桜餅は、いつ、どこで生まれた?
そもそも「桜餅」と言ったら、どのような食べ物を思い浮かべますか? 実は「関東」と「関西」で桜餅のスタイルは大きく異なります。その理由として、桜餅には2つの異なる源流がある からだとされていますね。
関東の桜餅
桜餅の発祥は、『ブリタニカ国際大百科事典』(ブリタニカ・ジャパン)、『和・洋・中・エスニック 世界の料理がわかる辞典について』(講談社)、『世界大百科事典』(平凡社)、『日本大百科全書(ニッポニカ)』(小学館)など、いずれの事典にも同じ情報が掲載されているので、その由来は定まっていると思われます。
発祥の地は関西ではなく関東 で、舞台は現存する東京都墨田区の「長命寺」 になります。最寄り駅は東武鉄道曳舟駅。駅から首都高速道路の向島料金所の方に歩くと、長命寺というお寺があります。
今でも桜の名所として知られていますが、このお寺で江戸時代中期、門番をしていた山本新六という人が花見客に対し、土手の桜の葉を塩漬けにして餅を包み、売り始めました。
発祥の地:長命寺(東京都墨田区)
発祥のころ:享保二年(1717年)
考案者:山本新六
この餅が人気を博したため、新六はお寺の門前に和菓子店「山本や」をつくります。「長命寺桜もち 山本や」は今も創業の地にお店を構えていて、一年を通じ桜餅を販売しています。 まさに同店の桜餅が、日本における桜餅の発祥なのですね。
桜餅は東西で違う?東西の分かれ目はどこ?
ただ、この東京で生まれた桜餅にも、現在では「東日本」と「西日本」で違いが生まれています。
関西風の桜餅
例えばウェザーニューズ社が2015年3月に13,207人に行った調査によると、長命寺で生まれた東京風の桜餅は、関東、東北を中心に浸透しているものの、関西を中心とした他の地域では、関西風の桜餅が一般的 だといいます。
東京風(関東風)の桜餅と、関西風の桜餅の違いについては、おかべたかし著『くらべる東西』(東京書籍)でも扱われています。
東京風(関東風)は、クレープのように伸ばした小麦粉の生地の中にあんを包みます。 一方で、関西風は道明寺粉と呼ばれる米粉(水に浸して蒸したもち米を、干してから粗めにひいた食べ物)をまんじゅうのようにして、中にあんを包むスタイル となっています。
東京風(関東風):クレープのように伸ばした小麦粉の生地の中にあんを包む
関西風:道明寺粉(米粉)を饅頭のようにして中にあんを包む
どちらも桜の葉っぱで包む点は同じですが、ウェザーニューズ社の調査によると、関西風の歴史は長命寺と比べて新しく、1897年ごろが起源 になるとの話。京都で売りに出された桜餅の姿が、現在の関西風のスタイルになったともいわれています。
その関西風の桜餅が後発ながら全国に浸透し、現在では東京でも関東風、関西風の桜餅が共存しているといいます。関西風の桜餅は、今ではオリジナルの長命寺の桜もちスタイルをしのぐくらいの勢いに達しているのですね。
いつ食べる(売っている)スイーツなのか?
関東風の桜餅
この桜餅、具体的には1年のうちいつ食べられる(売っている)スイーツなのでしょうか。
「桜餅」というくらいですから、春が感じられる季節に流通が増えると考えられます。オリジナルである「長命寺桜もち 山本や」では、年間を通じて販売されていると先ほど紹介しましたが、ほかのお店の場合は、一般的にやはり春が主要な時期になります。
例えば、先ほど紹介した『くらべる東西』では、関西風の桜餅の取材として、「鶴屋八幡 大阪本店」を訪ねています。同店で桜餅が販売される時期は2~3月。桜の気配が始まって、桜が咲くころまでが一般的な販売時期 と考えられそうですね。
そもそも桜餅の葉は食べるもの?
桜餅と言えば、解決しておきたい大きな問題もあります。餅を巻いた桜の葉は、食べるべきなのでしょうか、それとも食べないのでしょうか。
桜並木
『くらべる東西』の著者は、桜餅の発祥のお店である「山本や」と「鶴屋八幡 大阪本店」に対して、「桜の葉は付けたまま食べるのか?」と聞いています。
その問いに対して、両店とも「お好みで」と答えたそうですから、正式な決まりはないみたいですね。ただ、「山本や」は「外して食べる」をおすすめし、「鶴屋八幡 大阪本店」は「1枚を外して、残りの1枚は残して食べる」と意見を出しています。
「山本や」も「鶴屋八幡 大阪本店」も、桜餅を2枚の葉っぱで包んでいます。1枚を外すか、2枚を外すかの違いなのですね。
ちなみに「山本や」の公式Webサイトには、桜餅を包んでいる葉についての問い合わせがもっとも多い と書かれていて、それにあわせて印象的なエピソードも紹介されています。
ある人が桜餅を葉(皮)ごと食べている姿を見て、その隣にいた人が「皮をむいて食べたほうがいいですよ」と言ったそうです。すると、言われたほうは「そうですか」と納得し、そのまま近くの「川」のほうを向いて食べたのだとか。
春の川と堤防の桜並木を眺めながら桜餅を食べれば、確かにおいしそうです。桜の餅の正しい食べ方は「川を向く」、覚えておきたいですね。
[参考]
※ 【桜餅】あなたは“関東風”? “関西風”? – ウェザーニュース ※ 長命寺桜もち 資料室「錦絵」 – 長命寺桜もち
[All photos by Shutterstock.com]
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
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