価格が100倍に!販売中止となった「歴史上で最も危険なおもちゃ」とは?

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Feb 26th, 2023

旅の目的といえば、みなさんにとっては何になりますか? 絶景や歴史的な建造物、食などが筆頭に挙がると思いますが、ちょっとイレギュラーな旅の目的になりそうな話を今回は紹介します。現在は、いくつかの博物館に収蔵されながらも、一方で「世界で最も危険」といわれたおもちゃの話。そんなおもちゃの実物を見に、世界の博物館に旅立つなどいかがでしょうか。


 


 

博物館に展示・収蔵される「危険な」おもちゃ


画像:Wikipediaより

世の中には、危険すぎて販売が中止になったおもちゃがいくつもあります。その代表例は、アメリカで一世を風靡(ふうび)した『ジャーツ(英語名:JARTS)』というおもちゃでしょうか。

簡単に言えば、巨大なダーツで、北米の家によくある芝生の上に刺して遊ぶおもちゃです。この巨大なダーツは、失明や脳障害、死亡など、深刻な事故を次々と引き起こしました。プレイ中に、巨大なダーツが突き刺さる事故が相次いだのですね。

1950年代に発売されたとされるジャーツは、1970年(昭和45年)になって販売が禁止されました。1960年代に始まった消費者の意識改革が背景にあり、それ以前の1950年代はもっと消費者もおおらかだったといいます。

同じく、そのおおらかな時代に発売されたユニークなおもちゃが今回の主題です。1909年(明治42年)創業の米ギルバート社が1950年(昭和25年)に発売した『U-238原子力エネルギー研究室(英名:Gilbert U-238 Atomic Energy Lab)』を紹介します。

1951年(昭和26年)に世界初の原子力発電がアメリカで行われたように、原子力によってもたらされる経済発展に世界的な関心が集まった時代背景を反映するキットで、原子力について子どもたちが興味関心を深められるおもちゃでもありました。

このおもちゃは、だいぶ後になってから、アメリカのウェブメディア『Radar Online』で「世界の歴史上で最も危険なおもちゃ」と言われるのですが、今ではむしろ評価が逆転し、シカゴ科学産業博物館やナパバレー博物館、国立アメリカ歴史博物館などで展示・収蔵されるまでになりました。

ファクトを無視して、なんでも過度に危険視し、子どもたちの好奇心や考える力を結果として奪っている大人たちへの警鐘のツールになると識者は考え始めているのですね。

原子力について子どもたちが興味関心を深められるキット


霧箱(きりばこ)画像:Wikipediaより

『U-238原子力エネルギー研究室(英名:Gilbert U-238 Atomic Energy Lab)』では何ができるのでしょうか。

例えば、放射線源から放出される粒子の飛跡を、「霧箱(きりばこ)」という装置を使って観察したり、放射線崩壊を肉眼で観察したり、さらには放射性物質を含む主な鉱物、および鉱石の探査に行くための政府発行マニュアルを読めたり、人気のアニメキャラクターが登場するガイドブックで原子力の基礎について学んだりできます。

当然、キットに用意された実験道具も充実していました。上述した霧箱はもちろん、「スピンサリスコープ」(少量のラジウムを蛍光板のそばに置きレンズで拡大して放射性崩壊のきらめきを見えるようにした道具)やバイアルびんに封入された4つの本物のウラン鉱石、「ガイガーカウンター」(放射線測定器)も別売りで用意されました。

原子力について学べる類似のおもちゃはすでに他社からも発売されていましたが、現在では、洗練度と本格さで言えば、U-238原子力エネルギー研究室が飛び抜けていたと評価されています。

画期的なおもちゃは世の中から消えていった

 


しかし、この画期的なおもちゃはあまり売れませんでした。

第一に、約50米ドル(物価上昇を考慮すると現在の価値で約500米ドル=約5万円以上)と高額な価格設定がネックになったみたいです。競合商品は5分の1程度の価格でした。発売年の販売数は5,000個以下、翌年までマーケットで市販されますが、鳴かず飛ばずだったそう。

1909年(明治42年)に創業した米ギルバート社は、1961年(昭和36年)に創業者が亡くなり、1967年(昭和42年)に倒産。ポテンシャルを持ちながら、商品は結局、日の目を見られなかったのですね。

世の中に残った商品については、上述したように、1960年代から始まった世論の変化や法改正などを経て「危険なおもちゃ」として回収されたとの話も一部にあります。

とはいえ、われわれ地球人は本来、宇宙や台地、空気、食べ物などさまざまな場所から自然放射線を受けています。

U-238原子力エネルギー研究室から受ける放射線量は、それらの自然放射線よりも少ないと、後の検証で証明されています。

本体にも広告にも「Safe!」「Completely safe and harmless(完全に安全で無害)」の言葉が印字されているのですが、原子力に対する誤解と無理解が「危険なおもちゃ」と多くの人に短絡させたため、1960年代以降も「発見」されず、正しい評価を最後まで市場から受けられなかったと考える識者もいるようです。

ちなみに今、このU-238原子力エネルギー研究室は、コレクターによって高い価値が設定されていて、当初の販売価格の100倍で取引されているそうです。

さらには、上述したとおり、いくつかの博物館で収蔵・展示されるまでの価値あるおもちゃと評価されています。

今度、アメリカに訪れる際には、U-238原子力エネルギー研究室の公開展示の有無をチェックして、実際に見に訪れてみると、旅の奥行きがぐっと深まるかもしれませんね。

[参考]
President Reagan Signs Toy Safety Act – CPSC.gov
Exhibiting The Most Dangerous Toys Of All Time, This Museum Show Asks Whether Modern Childhood Is Risky Enough – Forbes
World’s Most Dangerous Toy? Radioactive Atomic Energy Lab Kit with Uranium (1950) – Bulletin of the Atomic Scientists
Gilbert U-238 Atomic Energy Lab – Nuclear Museum
Atomic Energy Lab – National Museum of American History
ウラン付き:「核分裂」実験キット – WIRED
Gilbert U-238 Atomic Energy Lab (1950-1951) – Museum of Radiation and Radioactivity
高等学校教師用解説書 – 文部科学省
どんな放射性物質(核種)があるの? – 新潟県
世界の原発利用の歴史と今 – 資源エネルギー庁
Fun—and Uranium—for the Whole Family in This 1950s Science Kit The Gilbert U-238 Atomic Energy Lab let kids measure radioactivity and prospect for radioactive ores – IEEE Spectrum
霧箱で放射線の飛跡を見る – 福島再生
A. C. Gilbert U-238 Atomic Energy Lab – Frank J. Leskovitz

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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