松本本箱の本棚 ©JIYUJIN
本と出会う、2つの宿
箱根・強羅にある「箱根本箱」と、長野県松本市・浅間温泉にある「松本十帖」。どちらも株式会社自遊人が手がける宿泊施設で、本、温泉、食、その土地ならではの文化を組み合わせた滞在を楽しめます。自遊人は、雑誌の出版から始まり、現在は宿やホテルを「リアルなメディア」と捉え、地域の魅力や新しい価値観を体験として伝えている会社です。
箱根本箱は2018年に開業したブックホテル。約1万2,000冊を所蔵し、「本との出会い」「本のある暮らし」をテーマにしています。一方、2022年にグランドオープンした松本十帖は、老舗旅館「小柳」の再生から始まったエリアリノベーションプロジェクト。宿泊施設「松本本箱」「小柳」に加え、約1万冊の本が並ぶブックストアやベーカリー、レストラン、カフェなど複数の施設から構成されています。
どちらも「本のある宿」「地域文化を重視した宿」という点ではよく似ていますが、実際に泊まってみると、本との出会い方も、館内での過ごし方も、旅全体の楽しみ方もかなり違いました。各宿泊サイトの口コミでも、箱根本箱は館内で読書や食事に没頭する時間が、松本十帖は温泉街を含めた滞在そのものを楽しめる点が、それぞれ評価されています。
本好き目線で比べる2つの宿
松本十帖「Book store 松本本箱」げんせん本箱 ©JIYUJIN
本好きとして気になるのが、館内にどんな本が、どのように並んでいるのかという点です。
松本十帖は、本と出会うホテル
松本十帖で印象的だったのは、本との出会いが館内全体に広がっていること。「松本本箱」のブックストアには、「本の道」「げんせん本箱」「オトナ本箱」「こども本箱」「三六七(367)」など、テーマの異なる5つのエリアがあります。
松本十帖「Book store 松本本箱」本の道 ©JIYUJIN
話題の新刊から絵本までジャンルも幅広く、棚を眺めているだけでも気になる一冊が見つかります。さらに、廊下や客室にも本が並び、館内を巡るたびに新しい本と出会えるのが魅力でした。
箱根本箱は、本に浸るホテル
箱根本箱 ラウンジ ©fumi
一方、箱根本箱でまず目を引くのは、メインラウンジを埋め尽くす大きな本棚です。壁一面に本が並ぶ光景は圧巻で、その中から気になる一冊を選び、ラウンジで腰を落ち着けて読む時間を楽しめます。廊下や客室にも本が置かれており、滞在中は自然と本が身近にある環境です。
実際に泊まってみると、同じ「本の宿」でも楽しみ方には違いを感じました。箱根本箱は、大きな本棚を中心に一冊を選んでじっくり読む場所。松本十帖は、館内を巡りながら次々と気になる本を見つけていく場所。じっくり読書に浸りたいなら箱根本箱、本との偶然の出会いを楽しみたいなら松本十帖、という違いがありました。
宿泊料金はどちらも2人で7万〜9万円台が目安
気になる宿泊料金も比較してみましょう。2026年9月時点では、2人1室・夕朝食付きの場合、箱根本箱は7万円台から、松本十帖の「松本本箱」は8万円台からのプランが見つかります。筆者が宿泊したようなツインルームで比べても、極端に大きな価格差があるわけではありません。どちらも客室露天風呂と夕朝食が付くため、2人で8万円前後をひとつの目安にしておくとよさそうです。
ただし、宿泊日や客室、予約プランによって料金は大きく変わります。週末や連休には10万円を超える日もあるため、実際の料金は予約時に公式サイトで確認してください。
客室露天風呂や食事はどちらも大満足! でも雰囲気に違いも
松本十帖 露天風呂付きデザイナーズツイン ©JIYUJIN
客室については、どちらも全客室に露天風呂付き。大浴場へ移動する必要がなく、好きなタイミングで温泉に入れるのは、本を読む時間をできるだけ長く取りたい人にも、うれしいポイントです。
客室の広さや露天風呂については、宿泊した部屋同士(オーソドックスなツインルーム)では大きな差を感じませんでした。全体の雰囲気は少し異なり、松本本箱はブラックを基調としたシックで落ち着いた印象。
箱根本箱 Room TYPE5:2階 グリーンビュー・ツイン ©JIYUJIN
箱根本箱は全体的に明るく、温かい雰囲気を感じました。
両方のホテルで印象に残ったのが、無料で楽しめる飲み物の充実ぶり。
箱根本箱では、無料でコーヒーやフレーバーティー、ビールなどを楽しむことができます。松本十帖でも、客室のタンブラーを使って無料のコーヒーを楽しめるほか、本箱Barではお酒も楽しめます。
滞在中に「ちょっと飲み物を取りに行こう」「別の本棚を見に行こう」と館内を歩き回ること自体が楽しく感じられました。
滞在中の大きな楽しみとも言える食事はどうでしょうか。食事はどちらも、その土地ならではの食文化を大切にしています。
箱根本箱 ディナー「東海道ガストロノミー」 ©JIYUJIN
箱根本箱では、東海道を中心とした歴史や食文化を料理に落とし込んだローカルガストロノミーを。松本十帖では、信州の食材や食文化を生かした料理を味わえます。どちらも、その土地まで来て食べる意味を感じられるメニューでした。
松本本箱 レストラン367 ©JIYUJIN
個人的には松本十帖の料理がより好みでしたが、味以上に違いを感じたのはレストランの雰囲気。箱根本箱では、オープンなレストラン空間でカウンターを囲むように食事をするスタイル。一人旅だったため少し周囲が気になりましたが、カウンターからマイクで料理や食材の説明のある唯一無二の体験を味わえます。松本十帖にはカウンターだけでなくテーブル席もあり、周囲にはもちろん本棚も。料理を待つ間に本を手に取れるなど、食事の時間まで「本のホテル」にいる感覚を味わえました。
「ホテルに泊まる」箱根、「温泉街ごと楽しむ」松本
両方に泊まって最も大きな違いを感じたのが、一日の過ごし方です。箱根本箱は、ホテル内にこもるのにぴったりなホテルです。
箱根本箱 本箱シアター ©JIYUJIN
箱根本箱では、ホテルに着いたら、そのまま外に出なくても十分。本を読んで、客室の露天風呂に入り、食事をして、また本を読む。地下にはショートフィルムを楽しめる「本箱シアター」もあり、読書の合間に映画を見るという過ごし方もできます。周辺観光を詰め込むより、チェックインからチェックアウトまでホテルにこもって過ごしたくなる宿です。
松本十帖 おやきとコーヒー ©JIYUJIN
一方、松本十帖は街を歩くことも滞在の一部。チェックインから少し変わっていて、まず向かうのはホテルではなくカフェ「おやきと、コーヒー」。おやきを食べながらチェックインを済ませ、そこから宿へ向かいます。ショップなども点在しているので、ホテルの中だけで過ごすというより、浅間温泉の街を行ったり来たりしながら楽しめます。温泉街そのものまでホテルの一部になったような滞在を味わえるのです。
結局どっち?筆者のおすすめは初めてなら箱根、もう一度なら松本
ここまで2つの宿泊施設を紹介してきましたが、結局どちらに泊まるのがいいのでしょうか。
ホテルからあまり出ず、静かに本を読みたい。明るく高級ホテルらしい空間が好き。東京から気軽にブックホテルへ行ってみたい。そんな人には箱根本箱が合いそうです。対して、とにかくいろいろな本と出会いたい。本だけでなく食や街歩きも楽しみたい。ホテルの中を探検するように過ごしたい。そんな人なら松本十帖がピッタリです。
松本十帖 哲学と甘いもの ©JIYUJIN
でも、両方に泊まった今、「もう一度どちらかへ」と聞かれたら、筆者が選ぶのは松本十帖です。本を読むこと自体は、もちろんどちらでもできます。それ以上に松本十帖では、歩いた先で、知らなかった本や場所に出会える時間が楽しかったのです。
今日は一冊の本と静かに過ごしたいのか。それとも、まだ知らない本や街を探しに行きたいのか。そんな基準で選んでみると、次に泊まりたい宿が見えてくるかもしれません。
