【台湾マニア憧れの地】台湾で最も行きにくい離島・蘭嶼に行ってみた

Posted by: 松田義人

掲載日: Oct 22nd, 2023

台湾の離島の中で最も行きにくいと言われる蘭嶼(ランユー、ランユイとも)は、フィリピンのパタン諸島から移り住んだと言われる台湾原住民・タオ族が暮らす周囲40キロの島。主な産業は豊富に採れるトビウオなどの漁業や養豚などと自然を生かした観光業ですが、ただし、冬場は周囲の海が荒れることからおおむね4〜10月でないと観光ができません。また、アクセスが難しいことから、台湾マニアの間では憧れの地とされる離島でもあります。

アクセスは飛行機かフェリー。しかし出航はキャンセルも多い

蘭嶼までのアクセスは、主に台湾本島の東部・台東からの飛行機かフェリー、あるいは台湾南部・墾丁からのフェリーです。飛行機の座席は島の住民を優先させるため、もともと販売席数が少なく、さらに気候次第では飛ばないこともあります。もちろんフェリーも同様で、冬場でなくとも海が荒れている際は出航中止になるか、仮に出たとしても、本来は片道約2時間ほどの航海が、その倍ほどとなり、この間ずっと揺れっぱなし……なんてことも。

このため、筆者は今から15年ほど前に取材で蘭嶼に訪れて以来、何度か渡航をトライしていましたが、飛行機またはフェリーが現地で出航しなかったなどで、都合6回ほどフラれていました。それくらい天候に最優されやすい離島ということでもあります。しかし、今回は天候に恵まれ、まさに15年ぶりの再訪を果たすことができました。

言葉に不慣れなら、観光チケッティングサイトの利用がベスト

今回、筆者が蘭嶼にアクセスしたのは、台湾本島屈指のリゾート地の南部・墾丁の後壁湖という港からのフェリーでした。

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中国語で事前に台湾現地のフェリー会社にオーダーしましたが、言葉が苦手な方は日本語での予約や決済が可能な台湾発の観光チケッティングサイト「KKday」などを利用すれば、より便宜的にチケットを購入することができます。あるいは、台湾現地でのパックツアーなどに参加するのもよいでしょう。こういったパックツアーの多くはフェリー乗り場までのアクセス、現地での移動の手配なども一括で手配してくれるところもあるので、何かと便利だと思います。

さて、前の晩まで不安だった蘭嶼のフェリーは、翌朝7時に無事出港しました。15年前に行ったときよりも海は穏やかで、スイスイ進み気づけば予定よりも早い1時間半ほどで蘭嶼に到着することができました。

島内の移動はバイク、自転車、運転手チャーターの3択が現実的

蘭嶼に着いたら、まずは移動手段をゲットする必要があります。島内にはバスも走っていますが、1日の本数が少なく細かく停まるわけではなく島内の移動としては現実的ではありません。そのため、台湾人観光客の多くはレンタルバイクをゲットするわけですが、筆者もならってバイクを借りました。港には複数の業者の手配師が待ち構えており、特に予約をしなくとも、そういった人に声をかければすぐ借りることができます。言葉に不慣れでも向こうからガンガン話をしてくれるので、意思疎通はできます。

また、バイクの免許がない人は、同じく手配師に声をかけ、レンタル自転車か「現地の運転手」を1日単位でチャーターすることになるでしょう。

台湾でよく見る黄色いタクシーは走っていないため、「現地の運転手」はおおむね個人にタクシー代わりをお願いすることになります。金額は交渉次第ですが、1日チャーターで3000〜5000元(15000円〜25000円ほど。時期によって変動)だと思います。いずれにしてもアクセス困難な離島でもあり、総じて物価は高めであることも理解しておきましょう。

さて、筆者は1日500元(約2500円ほど)でレンタルバイクを借りることにしました。かなり使い古されているスクーターで、真っ直ぐ走ってくれない、ミラーはグニャッと曲がっているなどのボロボロマシンでしたが、贅沢は言っていられません。このスクーターを相棒に、蘭嶼を巡ることにしました。

海岸沿いの冷泉に魚と一緒に浸かり、絶品トビウオ炒飯を食べる


この日は気温が35度ほどで日差しが強く風もないため、とにかく暑いのですが、ボロボロマシンで蘭嶼ののどかな海岸線を走ると、風が抜けて心地よいです。また、海岸線沿いの山の裾野には、放牧されている山羊が日陰を頼りに集っていました。
さらに海岸線を進み、自然から湧き出た冷泉が見えてきました。火照った体を冷やすべく立ち寄りましたが、冷泉に足を入れると熱帯ならではのカラフルな小さな魚たちがドクターフィッシュのごとく、筆者の足をつついてきます。くすぐったいですが、これもまたなかなかできない体験です。


しばし休んだところで、朝から何も食べていないことに気づき、食事をとることに。たまたま通りがかった小さな食堂に立ち寄りました。せっかくの蘭嶼なので、ここは名産でもあるトビウオの卵(いわゆるとびっこ)を使った炒飯をいただくことにしたわけですが……これが激うま! たっぷり入ったとびっこと、台湾醤油のうっすら味が絶妙にマッチしており、バクバク食べてしまいました。あまりにおいしかったので、日本に帰ってから再現してみたりもしました。

地面に埋まっているようにも映る蘭嶼ならではの「半地下の家屋」

午後は、蘭嶼ならではの「半地下の家屋」を見学しに行きました。「半地下の家屋」とは、一見、家が地面に埋まっているようにも見えますが、中国語で「地下屋(ディジャーウー)」と呼ばれる独特のもので、蘭嶼に頻発する台風への対策として考案されたと言います。現在では数少なくなったそうですが、今も一部にその家屋があります。背をかがめないと入れない作りですが、石を重ねた土台に重厚な真っ黒い屋根は実にしっかりとしたもの。蘭嶼の風土と、この地で暮らす人々の知恵が詰まった象徴的な家屋です。

ところで、筆者はその筋に疎いですが、綺麗な海に囲まれた蘭嶼ではシュノーケリングやダイビングといったアクティビティももちろん楽しむことができます。島の散策だけでなく、こういったアクティビティも含めて考えれば、数日間の滞在も含めてプランするとよいかもしれません。

シュノーケリングやダイビングのツアーも、前述の「KKday」や台湾本島の旅行代理店、あるいは現地の業者に申し込めば、必要な器具のレンタルも含めて楽しむことができます。

予約していた宿は、ごく普通の人ん家だった

さて、そんなこんなで蘭嶼の周囲約40キロを走り抜け、事前にアゴダで予約していた宿にチェックインすることにしました。宿は総じて高めで大半は1泊2500元(1万円)オーバー。その中でも探しに探しまくって比較的安い1泊1800元(9千円)ほどを予約していました。

しかし、その宿のある住所に行っても民宿らしき建物が全く見当たりません。近所にいた人に宿の名を尋ねたところ「ああ! この宿ならあそこの家だよ」と教えてくれました。その人が指差す先は……宿というより、普通の民家の勝手口。

この勝手口を開けてみると、さらに普通の「人ん家」で居間でくつろぎテレビを見ているオジサンに筆者の名を告げたところ、「ああ。2階に上がって。部屋あるから」とだけ言い、オジサンの視線はまたテレビへ。

なんちゅーユルさ! しかもこれで1泊1800元(9千円)!? ……と思いつつも定型のホテルではなく、このローカルな感じがかえって嬉しくもありました。日本の地方を巡る外国人が、地元の人たちに溶け込むことを喜ぶのと同じで、筆者も定型のサービスよりも地元の生活感をより強く感じたいからです。部屋もまさしくこの家の子ども部屋を改装したようなところでしたが、この雰囲気も楽しく、地元の空気をより生々しく感じることができました。

複数の店で見かけた「勝手にお金を置いていけ」方式

また、蘭嶼の複数の店で見たことでかなり感動したものもありました。それは「勝手にお金を置いていけ」方式。蘭嶼にはコンビニが2軒しかなく、また大型商店も港付近にしかありません。蘭嶼の各所には小さな商店が点在していますが、そういった店でたとえば冷蔵庫からドリンクを購入する際、写真のような貼り紙があります。

意味は「うちは誠実商店だ。買うなら勝手にお金を置いていけ」といったもので、客は冷蔵庫から目当てのドリンクを取り出し、冷蔵庫の内部に剥き出しになっている小銭が入ったカゴの中にチョリンと代金を入れていくという仕組みです。

悪意があればドリンクのタダ飲みやチョロまかしはもちろん、その小銭のカゴの小銭を奪えなくはないのですが、ここ蘭嶼ではそんな汚い人はいないことを表しているように思いました。そして、蘭嶼を訪れる旅行者に対しても同じ思いで迎え入れてくれているのだろうと。また、島中を巡る間、気になるものを見つけ立ち寄ると親身に相談にのってくれる人が多く、蘭嶼には人間らしい優しい空気が流れているのだとも感じました。

たまたま出会った台湾人観光客の団体の晩酌に混ぜてもらう


前述の宿(というより民家)では夕飯はないため、日が落ちてから例のスクーターにまたがり、食堂を探すことにしました。蘭嶼の夜は早く、多くの店は20時にはラストオーダーになるため、早めに出発。ある一角に複数の食堂や居酒屋が集まるエリアがあり、そのうちの店でご飯を食べました。おかずはやっぱりトビウオ。丸ごと揚げたトビウオでご飯を食べました。近くでは路上、防波堤、はたまたトラックの荷台で宴会をする人たちがいて、なんだか楽しそうです。

こういうとき、一人旅はかえって寂しく感じるものですが、台湾ではこういうときこそ声をかけるべきだ、と筆者は思っています。日本のお花見などでも、気づくと全然知らない隣の団体と会話するようになることがありますが、台湾ではそれ以上に「すぐ友達になれる」ことが多いからです。

さっそく観光客とおぼしきある団体に「どこから来たんですか?」と尋ねると、「台中だ」と言い、筆者が日本人だと知るとすぐに輪の中に混ぜてくれ、お酒をすすめてくれました。スクーターで来ているためお酒は遠慮しましたが、言葉が不慣れな僕に対し、ある人はおかずを勧めてくれ、またある人はどういうわけか懇親の記念にと、自慢のカラオケを披露してくれました。ちなみにその歌は全然知らない台湾の歌謡曲でした。

お礼を言い連絡先を交換して分かれましたが、こんなふうに気持ちよい時間を過ごすことができたのも蘭嶼の空気のおかげかもしれません。

台湾にことさらハマる人に「どうして何度も台湾に行くのか」と聞いても、うまく答えてもらえないものです。しかし、その多くが台湾人の人情や温かい民族性、そして風土に惹かれ、それをきっかけに台湾にどっぷりハマっていくのではないかと思います。そして、ここ蘭嶼にはこういった台湾人の人間らしさ、そして風土の素晴らしさがいっぱい詰まっているようにも思いました。15年ぶりにやっと再訪できた蘭嶼。さらにまた何度も渡航のトライをすることになりそうだなと思いました。

※本記事では、台湾本国での呼称にならって「原住民」として表記しています

 


 

PROFILE

松田義人

Yoshihito matsuda 編集者・ライター

多くの書籍・雑誌・WEBメディアの編集や執筆を行うかたわら、台湾分野では複数の著書を持つ。近著に『パワー・スポット・オブ・台湾』(玄光社)、『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)がある。2024年刊行予定の自著『台湾温泉ガイド(仮)』(晶文社)『台湾あるある(仮)』(なりなれ社)を鋭意制作中。

多くの書籍・雑誌・WEBメディアの編集や執筆を行うかたわら、台湾分野では複数の著書を持つ。近著に『パワー・スポット・オブ・台湾』(玄光社)、『台北以外の台湾ガイド』(亜紀書房)がある。2024年刊行予定の自著『台湾温泉ガイド(仮)』(晶文社)『台湾あるある(仮)』(なりなれ社)を鋭意制作中。

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