日本一は大分県「別府温泉郷」
「日本一の温泉」と言われると、どこを連想しますか? 関東の人は草津温泉でしょうか。関西の人は有馬温泉かもしれませんね。
あるいは、下呂温泉だとか、箱根温泉だとか、城崎温泉だとか、登別温泉だとか、山中・山城温泉だとか、指宿温泉だとか、日本一の定義が大変なので、人によって回答が異なるかもしれませんよね。
そのなかにあって、「日本一源泉数が多い温泉地」と言えば、答えは決まっています。大分県の「別府温泉郷」です。
別府温泉とは、
<別府湾に面する別府市中心市街地内の温泉>(『ブリタニカ国際大百科事典』より引用)
ですね。大分県とはそもそも九州の東側、福岡県の南、宮崎県の北にあります。瀬戸内海に面していて、四国の愛媛県と豊後水道を分け合っています。
その大分の東岸は海岸線が大きく湾入していて、その別府湾に面する火山麓扇状地の市街地に温泉地が集中しています。
別府温泉郷とは、この扇状地に発展した別府市にある温泉地です。日本温泉協会の2014年の資料によると、源泉数は2,217カ所とされています。
お隣の由布院温泉(大分)が879カ所で第2位、伊東温泉(静岡)が649カ所で第3位、熱海温泉(静岡)が522カ所で第4位、指宿温泉(鹿児島)が452カ所で第5位ですから、その数は突出しています。
九州を斜めに横切る一帯には火山が連なっている
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どうして別府温泉郷はこれほど源泉の数が多いのでしょうか。
地図を見ると、別府市の扇状地から、阿蘇くじゅう国立公園の山々、熊本平野、島原湾を挟んだ長崎の島原半島に向けて、九州を横切る一帯に数多くの火山が連なっていることがわかります。
地質調査所の『別府地域の地質』によると、この地域には、ほぼ並行する形で2つの断層があり、地盤が沈んでいるといいます。これら2つの断層(地溝帯)と火山活動が密接に影響し合い、地下数千メートルの場所に高温高圧の熱水だまりがいくつも存在しているのだとか。
豊富な雨水がこの熱水だまりに触れ、地表に噴き出す途中で地中のさまざまな成分を取り込んで、温泉水となって出てきます。
先ほどの『別府地域の地質』によると、別府の源泉は自噴(温泉水が自然に地表にわき出す源泉)だけでも702カ所あると書かれています。日本における地熱開発の最初の土地も別府でした。要するに、最初から別府は温泉大国のポテンシャルを持っていたのですね。
人々の熱心な掘削も発展の礎に
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このポテンシャルを活用して開発を進める動きも明治以降に盛り上がります。別府市の公式サイトによると、「上総掘り」という掘削技術が明治以降に進み、別府温泉は一気に発展したのだとか。
上総掘りは、
<上総地方で始まった井戸掘りの技術。割り竹を長く継いだ「へね竹」を数人で操作して掘削>(岩波書店『広辞苑』より引用)
ということで、明治の後期には、1,000カ所の掘削井があったとされています。
『別府地域の地質』によると、別府の源泉は自噴が702カ所、動力が2,039カ所とされています。合計で2,741カ所です。
日本温泉協会のまとめた源泉数と数に違いが見られますが、『別府地域の地質』は1988年(昭和63年)に発行されています。明治の後半から昭和の終わりまでの80年近くで、掘削が続いている様子も伝わってきます。
ちなみに、2,039カ所の動力とは、ポンプなどの動力装置を使って温泉を人がくみ上げている源泉を意味するそうです。日本一の源泉数を別府が誇る理由は、もともとの環境要因と、人々の熱心な開発があったからなのですね。
別府では、地中から噴き出す熱気や熱湯によってつくられた景観を「地獄」と呼び、観光名所化しています。別府市の扇状地の南北両縁近くに集中するこの「地獄」も、別府の豊かな地熱温泉活動を体感できる場所です。「日本一」の温泉・別府温泉郷を訪れてみてはいかがでしょうか。
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[参考]
※ 温泉データ – 別府市
※ 「温泉大国」日本! 温泉が多い“地理的”な理由とは? – NHK
※ 別府地域の地質
※ 第2章 自然環境