
「シワ」と「服」の対比に込めたもの

今回の父の日キャンペーンのタイトルは、英語で「Wrinkles aren’t inherited. Clothes are.(シワは受け継がれない。服は受け継がれる。)」。キャンペーンのなかでは、これに続くメッセージとして、次の一文が示されています。
他人の失敗から学ぶことはできない。自分自身で経験しなければならない。
ここでいう「Wrinkles(シワ)」は、年齢や見た目の話にとどまりません。失敗や選択、喜びや喪失といった人生の積み重ねによって刻まれる“時間の跡”を象徴しています。
その経験値は、誰かから譲り受けることはできない。親の人生を聞くことはできても、そのまま自分のものにはならない──そんな当たり前の事実を、あえて正面から見つめているのがこのコピーです。
一方で、「Clothes(服)」は受け継ぐことができます。父が長年袖を通してきたブレザーは、息子に譲り渡されることで、新しいスタイルと物語をまといます。着る人が変わり、場所が変わり、時代が変わっても、そこには確かに「同じ一着」が存在し続ける。その一着に宿る記憶や感情こそが、アドルフォ・ドミンゲスの捉える“服の価値”です。
ブレザーは「感情の遺産」

アドルフォ・ドミンゲスは、ブレザーをこう位置づけます。
身にまとうだけのものではなく、受け取り、着こなしを変え、次の世代が新たな物語を紡いでいく「感情の遺産」。
そこで起用されたのが、病院長のジョアン・マルティ・ラミスと、その息子でモデルのジャウメ・マルティ・モレル。実の父と息子が、一着のブレザーを介して世代間のつながりを体現する構図です。

父が仕事や人生の節目とともに着てきたブレザーは、息子に渡ることで意味を更新していきます。袖口の擦れ、ポケットのわずかな膨らみ、裏地に残る香り──そうした細部に、着ていた人の時間が凝縮されています。その時間をそのまま受け継ぐことはできないけれど、その時間を共にしてきた服を受け継ぐことで、物語の一部を共有することができるのかもしれません。
ファッションを「文化」として捉える視点

ファッションを「一過性のトレンド」ではなく、「記憶」「アイデンティティ」「受け継がれる価値」を宿すものとして捉えたとしたら?
服は、単に身体を覆うものでも、季節ごとに消費されるモノでもなく、「個人の物語」と「家族の記憶」が折り重なった、小さな文化だという視点です。
父から受け継いだブレザーを、息子が違うコーディネートで着る。その行為そのものが、「家族の文化」を継ぎながら、「自分らしさ」を加えていく表現になっています。
ここには、「受け継ぐこと」と「自由に着こなすこと」が矛盾せずに共存しています。
前の世代が大切にしてきた一着を尊重しつつ、自分の感性で組み合わせを変え、場面を選び、着方を変える。服を通して、文化を継ぎながら、自分の自由なスタイルを切り開いていくことを後押ししているのが、このブランドのコミュニケーションです。
サステナビリティと「長く着る自由」
この“受け継がれる服”という視点は、ブランドのサステナビリティの取り組みにも直結しています。
世界54か国、379店舗というグローバルな規模で展開するアドルフォ・ドミンゲスは、社会・環境への配慮を評価される B Corp認証 を取得。
過剰な消費ではなく、「長く着続けられる服づくり」を通じて、衣服との豊かな関係性を提案しています。
「長く着る服」は、我慢して着続ける服ではありません。むしろ、時間をかけて少しずつ体になじみ、自分らしい着方が積み重なっていくことで、「長く着たい」と思える服になっていく。その延長線上に、「誰かに譲りたい」と思える瞬間が生まれる。そうしたプロセスを支えることが、アドルフォ・ドミンゲスの考えるサステナブルなファッションです。
父のジャケットを譲り受けて着ること。
あるいは、自分が選んだ一着を、いつか誰かに渡すこと。
服を通して、家族の文化を受け継ぎながら、自分の自由なスタイルを紡いでいく──そんな生き方のヒントが、このブランドの哲学の中に静かに息づいているように感じられます。
