【お祭りトリビア連載13】みこしを担ぐときの「わっしょい」の語源は何か?

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Sep 3rd, 2022

祭りに関する素朴な疑問を取り上げるTABIZINEの連載。今回は、祭りには欠かせない掛け声「わっしょい」を深堀りします。

神田祭の神輿
Picture Partners / Shutterstock.com
 
>>【日本人が知らない神社の秘密5】神輿とはそもそも何なのか?
 

「いらっしゃいませ」「わっしょいだぜ」

神田祭
Pierre Jean Durieu / Shutterstock.com

突然ですが、みこしの掛け声と言ったら、どんな言葉を思い浮かべますか?

「そいや」だとか「ほいっと」だとか「えらいやっちゃ」だとか、いろいろなバリエーションがあるようですが、メジャーな掛け声といえば「わっしょい」ではないでしょうか。

美空ひばりさんのシングル盤レコードとして発表された『お祭りマンボ』でも、神田生まれの江戸っ子である隣のおじさんが、朝から晩までみこしを担いで「ワッショイワッショイ」と声を上げ、祭りに参加している様子が描かれています。

お笑いコンビ・サンドウィッチマンのコント『ファミレス』でも、そのコントを絵本にした『マイク・デービス』でも、「いらっしゃいませ」を「わっしょいだぜ」と言い間違えるシーンが描かれています。

では、そもそもの疑問として、この「わっしょい」にはどのような語源があるのでしょうか。

どこにも語源は掲載されていない

辞書
『精選版 日本国語大辞典』で「わっしょい」を引くと、泉鏡花の1900年(明治33年)の作品『葛飾砂子』が紹介され、

<わっしょいわっしょいと謂ふ内に駆けつけて>(『精選版 日本国語大辞典』より引用)

という表現が紹介されています。「わっしょ」という言い方もあるようで、

<大勢で重いものをかつぐ時や激励のためにあげる掛け声>(『精選版 日本国語大辞典』より引用)

と説明があります。

しかし、語源については記述がありません。各出版社から出ている語源辞典を片っ端から調べてみても、どこにも掲載されていませんでした。

「わっしょい」「そいや」について詳しく書いている東京都江東区のお菓子屋さんのサイトがインターネット上で見つかったので問い合わせてみると、語源についてはご存じないとの話でした。真相は謎のままです。

「ワッセイワッセイ」輸入説

日本と韓国
次の一手として、国立国会図書館がアーカイブ化しているレファレンス共同データベースを調べてみました。埼玉県立久喜図書館に寄せられた図書館利用者からの質問に対し、館の調査係が調査した内容が掲載されています。

依頼自体は、みこしを担いだり山車を引いたりする際の全国の掛け声についての調査でしたが、『江戸神輿』(小沢宏之・写真/木村万里・文/講談社/1981)を参考にした「わっしょい」の関連情報が図書館側の回答の中に見られます。

「わっしょい」の語源として、

<朝鮮では神輿をかつぐときに「ワッセイワッセイ」と言うそうで、これの輸入によるもの>(『レファレンス共同データベース』より引用)

という情報が書かれているようです。データベース上に記載された引用文では前後がわからなかったので、『江戸神輿』(講談社)を地元の図書館で借りて読んでみました。

すると確かに、

<朝鮮では神輿をかつぐ時にワッセイワッセイと言うそうで、これの輸入によるものだろう>(『江戸神輿』より引用)

と書かれています。しかし、共同データベースの引用文ではわからなかったものの、文章は伝聞調で、語尾は「だろう」でした。

「わっしょい」に関する論文も見当たらない

ノートに書く
もちろん、朝鮮語説を裏付けるように、「四天王寺ワッソ」という祭りが大阪に存在します。「わっしょい」の語源=「ワッソ」(現代韓国語で「来た」)なのではないかと、連想できる記述も公式サイト上で確認できます。

しかし、呉善花・崔吉城・著『これでは困る韓国』(三交社)、野平俊水・著『韓国人の日本偽史―日本人はビックリ!』(小学館)、水野俊平・著『韓vs日 偽史ワールド』(小学館)などが、この「わっしょいの語源は朝鮮語」という俗説を否定しています。

神輿を担ぐ人
Pierre Jean Durieu / Shutterstock.com

では、わっしょいの語源は、何なのでしょう?

筆者の暮らす自治体の公立図書館に所属するレファレンス担当者(調査係)にも相談してみました。市の図書館でまず相談し、次いで県の図書館に相談すると、それぞれがいろいろな情報源を当たってくれました。

しかし、結論から言えば、明確な語源はわかりませんでした。

落合直文・著『ことばのいづみ 補遺 日本大辞典』(大倉書店)には「東京の俗語」との記載があり、『日本国語大辞典 第13巻 第2版』(小学館)には「わっしょい」の出典として泉鏡花・著『葛飾砂子』や平出鏗二郎・著『東京風俗志』が記載されているものの、明確な語源はどこにも書かれていません。

国会サーチやCiNii Researchなどで「わっしょい」に関する論文の有無も調べてくれたようですが、見当たらないとの話。

要するに「わっしょい」の正確な語源は、今のところ誰も信ぴょう性を持って答えられないのですね。

ただ、こうして何気なく声に出してきた掛け声の語源を調べる作業を通じて、祭りの周辺的要素にいろいろな発見があります。

中途半端な締めくくりでなんだか恐縮ですが、皆さんも例年行く祭りで、みこしを担ぐ掛け声に注目し、その語源を調べてみてはいかがでしょうか? 見慣れた祭りを今まで以上に奥深く味わえるかもしれませんよ。

[参考]
山車やおみこしを引くときの掛け声にはどういうものがあるか。日本全国のものを知りたい。 – レファレンス共同データベース
※ 『江戸神輿』(講談社)
由来と沿革 – 四天王寺ワッソ
※ 呉善花・崔吉城『これでは困る韓国』(三交社)
※ 野平俊水『韓国人の日本偽史―日本人はビックリ!』(小学館)
※ 水野俊平『韓vs日 偽史ワールド』(小学館)
※ 落合直文『ことばのいづみ 補遺 日本大辞典』(大倉書店)
※ 『日本国語大辞典 第13巻 第2版』(小学館)
※ 大槻文彦『大言海4』(富山房)
※ 笹間良彦『江戸っ子語絵解き辞典』(遊子館)
※ 金端伸江編・井上史雄監修『東京ことば辞典』(明治書院)
※ 『日本俗語大辞典』
※ 『暮らしのことば擬音擬態語辞典』
※ 『日本語源広辞典』
※ 『日常語の意味変化辞典』
※ 『日本語源大辞典』
※ 『暮らしの言葉新語源辞典』
※ 『江戸語辞典』
※ 『日本語口語表現辞典』
※ 『精選版 日本国語大辞典』

[All photos by Shutterstock.com]

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PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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