節によって表情ががらりと変わるのも見どころのひとつ。カメラ片手に訪れる写真愛好家も多いのだとか。
福石観音清岩寺はじっくり散策すると、1時間以上は楽しめるスポットです。軽いトレッキングくらいの運動量があるので、山を下りたときには身も心も軽くなって、爽快な気分が味わえますよ。
[All photos by Chie Uchino]