
役目を終えたメトロカードが、アートとして再び注目の的に

ニューヨークの地下鉄を利用するうえで欠かせなかった、黄色いメトロカード。現在は、メトロカードという磁気カードから非接触決済であるOMNYに移行。その役割を終えました。
メトロカードが利用できる最終日には、ニューヨークで「メトロカードのお葬式」が有志で開催されるなど単なる交通手段としてではなく、多くの人の移動や日常を支えてきた象徴として、愛された存在。
そのメトロカードをアートという切り口で再解釈。そこには、都市の記憶や時代の変化までもが重なり、ひとつの文化として立ち上がってきます。
ドレスからモザイクまで、多彩な表現で広がる作品群

New York Transit Museum Gallery & Storeにある会場へ足を踏み入れると、かつて手のひらサイズだったカードが、まったく異なるスケールと表現で展示されていることに気づきます。
なかでも目を引くのが、実際のメトロカードを素材にして制作されたドレスです。何枚ものカードが丁寧に組み合わされ、質感や色の重なりが一着の作品として成立している様子は、素材の意外性も相まって強い印象を残します。
メトロ・ウェディングドレス
Metro-Wedding Dress, 2006
注目は、ジャーナリストのNina Vishneva(ニーナ・ヴィシュネヴァ) による作品。解説によると、「制作のきっかけは2005年のニューヨーク地下鉄・バスのストライキ(transit strike) の際、街中にあふれたメトロカードを収集し始めたことが、カードを使った衣服制作のアイデアの原点になった」と語っています。
その際に、彼女は多くのニューヨーク市民と同様に、「もしメトロカードが廃止され、使えなくなってしまったら、それらはどうなるのだろう?」 という疑問を抱きました。そこから「ファッションとして再構築(reimagined as fashion)」するというプロジェクトが生まれたんだとか。
後ろから見た図
スカートのディテールもすごい
水着デザイナーによるドレス

また他にも、本物のメトロカードを数百枚組み合わせて作られた豪華なドレスも。制作したのはGloria del Rio(グロリア・デル・リオ)。
解説パネルによると、制作者は水着デザイナーで、当時のMTAコミッショナーの協力を得て、エンコード(磁気情報入力)される前の未使用カードを使用して制作したそうです。黄色と青のメトロカードがスカート部分に幾重にも重なり、まるで羽や鱗のような質感を出しています。
機能的なブーツ
MTA seam up boot, 2004
有名デザイナーのケネス・コールがデザインしたブーツ。サイドに「メトロカードを収納するのにぴったりのサイズのポケット」が付いているのが特徴です。
ニューヨークでの思い出を込めた作品

また1つ目のドレスと同じNina Vishneva(ニーナ・ヴィシュネヴァ)が手がけた作品をもう1つ。解説によると、彼女にとってメトロカードは「命綱(Lifeline)」だったんだとか。パネルに記された彼女の言葉は、非常に感動的です。
“When I immigrated to NYC from Moscow in the mid-1990s, the MetroCard was more than a transit tool for me – it was my lifeline across languages, boroughs, and second chances.”
(1990年代半ばにモスクワからニューヨークに移住したとき、メトロカードは私にとって単なる移動手段以上の存在でした。それは言葉の壁や行政区を越え、そして私に与えられた『再起のチャンス』をつなぐ命綱(ライフライン)だったのです)
Nina Vishneva(ニーナ・ヴィシュネヴァ)
とあり、彼女にとってメトロカードは、見知らぬ土地での生活を切り拓くための鍵でした。英語が不自由であっても、この一枚のカードがあればどこへでも行ける。その安心感が、後のクリエイティブな活動の原動力となっています。その思いから出来上がったこのドレス。様々な想いが詰まってできた作品たちはメトロカードの歴史を感じることができます。
カバンにもメトロカードが
他の展示も興味深い!こんな使い方あり!?
Katz’s Delicatessen(カッツ・デリカテッセン)のアート

こちらは、アーティスト Juan Carlos Pinto(フアン・カルロス・ピント) による作品。彼はメトロカードを素材にしたコラージュで非常に有名で、この作品もその一環です。この作品でモチーフとしたのは、ニューヨークの下東側(Lower East Side)にある伝説的な老舗レストラン「Katz’s Delicatessen」。
壁面の茶色いレンガ部分や看板の文字、窓の反射に至るまで、すべて本物のメトロカードの断片を切り貼りして制作されています。特有の黄色と青のカラーリングを巧みに利用し、影や質感を表現しています。
作品の背景として、 カッツ・デリカテッセンは、映画『恋人たちの予感』の舞台としても知られるニューヨークのアイコンです。公共交通機関の象徴であるメトロカードを使って、街の食文化の象徴を描くことで、ニューヨークという都市のアイデンティティを多角的に表現した作品といえます。
こちらは、ニューヨークでも馴染みの深い景色で、広告などでも多く見かける作品でした。
コラージュ作品
他にも、Juan Carlos Pinto(フアン・カルロス・ピント)による、メトロカードの断片を細かく切り貼りして作られた動物のポートレートが展示されています。彼は10年以上メトロカードを使ったコラージュを制作しており、最近はプロスペクト・パーク(ブルックリン)に生息する鳥をテーマにしていることで、これらの作品が作成されました。
Owl, 2025

カードの文字や色の断片を使い、フクロウの鋭い眼光や羽の質感を表現しています。
Black Bird / European Starling, 2025

カードの黒い磁気ストライプ部分などを巧みに使い、鳥の黒い体を表現しています。背景には「MetroCard」のロゴが放射状に配置されています。
ニューヨークメトロで行われた過去の作品も!
MoschinoCard(モスキーノカード)
こちらはイタリアの高級ファッションブランド MOSCHINO(モスキーノ) が、ニューヨークに敬意を表して制作した特別な招待状とプロジェクトの記録も展示されていました。メトロカードのデザインをパロディした「MoschinoCard」の巨大な模型、下部は実際のファッションショーの招待状です。
2019年12月、モスキーノは2020年プレフォール・コレクションの会場として、ニューヨークメトロを選んだんだとか。そのため、招待状はメトロカードを模しており、有効期限(EXPIRES)の欄がショーの開催日(12/09/19)になっていたり、座席番号が「Car(車両番号)」や「Seat」で指定されていたりと、地下鉄のテーマが徹底されています。
観光の合間に立ち寄れる、無料の駅ナカスポット

この展覧会の魅力は、その気軽さにあります。有名観光地であり、移動のハブともなるグランド・セントラル・ターミナルの構内に展示。観光の合間や移動の途中でも立ち寄りやすいのが特徴です。
入場は無料で、時間や予算に制約がある旅行中でも無理なく予定に組み込むことができます。屋内施設のため天候に左右されにくく、短時間でもしっかり楽しめる点も見逃せません。定番の観光スポットを巡るなかで、少しだけ視点を変えた体験を加えたいときにちょうどいい場所といえそうです。
メトロカードモチーフのお土産も充実。旅の記憶を持ち帰る

展示を楽しんだあとにぜひ立ち寄りたいのが、同じスペースに併設されているNew York Transit Museum Grand Central Gallery & Storeです。ここではニューヨークの交通文化をテーマにしたグッズが数多くそろい、メトロカードをモチーフにしたアイテムも豊富に展開されています。

なかでも印象的なのは、あの黄色いメトロカードのデザインをそのまま再現したキーホルダーやチャームです。見た瞬間にニューヨークを思い出すアイコニックなデザインでありながら、コンパクトで持ち帰りやすく、価格も手頃なため気軽なお土産として選びやすい存在。
実際に使われていたカードの雰囲気が忠実に再現されているため、単なる記念品というよりも“街の一部を持ち帰る”ような感覚に近いかもしれません。

さらに店内には、地下鉄マップをあしらったトートバッグや、路線図デザインのステーショナリー、車両モチーフの雑貨なども並びます。どれも日常使いしやすいアイテムが多く、帰国後もふとした瞬間に旅の記憶を呼び起こしてくれるような存在です。
デザインはポップでありながらも実用的で、ニューヨークらしい合理性と遊び心が共存しています。中でも気になったアイテムをご紹介!
トートバッグ
MetroCard Totebag 36.00ドル
メトロカードをおしゃれにファッションに昇華したアイテム。PVC素材で、雨の日も安心して使えます。他と絶対被らないアイテムで、思い出にどうでしょうか?
クリスマス時期の定番「オーナメント」
MetroCard Ornament 49.95ドル
メトロカードを模したクリスマスのオーナメントです。ニューヨークの家庭では、クリスマスツリーにその年に行った場所や思い出の品を飾る習慣があります。クリスマスの飾りだけでなく、キーホルダーやインテリアにも好まれるアイテムです。
地下鉄路線モチーフの「A/C/E キャップ」
Adult A Train Baseball Hat 28.00ドル、Kids A Train Baseball Hat 24.00ドル
可愛い!と思ったのは、地下鉄の各路線(A、C、E線)のカラーとロゴをあしらったキャップです。青いロゴのA/C/E線は、マンハッタンの西側(8番街)を走る主要路線で、利用する人も多いのでは?
この路線だけでなく、他の路線のキャップもあったので、思い入れのある路線のものをお土産にするのもおすすめです。また、「NY」という直接的なロゴよりも、地元の人にしか分からない「路線の円形アイコン(Bullet)」が、さりげないおしゃれさを演出します。

ちなみにオンラインサイトでもグッズを確認することができます。
https://www.nytransitmuseumstore.com
開催は2026年10月まで。今だけの期間限定スポット

展覧会「Inspired by MetroCard」は、2026年10月までの期間限定で開催されています。常設展示ではないため、このタイミングでしか体験できない点も魅力のひとつです。交通システムの変化という時代の節目と重なり、展示そのものが都市の移り変わりを象徴しているようにも感じられます。
これまで当たり前に使われてきたものが新しい価値を持つ瞬間に立ち会えるという意味でも、ニューヨークの“今”を知るきっかけになるはず。さらにNYトランジット博物館の公式ショップは、鉄道ファンだけでなく、ニューヨークらしいセンスのよいお土産を探している方にぴったりのスポットです。
アートとしての面白さを楽しみながら、その裏側にあるストーリーにも思いを巡らせてみると、これまでとは少し違った視点でニューヨークの街が見えてくるかもしれません。
所在地 89 E 42nd St, New York, NY 10001 アメリカ合衆国
入場無料
営業時間
月〜金 10:00~19:30
土、日 10:00~18:00
※マーティン・ルーサー・キング・ジュニア・デー、プレジデンツ・デー、メモリアル・デー、ジューンティーンス、レイバー・デー、コロンブス・デー、サンクスギビング・デー、クリスマス、元旦は休業です。
※情報は執筆時点のものとなります。最新情報は公式サイトなどでご確認ください。
©︎Keiko Morota


