絶景と秘湯に出会う山旅【20】南房総の“ラピュタの城”鋸山と海の湯宿・花しぶき【千葉県】

Posted by: 阿部 真人

掲載日: Dec 18th, 2020

東京湾アクアラインのETC通行料金が安くなり、ぐっと身近になった千葉県の南房総。温暖な土地で12月でもアウトドアを楽しむことができます。今回は美しいだけでなく不思議な絶景が楽しめるという鋸山と、館山温泉で評判の宿・花しぶきを訪ねました。

地獄のぞき

気軽にロープウェイや有料道路でも行けます

“ラピュタの城”とも呼ばれる、標高329mの鋸山(のこぎりやま)。山麓南側にある日本寺とともに観光地として人気の山で、“日本百低山”にも選ばれています。

鋸山ロープウェイ

まず、山歩きなんてムリという方には日本寺に行くための鋸山ロープウェイがありますのでご安心を。全長680m、高低差223mを4分ほどで結びます。片道は500円、往復で950円。

案内地図

もっとラクをする方法は、全長2.6キロの「鋸山登山自動車道」(往復1,000円)なのだそうです。途中の大仏口駐車場からは大仏前参道を抜けて日本寺大仏へ、そして終点の山頂駐車場からは、「百尺観音」や「地獄のぞき」へ近道だといいます。

鋸山を歩いてみたら東京湾の大パノラマ

浜金谷駅

鋸山に東京湾アクアラインで行くのでしたら、そのまま富津館山道路に進み富津金谷ICで降りると、まもなく金谷です。もし公共交通機関で鋸山を訪ねるのでしたら、JR外房線の浜金谷駅。神奈川からでは、久里浜から目の前の金谷港までフェリーもありますね。

鋸山地図

鋸山は、富津市と鋸南町の海岸沿いにまたがる小高い山です。遠くから見ると山の形がノコギリのようにギザギザしているので、その名がつけられたといいます。古くから房州石を切り出す山として知られていたようです。最近では採石場の跡がジブリ映画「天空の城ラピュタ」を彷彿させるとして有名になりました。

お肉屋さん

浜金谷の駅から住宅街を通り抜けて登山道に向かいます。途中にあるお肉屋さんから、焼き豚を作るおいしそうな匂いとけむり。この店でメンチカツを買い、山頂でサンドイッチを作って頬張るのも楽しそうですよ。ちなみに「笹生(さそう)精肉店」といい、水曜が定休日だそうです。

車力道

おススメだという「車力道」を進みます。古くから切り出した石を台車に載せて運んだ歴史的な山道なのです。ちなみに石を切り出すのは男、運び出すのは女性たちで「車力(しゃりき)」と呼ばれたそうです。女性たちはひとつ80キロの長細い石を3つ、なんと240キロもの石を台車で運びました。その台車の轍の痕跡が足元の石に残されているんです。

石切り場跡

歩き始めて30~40分で石切り場跡が見える場所にやってきました。ここにある分岐を左に進むと展望台や鋸山のピークがあります。右に進むと石切り場跡が連続して続き、その先に「地獄のぞき」や「百尺観音」「大仏」などの日本寺があるようです。まずは左に行ってみました。

展望台

分岐から20分ほどで、東京湾が一望できる展望台にやってきました。確かに東京湾のほぼすべてを見渡すことができます。想像以上の大パノラマです。

富士山方向

この方向に富士山があると思うのですが、カスミがかかって遠くは見えません。とはいえ、この日は風もなく穏やかな秋日和で、気持ちのよい眺めです。

ジブリ映画「天空の城ラピュタ」を彷彿させる石切り場跡

石切り場跡

石を切り出した跡がいたるところに残されています。房州石は江戸時代から切り出され、古くは東京湾の要塞や横須賀、横浜の港湾設備、またかまどの土台、後になると首都圏の工事現場などで使われてきたそうです。そして1985年まで採掘が行われてきたといいます。

複雑な石切り場跡

緑が豊かな山ですが、人工的な建築物のようでもあり、異世界に紛れ込んだような不思議な感覚になります。その姿がジブリ映画「天空の城ラピュタ」とオーバーラップすると評判なのもうなずけます。ちなみに「天空の城ラピュタ」は宮崎駿監督の初期の名作で、かつてない浮遊感と高低差を感じさせてくれる不思議な冒険物語でしたね。

ラピュタの城風

鋸山の中でも、張り出したこの展望台から真横に見る、この高低差96mの壁が宙に浮かんでいるようで、天空に浮かぶラピュタの城を思い出しました。緑多き失われた廃墟であることも。それにしても、この垂直の岩壁から石をどうやって取り出していたのでしょう。

日本寺

そうこうしている間に、日本寺にやってきました。日本寺の歴史は古く1300年前の奈良時代、名高い僧・行基によって開かれたといいます。梵鐘の銘には元享元年(1321年)と刻まれ、国の重要文化財に指定されています。

日本寺案内図

鋸山の南斜面に広がる境内は10万坪といい、かなり広大な様子で、すべてを回ろうとすると石段の上り下りがたいへんです。いくつかポイントを絞って歩くことをお勧めします。歩いてみて感じたのですが、ここでは方向感覚を失ってしまいます。きちんと地図とにらめっこして、目的のポイントを決めておいたほうが良さそうです。

地獄のぞき

まずおススメは「地獄のぞき」。これは日本寺を訪れた観光客が必ず訪ねる場所ですね。お年寄りの方々もヒーヒー言いながら、頑張って階段を登っていきます。上の写真のように、横に展望台があり、そこからせり出した岩の上の「地獄のぞき」を撮影できます。

地獄のぞきに立つ

隣の展望台から見ていると腰が浮くような怖さを覚えるのですが、実際に自分が「地獄のぞき」に立ってみると、下が見えないので、それほど怖くはありません。不思議なものですね。

百尺観音

そして、こちらは「百尺観音」。高さ30mほどあるそうです。1960年から6年の歳月をかけて石切り場の跡の壁を彫ったもので、迫力があります。そういえば、タリバーンによって破壊されたアフガニスタンのバーミヤン遺跡を思い起こしました。

千五百羅漢

さらに境内に広く分布しているのが、千五百羅漢の石像群です。江戸時代後期に、地元の石工とその門弟27名が21年の歳月をかけて1553体の石像を刻んだといいます。石段を上り下りしながら、この石像を見るだけでも大変でした。

目の前が穏やかな内房の海「湯宿・花しぶき」

ホテル外観

「海の湯宿 花しぶき」は館山駅から6キロほど、車で15分ほど南の、海岸脇にあります。駅からの送迎バス便もありますので、予約時にご確認ください。建物は4階建てで、こぢんまりした宿です。

エントランス

周囲にも旅館やペンションが立ち並びますが、門をくぐると玄関までのアプローチは落ち着いた和モダンの佇まい。大人の雰囲気を感じさせます。

ラウンジ

玄関ロビーの脇には、大きなガラス窓を前にラウンジがあり、ウェルカムドリンクやお茶菓子が置かれていて、のんびりとくつろぐことができます。また女性客にはうれしい、浴衣を選べるサービスもあります。

客室の窓から

各部屋の窓からは内房の穏やかな海を眺めることができます。富士山を探したのですが、北を向いているので、方角的に見えないかもしれません。

浴室

浴室は内風呂、露天風呂ともに決して広くはありません。とはいえ、温泉「館山塩見温泉」は自家源泉なのだそうです。加水なしのかけ流し。泉質はナトリウム塩化物泉で、とてもあたたまります。

新鮮な海の幸と工夫を凝らした料理に大満足

刺身盛り合わせ

宿の居心地も良く、スタッフの対応も丁寧できびきびしていますが、それと同時に感動したのは、海の幸の数々です。上の写真は地元で獲れたお刺身の盛り合わせ。南房総の海で水揚げされた活きのよい地魚やあわび、伊勢えびを使った料理が自慢というだけあって、味はもちろん、盛り付けもキレイでした。

あわび焼

続いて大きなアワビ。新鮮で柔らかくたいへん美味でした。このほかにも太刀魚の南蛮漬け、ビーフシチューパイ、野菜の炊き合わせ、栗と金時豆のおこわなど、盛りだくさん。

デザート

〆のデザートも「海辺の小さなお菓子屋さん」と名付けられていて、ケーキやアイスクリーム、プリン、和菓子など5種類のうちから3種類を頂くことができるのです。ついつい食べ過ぎてしまいます。大満足でした。

朝食

そして翌朝。大満足は夕食だけではありませんでした。実は朝食もボリュームたっぷりなのです。

なめろう

朝食の献立表までありまして湯の花豆腐に、上の写真は郷土料理の“なめろう”、大きなサバ干物の焼物に大きな玉子焼き、さらには伊勢海老の味噌汁、そして下の写真の通り金目鯛の煮付けまで。

金目鯛煮付け

東京から90分ほどで訪ねることのできる南国リゾート。食事はパーフェクト、しかもスタッフのみなさんのホスピタリティ溢れる対応に大満足の宿だったのです。

海の湯宿 花しぶき
住所:千葉県館山市塩見233-4
電話:0470-29-0236
HP:http://hanashibuki.com/index.html

 

鋸山 日本寺
住所:千葉県安房郡鋸南町鋸山
電話:0470-55-1103
HP:http://www.nihonji.jp/index.html

[All Photos by Masato Abe]

PROFILE

阿部 真人

Masato Abe 還暦特派員

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

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