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サングラスは明治時代に流行し「無作法な掛け方」が問題になった?【旅グッズの意外な歴史4】

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Aug 22nd, 2022.

身近な旅の道具の歴史を紹介するTABIZINEの連載「旅グッズの意外な歴史」シリーズ。今回は、旅先でも重宝するサングラスの歴史を紹介します。

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2000年くらい前から目を保護する道具が存在した

イヌイットのゴーグル image by Julian Idrobo(Wikipediaより)

雪山はもちろん、南の島や晴天の多い地域など、サングラスをそれほど普段は必要としない日本人でも、サングラスがあると助かる旅先もありますよね。

この身近なサングラス、どのような歴史があるのでしょう。少なくとも日本生まれの製品ではないと予想ができますが、いつごろから日本に入ってきたのでしょうか。

そもそもの歴史をさかのぼると、北極圏に暮らしていたイヌイットが、雪に反射する太陽光から目を守るために、流木や骨、セイウチの牙、トナカイの角などを使って、ゴーグルをつくったところに起源があるみたいです。

長細い骨や牙、角などの一部に細長い切込みを入れて、その狭いすき間から外を眺めました。視野が狭くなるため、物がよく見えるようになる効果もあったそうです。その歴史は、2000年近く前までさかのぼれるとの話。

イヌイットのゴーグル(Wikipediaより)

ロンドンの眼鏡技師が「サングラス」をつくった

James Ayscoughさんのメモ image by James Ayscough(Wikipediaより)

もちろん、イヌイットだけでなく、太陽光から目を守る試みはいろいろな地域でいろいろな人たちが試みてきました。

古代ローマ帝国の皇帝ネロが剣闘士の戦いを観戦している際にも宝石用原石を磨いてサングラス的に使っていたと言われていますし、12世紀の中国でも目の保護を目的に、着色した石英(純粋な結晶は水晶)を裁判所の判事が裁判で着用していたとも言われています。

しかし、本当の意味で今のサングラスの直接的な源流になる発明は、1752年(宝暦2年)ごろに生まれました。日本では江戸時代です。

自らのショップをロンドンに構える眼鏡技師のJames Ayscoughさんが、(耳に掛ける)テンプルを軸(丁番)を基点に折り畳みできる眼鏡を紹介した際、透明なレンズに加えて、青や緑に着色したレンズも提案しました。目の見え方に問題がある人には、青や緑のレンズが好ましいと考えたからですね。

まさに、このJames Ayscoughさんが紹介した眼鏡+色付きのレンズが、現代サングラスの直接的な源流とされています。

James Ayscoughさんの「サングラス」とほぼ同時代に、科学者・Antoine Lavoisierさんが装着する色付き眼鏡(Wikipediaより)

フランシスコ・ザビエルが眼鏡を日本に持ち込んだ?

フランシスコ・ザビエル(Wikipediaより)

では、日本におけるサングラスの歴史は、いつごろ盛り上がってくるのでしょうか。そもそも論として、サングラス(色眼鏡)ではなく眼鏡そのものは江戸時代よりも前に日本に入ってきました。

時は戦国時代。天主教(キリスト教)の宣教師が、当時の武将である大内義隆に眼鏡を献上した瞬間が、日本と眼鏡の最初の出合いだとされています。

具体的には、1530年代だとか、1551年だとか言われています。後者の場合は、あの有名な宣教師フランシスコ・ザビエルが大内義隆に献上したとされています。

この眼鏡が、江戸時代に入ると日本でも生産されるようになりました。江戸時代の初期、1628年(寛永5年)に長崎の浜田弥兵衛という人が南蛮人から眼鏡の製法を習得し友人に伝え、日本での製造が始まったと言われています。

その眼鏡が、江戸時代を通じてどれくらい当時の日本人に親しまれたかについては、意見が割れているようです。

ただ、江戸時代の職人絵に眼鏡姿の職人が描かれたり、俳諧に「めがね」という言葉が出てきたりするので、江戸時代の後期には一般化が進んだと考えられるようです。

ファッションのためにサングラスを掛ける人が現れる

江戸時代の眼鏡(Wikipediaより)

この眼鏡が、江戸時代に入ると、文明開化のシンボルであり、ハイカラな人のファッションにもなっていきます。

見えづらさを補う職人の道具として使われてきた江戸時代の眼鏡の系譜に加えて、格好いいからと使われる(伊達眼鏡も含めた)新しい系譜が明治時代に生まれ、いよいよ一般的な道具になっていくのですね。

サングラスは、この流れの延長線上に誕生します。1888年ごろ(明治20年ごろ)、青眼鏡の流行がきます。眼鏡技師のJames Ayscoughさんが1752年(宝暦2年)に青色レンズの眼鏡を紹介してから、130年くらいが経過したころです。

孫引きの情報で恐縮ですが、1882年(明治15年)出版の『眼科學』には、その青眼鏡(暗い色の眼鏡も)が、太陽光を弱める道具として紹介されているそうです。

1888年(明治21)に出版された『視器の保養 簡明述義』には、ほこりから目を守る道具として紹介されるとともに、「虚飾の爲め」に、ファッションのために掛ける人についての記述もあるようです。

しかも、そのオシャレなファッションアイテムを「不行儀無作法なる掛様をなし」て着用している人も目立ったそうです。要するに、ファッションアイテムという考え方が明治時代に加わってきたのですね。

江戸時代の日本にも「サングラス」があった?

江戸時代の初期に製造の始まった眼鏡は実用品として広まり、明治時代に入るとファッション要素も加わって、日清・日露戦争前に色眼鏡(サングラス)が流行したと紹介しました。

「不行儀無作法なる掛様」との記述がある点を思うと、それこそ物事を色眼鏡で見る人たちからは、不評を買ったと予想されます。

とはいえ一方で、独自の「サングラス」の歴史も日本にはあります。国立民族博物館に現物が収蔵されている目簾(めすだれ)ですね。

文字どおり、両目の前に垂らすすだれで、江戸時代後期に大変な名声を博した紀行文の作者・菅江真澄が『小野のふるさと』という著作の中で、次のように書いています。

<人は、めすだれ、又めあてともいひて、うすものをぬかよりおほひかけたり。こは、眼のやまうなきためなり>(国立国会図書館デジタルコレクション『小野のふるさと』より引用)

『小野のふるさと』という紀行文は、1785年(天明5年)に出羽の国(現:秋田県・山形県)にある小野小町のふるさとを訪ね歩いた際の記録です。そのころの日本人は、目すだれ・目あてを額(ぬか)から覆い掛けて、目を保護していたのですね。

材質が布なのでサングラスとは言えませんが、目的としては一緒です。

サングラスがちょっと恥ずかしくて使えないという人も居るかもしれませんが、日本にも立派な「サングラス」の歴史が江戸時代からあると思えば、ちょっと勇気が出るのではないでしょうか。

なんであれ、面白い歴史ですね。

 

[参考]

The Evolution of Sunglasses – Google Arts & Culture

James Ayscough – Google Arts & Culture

A Brief History of Sunglasses – SUNGLASS MUSEUM

眼鏡産業の発達 – JETRO

※ 濱島広大『チャールズ・ワーグマンと眼鏡―挿絵に見る明治期の日本人像の一考―』

めがねのトレンド、100年の歴史。- VOGUE JAPAN

特別展「アチック・ミューゼアム・コレクション」 – 国立民族学博物館

秋田叢書. 別集 第4 (菅江真澄集 第4) – 国立国会図書館

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坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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