日本には「世界で最も短い」詩がある
詩というと、あるいは詩人というと、何を・誰を思い浮かべますか? 古今東西たくさんの詩人がいて、詩作にはげんでいます。その中で「世界で最も短い詩」といえば、どこの国の誰が書いた詩になると思いますか?
この点については、いろいろな意見があります。ヘビー級の元ボクシング世界チャンピオンであるモハメド・アリさんの詩を「世界で最も短い詩」と考える人もいるそうです。
ハーバード大学の学生2,000人を前にしたスピーチの終わりで、学生から「何かの詩を贈ってください」との声があり、しばしの沈黙があった後で「Me, we」という2語の詩を贈ったという話ですね。
ほかにも、Aram Saroyanさんというアメリカの詩人が書いた1語の詩「m(実際は4本脚のm)」だという説もあります。現在でこそ記録が確認できませんでしたが、ギネス世界記録にも「the world’s shortest poem(世界で最も短い詩)」として記録されていたとの話。
<it was cited in The Guinness Book of Records as the world’s shotest poem.>(『New Explorations in Indian English Poetry』より引用)
同じく1文字の詩としては、カナダ人の詩人であるJ. W. Curryさんが書いた「i」の詩もあります。この場合、「i」の上の点(スーパースクリプトドット)が、作者の親指の指紋になっています。文字の線の長短でいえば「m」よりも「i」の方が短いので、J. W. Curryさんの詩を世界最短と考える人もいるようです。
ただ、世界の人たちはまだ、もっと短い詩が日本にあるとは知らないみたいですね。草野心平さん(1903~1988年)の詩で、小学生のころに国語の教科書で筆者も習った記憶があります。作者の名前だけで思い出す人もいるのではないでしょうか。
冬眠中のカエルの心情を表現した詩
草野心平さんが書いた「世界一短い詩」のタイトルは「冬眠」です。このタイトルで、ピンときた人もいるかもしれません。
草野心平さんの「冬眠」の内容は1文字です。しかも、4本脚の「m」よりも、指紋を押した「i」よりも、線の長さも短いです。実際に引用してみましょう。
<●>(産経新聞に掲載された草野心平『冬眠』の引用)
冬眠中のカエルの心情を表現した詩で文字は、中黒の点「・」1つです。筆者が小学生だったころの担任の先生は、この詩の解釈を子どもたちにさせた上で総括するように「カエルの冬眠とはそれくらい、寂しい毎日なのかもしれないね」と国語の授業で解説してくれました。
その解説を語る先生の姿を、教室の雰囲気を、教科書の1ページに印刷された「●」と、その周囲に広がる広大な余白を、大人になった今でも覚えています。
そろそろカエルが冬眠から目覚めるころ。この「世界一短い詩」から感じられる世界は広大です。あらためてこの世界一短い(と思われる)詩を味わってみてはいかがですか?
[参考]
※ ぶっとんでる詩人、草野心平が「最下層」のカエルを愛でるわけ – 産経新聞
※ The World’s Shortest Poem and Muhammad Ali – Elevate Your Education
※ New Explorations in Indian English Poetry – Kanwar Dinesh Singh
※ Fireflies – one letter and one word poems – Brief Poems
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