
日本三名城のひとつ「熊本城」

1607年、加藤清正によって築かれた「熊本城」。別名「銀杏城」として愛される熊本のシンボルです。反りのある石垣(武者返し)や巧妙な縄張りなど、独特な築城技術が特徴の難攻不落の名城です。

清正が50歳で没した後、1632年には加藤家が改易されて細川忠利が熊本藩主として入城。城下町の整備が進み文化や教育が発展し、明治の西南戦争を経て現代まで歴史を紡いできました。
熊本城の復旧状況(2026年時点)
2016年の熊本地震では、石垣の崩落、櫓の倒壊、天守閣の瓦落下など被害を受け、熊本県民は心を痛めました。震災から10年、2052年を目標に復旧作業は今も続いています。
国指定重要文化財「長塀」
熊本城の中心部から外側へ向かって少しずつ復旧が進行中。被害を受けた33棟の建造物(重要文化財建造物13棟、復元・再建建造物20棟)は、2021年には、外堀の坪井川沿いに242m続く「長塀(国指定重要文化財)」と「天守閣」、2023年には北側の重要文化財の1つ「監物櫓(新堀櫓)」の3棟が完全復旧(2026年5月現在)。

残る30棟の建造物のうち、現在6棟の工事が進行しています。この復旧作業を機に行われる文化財の調査では、新たな発見もあるのだそうです。
特別見学通路を歩いてみよう
熊本城跡マップより(「特別見学通路」青い線:南ルート/赤い線:北ルート・土日祝限定公開)
2020年からは、復旧作業中の熊本城を見学できる「特別見学通路」(南ルート:写真の青い線)が開通しています。
*北ルート:写真の赤い線は土日祝限定で公開。

熊本城は特別史跡内に位置し、地中や地表面に多くの遺構が存在するため、掘削や樹木の伐根は困難。そのため、”埋めこむ”のではなく“置き型”の基礎を使った通路となっています。

地上6mの高さからの見学では、すべての景観が大迫力! こうした復旧中の現場を見られるのも今だけです。
石垣の修復

「石垣」の修復の基本は、“被災した石垣を元の状態に戻す”こと。熊本城は石垣の石一つ一つが文化財であるため、測量によって崩落・変状した石垣の石材の位置を記録し、昔の写真や図面と照合しながら石材の元の位置を特定しています。

写真手前のコンクリートのように見える部分は、実はフェルト材の上にモルタル(砂、セメント、水を混ぜた建築材料)を吹きつけたもの。これらで石垣を仮に保護し、積み直しの作業のときは外しています。このように、“石垣を解体して、元の位置に石を積み直す”という作業が慎重に繰り返されているのです。
数寄屋丸二階御広間

能や茶会、歌会、接客の場として使われていた格式高い「数寄屋丸二階御広間」。地震では石垣が一部崩れ、建物が歪む被害を受けました。

石垣の中央にある“オレンジ色のハート形をした石”も見学通路からだと近くで確認できます。
二様の石垣

時代によって積み方が異なる2つの石垣が並んでいる「二様の石垣」。熊本城の石垣のうち、“はじめは緩やかに立ち上がり上へ行くほど反り立つ形状”のものは「武者返し」とも呼ばれていて、ここでは築城技術と時代の変遷を同時に学べます。
二様の石垣(黒色:加藤清正時代の重箱積み/白色:加藤忠広時代の算木積み)
(手前・黒色)加藤清正時代の石垣の隅石は「重箱積み」。角石は同じ大きさでそろえて積まれており、勾配は緩やかです。
(奥・白色)加藤清正の息子・加藤忠広時代の石垣の隅石は「算木積み」。「重箱積み」より新しい技術で、長い石と短い石を交互に組み合わせて積むことで、強度が高く美しく整った仕上がりに。下部は緩やかで上部ほど反り返る構造で、垂直に近い急勾配を生みだしています。

石垣の内部には小さな“栗石(ぐりいし)”が詰められています。地震が起きると石垣全体が揺さぶられ栗石が沈み込み、外側の築石を前に押し出すことでふくらみなどの変形(はらみ)が多くの箇所で生じました。

この地震によって生じた「はらみ」を見ることで、熊本地震の揺れの大きさを改めて実感できます。
連続枡形

巧妙な防御構造をほこる「連続枡形」では、攻め入ってきた敵兵を撃退するための防御構造「枡形」が6つも連続しています。

通路では、侵入者は上からの投石や矢によって攻撃を受けます。さらに、階段の段差が不揃いでリズムよく上がれず、階段の先が途切れていたりと、侵入者の動きを徹底的に遅らせる構造に。熊本城が「難攻不落の城」と呼ばれる理由がよくわかります。
四間櫓・十四間櫓・七間櫓・田子櫓・源之進櫓(東竹の丸に位置する櫓群)

本丸の南東側に連なるのは、重要文化財櫓群の「四間櫓・七間櫓・十四間櫓・田子櫓・源之進櫓」。地震の影響で多くの櫓が損傷し、現在も復旧工事が進められています。
再利用できるか瓦を確認している様子
「瓦」は1枚ずつ叩いて状態を確認し使えるものは再利用され、傷んだ「木材」も部分的に切り継ぎして補修されています。
壁土を発酵している様子
藁を練り込んだ土を半年以上発酵させ、粘りのある良質な「壁土」が作られています。「漆喰」も海藻を炊いて貝灰などを混ぜて仕上げたりと、昔ながらの方法で作られています。伝統的な技法が職人の技の継承に繋がっているのです。
本丸御殿大広間(闇り通路)
本丸御殿大広間(闇り通路)
築城400年に合わせて復元された「本丸御殿大広間」。江戸時代には、本丸御殿の床下の地下通路「闇り(くらがり)通路」を抜けて中央付近の階段を上がって御殿の1階に入り、部屋の中を巡って天守へ向かうのが正式ルートで、実際は真っ暗なのだそうです。敵の侵入を警戒する緊張感が伝わってきます!
大銀杏と天守閣

天守閣の前には、加藤清正が植えたと伝わる大銀杏(大イチョウ)がそびえています。西南戦争の火災で焼けたものの、脇芽が大きく育ち、現在も入園者を魅了しています。

(左)大天守が加藤清正、(右)小天守が息子・加藤忠広の時代に完成し、西南戦争直前に天守閣と本丸御殿は焼失しました。その後、市民の寄附(瓦募金)と、熊本証券金融会社の松崎吉次郎氏による5,000万円(現在の約10億円相当)の寄附によって鉄骨鉄筋コンクリート造で再建。

今回の熊本地震によって外周部が沈み、石垣の一部が崩れてしまいました。特に小天守側の石垣の被害が大きく、復旧工事では建物を石垣から構造的に分離させることで、石垣が再び崩れても天守閣が沈下しないように被害を最小限にとどめる工夫がされています。
国の重要文化財「宇土櫓」

天守閣の西に建つ「宇土櫓」は、櫓に連結している平屋(一部2階建て)の続櫓も含め、国の重要文化財です。

熊本城で唯一、江戸時代の姿をそのまま残す多重櫓(3重5階・地下1階)で、天守に匹敵する風格があることから「第三の天守」とも呼ばれています。現在は解体され、2032年度の復旧完了を目指しています。
天守閣(大天守・小天守)内部見学

2021年3月に完全復旧した天守閣は地階から6階まで見学可能です。じっくり見学すると半日くらいかかるほど、古写真、出土品、模型、城下町の古地図やジオラマなど展示と映像資料が充実しています!

小天守の地下部分にあたる地階「穴蔵」では、石垣や井戸など江戸時代の遺構がそのまま残っており当時の雰囲気を体感できます。
視覚障害のある方も触って構造を理解できる触知展示
1階(加藤時代)では、天守閣の石垣の解説、大型模型や触知模型などで天守のつくりやデザインが学べます。中でも、天守内に復元された「空中雪隠(トイレ)」が外国人観光客の方を驚かせているようです。

2階(細川時代)には、細川家による城の整備や文化の発展、熊本にまつわる逸話などの展示、3階(近代)では、西南戦争での焼失、1889年の熊本地震、1960年の天守再建などが展示されています。
4階(現代)では、昭和から平成の修理・復元の歴史、2016年熊本地震の被害と復旧の様子のほか、1万円以上の寄附で誰でも城主になれる「復興城主」の寄附者名を映すデジタル芳名板も設置されています。
平成28年度から令和6年度末までの間に総額約63.1億円の寄附が集まり、熊本県出身や熊本にゆかりのある著名人からもメッセージが多く寄せられています。

5階の通路を抜けた6階の展望フロアには、熊本市街と阿蘇の山並みを360度見渡せる絶景が広がっています!
復旧に携わる職人の技術を体験

訪れたこの日は、熊本城を舞台に春と秋に開催される「くまもとお城まつり」が開催されており、筆者も熊本城の復旧工事をテーマにした「石垣修理体験」に参加してきました!

「石曳き体験」は開始時刻と同時に体験希望者の列ができるほど盛況! 丸太で道を作り、重さ2トンの石に綱を巻いてみなで引いて運ぶという昔ながらの方法を再現しています。

実際は坂道があったりするので、石の後ろにも引き手がいて前後でバランスをとりながら運んでいたのだそう。

熟練の石工職人による迫力の「石割実演」。入園者も小さな石を割る体験ができました。

“セリ矢”と呼ばれる石割の道具を金槌で打ち込んだときには、セリ矢の沈み具合や、セリ矢を打つ音の違いで石が割れていく感覚に感動しました!

レプリカの石を使って下段から順に石垣を積んでいく「石積み体験」。手前で石を積む人と、反対側で石を固定する人の連携がとても重要であることを感じました。

復旧工事で使用される作業車に乗る「クレーン車乗車体験」。高さ約10mの作業視点で、天守閣の瓦の模様がわかるほど大接近!

地震の被害で建物の瓦が散らばっている様子を目の当たりにしたときは震災の衝撃を改めて痛感しました。
職人さんの視点で体験できる貴重な石垣修理体験。このために横浜など県外から訪れる人も多く、外国人観光客にも好評の様子でした!
公式サイト:https://kumamoto-guide.jp/oshiromatsuri/
撮影スポット・お土産・イベントなど
せっかくなので、熊本城の周辺の観光情報もお伝えします!

熊本城の南東に建つ「熊本市役所」14階展望ロビー(無料)からも熊本城を一望できます!

熊本城の近くには「熊本博物館」「加藤神社」「熊本稲荷神社」など散策・撮影スポットが点在しています。

特別見学通路の入口(南口券売所)近くには熊本のお土産やグルメが集まる「桜の馬場 城彩苑」があり、こちらは休憩にもぴったり。
熊本地震から10年目ということで例年以上にイベントが予定されていますが、日常で活躍する「熊本城おもてなし武将隊」の活動も要チェック!
熊本にゆかりのある大名や家臣たちが武将隊として甦り、“開門口上(9:00〜/平日:南口券売所前、土日祝:北口前)、演舞(11:30〜/城彩苑にて、14:30〜/熊本城 天守閣前広場にて)”を毎日披露しています。毎日見に来るファンもいるほど人気で、武将隊の“推し活”を楽しむ人も増えているそう!
熊本城に寄せられている声
震災以降、熊本城には「熊本城は日本の宝。職人さんの技術に感動した。復興への努力に心を打たれた」など、県外・海外から温かい声援が数多く寄せられています。

熊本城関連のイベントでは、石垣修理に使われる「栗石」にイラストやメッセージを描く体験コーナーが設けられることもあります。復興への願いが描かれた栗石は石垣修復に使用され、SNSでもその様子が発信されているのでイベントで見かけたら参加してみるとよいでしょう!

復旧工事に携わる職人さんは「熊本の方はとにかく心が熱い。『熊本城をどうかお願いします!』と声をかけられ、期待に応える責任を強く感じますね」と語り、みなさんの士気の高さが伝わってきました。

熊本地震から10年。改めて防災を意識すると同時に、この復興の過程を見られるのは、まさにこの時代を生きる私たちだけ。多くの人々に見守られ、職人たちの技術と熱意によって熊本城は静かに着実に再生へと歩み続けています。
住所:熊本県熊本市中央区本丸1₋1
(敷地内の公園は無料)
交通:熊本駅から熊本城周遊バス「しろめぐりん」に乗車し約30分、熊本駅から市電に乗車し(約17分)「熊本城・市役所前」下車し徒歩約10分、熊本駅から路線バスに乗車し(約10分)「桜町バスターミナル」下車し徒歩約10分、阿蘇熊本空港から空港リムジンバスに乗車し(約50分)「桜町バスターミナル」下車し徒歩約10分
*熊本城周遊バス「しろめぐりん」熊本駅から熊本城とその周辺の施設を巡るバス(各施設の割引券付き)
*無料シャトルバス
運行区間:桜の馬場 城彩苑〜南口前〜二の丸駐車場
運行時間:9:00〜17:00まで(10~15分間隔で運行)
公式サイト:https://castle.kumamoto-guide.jp/
公式Instagram:@kumamoto_castle
公式X(旧Twitter):@kumamoto_castle
「熊本城特別公開」有料エリア
開園時間:9月〜6月 9:00〜17:00(最終入園16:00、天守閣最終登閣は16:30まで)/7月〜8月 9:00〜19:00(最終入園18:00、天守閣最終登閣は18:30まで)
休園日:12月29日
券売所:南口券売所、二の丸券売所、わくわく座券売所、北口券売所(土・日・祝のみ)
入園料:高校生以上800円、小・中学生300円、未就学児無料
年間入園券(1年間):高校生以上1,600円 (小中学生以下の販売はなし)
*熊本市内に在学する小中学生、身体障がい者手帳などの交付を受けている方、熊本市内在住の65歳以上の方は入園料免除。
*イベント等により開園時間が延長する場合あり。
*平日は南口からの入退園のみ。土・日・祝は北口・南口どちらからでも入退園可能。
*工事の進捗状況等により北口の入退園ができない場合、荒天などにより休園する場合あり。
*入園券は転売不可
*WEBにて入園券 (電子チケット) の事前購入が可能(購入後のキャンセル・日時の変更・払い戻しは不可)
(有料エリア・天守閣での注意事項)
*混雑時、カメラの三脚や自撮り棒の使用はお控えください。
*天守閣内での三脚、自撮り棒の使用不可。
*有料エリアへのペット連れの際は、屋外(天守閣以外)に限り「顔が出ないケージ」に入れた状態は入園可能(介助犬の同伴は可能)。
*有料エリア内での食事は不可、蓋つきの飲み物に限り使用可能。
*電動アシスト付き車いすの無料貸出あり(同伴者必要・雨天時利用不可・予約不可)。
*ベビーカーは使用可能、電動カート・チャイルドカート・乗用カート・模造刀について有料エリアでの使用不可。
*天守閣内の「思いやりエレベーター」は、車椅子・ベビーカー利用者(介添者含む)・階段の利用が困難な方のみ。
*天守閣内には撮影禁止の展示物や映像あり。写真・動画撮影は個人の記録用のみ可能(展示物の2次利用、SNSなどでの写真・動画の投稿や配信はご遠慮ください)。
*天守閣内はキャスター付き荷物の持ち込みは不可。大型荷物は、二の丸のお休み処や城彩苑の観光案内所前のコインロッカーをご利用ください。
入園・観覧・団体に関する問い合わせ:熊本城運営センター
TEL:096-223-5011(受付9:00〜17:00)
メール:kumamoto-castle@knt1.net
その他の問い合わせ:熊本城総合事務所
TEL:096-352-5900(受付8:30〜17:15/土日祝日を除く)
メール:kumamotojou@city.kumamoto.lg.jp
[all photos by kurisencho]
