日本でメキシコの音楽といえば、ユネスコの世界無形文化遺産に登録されている伝統音楽マリアッチくらいしか知られていないでしょう。
誰かにも「メキシコの音楽って、大きな帽子を被ったひげのおじさんが、ドンタコス!とか歌ってそうな感じ?」と言われたこともあります(ちなみに、そんな音楽はありません。帽子を被ったひげのおじさんはたくさん居ますが)。
広いメキシコには、各地にさまざまな伝統音楽もありますが、それだけではなく、ロック、テクノ、レゲエ、ジャズなどの音楽もたくさんあるのです。
そんなメキシコのエレクトロニックミュージックを世界に知らしめ、現代音楽、ジャズ、クラシックと果敢にコラボレーションするアーティストがMURCOF(スペイン語発音はムルコフ。英語発音はマーコフ)。
現代音楽やクラシックといえば難解と思われがちですが、その音響世界は、クールでありながらも、まさに、宇宙にいるとも胎内にいるともとれるような温かい世界なのです。
MURCOFことフェルナンド・コロナは、1970年にアメリカとの国境にある、メキシコのバハ・カリフォルニア州の都市、ティファナで生まれ、同州のエンセナーダで育ちました。1990年代終わりから2000年代初頭に世界的に注目されたティファナの革新的なアート、カルチャーの前衛ムーヴメント、ノルテックの音楽部門、ノルテック・コレクティヴの一員、Terrestre(テレストレ)として活動。
2001年よりソロ・プロジェクト、MURCOFを始動し、2006年にはスペインへ移住。現在はヨーロッパを中心に活躍しています。
彼の音にはわかりやすいメキシコらしさはありませんが、明らかに、砂漠、海、荒野、国境に並ぶ工場地帯といったメキシコとアメリカの国境にある都市の風景が刻みこまれている気がします。
MURCOFの2002年デビューアルバム『MARTES』収録の曲、MEMORIA(記憶)
近年では、フランスのジャズ・トランぺッター、エリック・トラファズとイギリスのタブラ奏者タルヴィン・シンとともに世界ツアーを行ったり、ルクセンブルグの若手クラシックピアニストで、テクノの曲も演奏するフランチェスコ・トリスターノ・シュリメやフランスのビジュアルアーティスト、AntiVJとコラボレーションするなど、電子音楽の可能性を広げています。
ブルーノートからリリースされた、エリック・トラファズとMURCOFの共演アルバム『MEXICO』
MURCOFのアルバム『COSMOS』。タイトルどおり、まさに宇宙的な世界の音楽
MURCOF、エリック・トラファズ、タルヴィン・シンのユニットが、2006年のモントルージャズフェスティバルで演奏した時の映像
フランスのAntiVjとのコラボレーションの様子。とにかく口をあんぐりするほど、スゴい!
メキシコの電子音楽を体験する貴重な機会、MURCOFが来日
そんなMURCOFの待望の初来日公演が間もなく行われます。
フランス発、クラシックの革新的フェスティバルとして、今年で10年目を迎える『ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン』内の公演では、5月3日にフランスのクラシックピアニスト、ヴァネッサ・ワーグナーと共演し、ケージやグラスら現代音楽の巨匠の曲目を演奏。5月4日は”Beyond the Retrospective”と題し、ミニマルテクノからダークアンビエントまでこれまでの集大成ともいえるソロ・コンサートを開催。
ピアニスト、ヴァネッサ・ワーグナーとMURCOFが2013年8月にフランスで公演したときの映像。
また5月9日は、2004年より新潟を拠点にアートや音楽のイベントを開催してきた、red rice riot!主催のライヴが控えています。
メキシコの新鋭アーティストが来日すること自体が、ものすごく珍しいことです。
MURCOFが奏でる独特な音響空間に身を委ねたら、メキシコの見方も以前と異なったものになるかもしれません。