男鹿の入口、男鹿総合観光案内所前にそびえ立つ、15mもある二体の巨大な「なまはげ立像」
今の世の中にこそ「なまはげ」が必要だ
結論から言います。今回筆者が強烈に感じたのは、「今の世の中にこそ、なまはげが必要だ」ということ。それも、秋田・男鹿にだけでなく、誰にとってもです。

なまはげは、ただ恐怖で子どもをしつける行事ではなく、私たちが失いつつある「叱り」や「つながり」を、ショックと物語の力で取り戻し、日々自分を戒める存在を心に持つ仕組みだからです。
叱ってくれる人がいない
「なまはげ踊り」。なまはげ柴灯まつりは、900年以上前から毎年1月3日に真山神社で行われている神事「柴灯祭(さいとうさい)」と、民俗行事「なまはげ」を組み合わせた冬の観光行事
日本は、特定の信仰を持たない人が非常に多い国です。仏教や神道は生活習慣として定着している一方、八百万の神に代表されるように、神様は多くの日本人の心にほんのりと存在しますが、自分を戒める存在というほどではありません。
日常のなかに、闇がなくなり、火がなくなり、大自然の偉大さや怖さを感じる機会が減っていくことで、いつもどこかで自分を見ている大きな存在を意識することは難しい。
なまはげ柴灯まつり「なまはげ下山」
加えて、現代日本では、地域とのつながりや支え合いが弱まり、「他人の子に口を出さない」空気が強くなりました。“パワハラ”や“友達親子”などの言葉が象徴するように、学校の先生や会社の上司、親でさえも、本気で叱ったりあえて厳しいことを言ったりする場面は確実に減っています。

なまはげは「怠け者を戒める」「泣き虫の子を叱る」役を、地域の大人が仮面をかぶって担う仕組み。つまり「第三者があえて怖い役を引き受ける」という合意のもとで、家庭だけでは担いきれない“厳しさ”を社会全体で分担する制度だったとも言えます。一部の地区では、子どものいない家にも、なまはげは訪れるそうです。
なまはげのセリフは基本的にアドリブだそう。「泣く子はいねえが」「怠け者はいねえが」「悪い子はいねえが」はよく聞くが、「勉強してるが」「親の言うこと聞いてるが」「ここん家の嫁は早起きするが」なども
叱ることが難しくなった現代だからこそ、「嫌われ役を構造として担う」なまはげ的システムは、子どもにも大人にも意味を持つと思うのです。
「心のなかにブレーキを持つ」ということ
なまはげ柴灯まつり「里のなまはげ乱入」
なまはげは、子どもにとっては強烈な恐怖体験として記憶されますが、それは単なるトラウマではなく「心のなかにブレーキを持つ」ための儀礼とも読み解けます。
実際、男鹿の地域では、子どもが何か悪さをしたとき、あるいはしそうなとき、「なまはげさんが山から見てるよ」と言って戒めることがあるそうです。それは、法律やルールで裁く犯罪ではない、ズルやわがまま、雑な行い、グレーゾーンのモラル欠如を制御する場面では特に効果があるのではないでしょうか。
この「心のなまはげ」のような、日常の怠惰やわがままを抑える“自分の中の目”を持つことが、今の世の中でこそ必要だと強く感じたのです。
親は自分を守ってくれる存在
なまはげ柴灯まつり「なまはげ行事再現」。主人が1年の頑張りを話すと、なまはげは「なまはげ台帳」を見る。台帳には、なぜかこの1年の悪さや知られたくないことが書いてある。「男鹿真山伝承館」では一年中真山地区のなまはげ習俗が体感できる学習講座を行っている
なまはげは、怯えた子どもを親がかばうと、それ以上責めないという構図が重視されてきました。子どもは「自分を守ってくれる存在」として親を頼もしい存在だと再認識し、家族の団結に結びつく側面もあるのです。

親にとっても、「子どもを守る役」を演じながら再認識する機会となり、単に“怒鳴るか甘やかすか”の二択になりがちな子育てに、第三の演出が生まれます。「子ども・親・地域」が一緒にドラマを体験することで、関係性を強化する仕組みだとも言えるのです。
なまはげは鬼ではなく神様の使い

そもそもなまはげは、鬼ではなく家に福を呼び込んでくれる神様の使者だということをご存じでしょうか。
なまはげの由来
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「なまはげ」という名前は、方言の「なもみ(いろりにずっとあたっていると手足にできる火だこのこと)剥ぎ」が訛ったものと言われています。つまり、いろりにあたってばかりで仕事をしない怠け心を戒めるために、「なまはげ」がやってくるのです。
なまはげは、秋田の男鹿地域で大晦日に行われる伝統行事です。男鹿の人々にとってなまはげは、怠け心を戒め、無病息災・田畑の実り・山の幸・海の幸をもたらす年の節目にやってくる来訪神。大きな音や声を出すのは、家の災いや悪霊を祓うため。そして幸せな新年を祈願してくれるのです。
地元の方に聞く!なまはげエピソード
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男鹿市観光文化
スポーツ部 観光課長
村井 千鶴子さん昔は犬を屋外で飼っている家が多く、なまはげがくる夜には犬たちがずっと外で吠えていて、その声がまた怖かったですね。うちの息子は、ドキドキしすぎて夜ごはんが食べられないくらいでした。でもなまはげは脅すために来るわけじゃないんです。戒めるために来るんです。夫もなまはげ役をやったことがあるんですが、うちの地区では、自分の家には絶対なまはげ役としては入りません。自分の家では、子どもを守る役目。なまはげ役は他の人に来てもらいます。そこはしっかり分けていました。
地元の小学生が作るなまはげ冊子

まつり会場で配布されていた、地元の小学生による手作りの「大すき!なまはげBOOK」でも、なまはげは鬼ではなく、幸せを呼び込んでくれるありがたい存在だと書いてあります。
その一方で、やはりなまはげがどれくらい怖かったかが伝わってくるエピソードも。
- 小学生が家族にインタビューしたなまはげエピソード(原文ママ)
- 「宿題をやらなかったので、ふくろに入れて山につれていかれました」40代男性
- 「どこにかくれてもかならず見つけられ雪の上になげられました」40代男性
- 「来たのがわかったらすぐにトイレに入りカギをかけました」40代男性
- 「なまはげが来るといつも知えねつが出ていました」30代女性
- 「なまはげからかくれていましたが、見つかってうでを引っぱられ山につれていかれそうになりました」30代女性
- 「二階のおしいれやようふくダンスにかくれてもさがしにきてこわかった」70代女性
なまはげ館のなまはげ伝承ホールのスクリーンでは、男鹿の大晦日を紹介する映画「なまはげの一夜」を8:30-16:30まで30分おきに上映。男鹿に生き続けるなまはげ行事の姿や、しきたり、伝承する人の精神を描く
なまはげは最高にかっこいい

なまはげ柴灯まつりは、以下の7部に分かれていますが、なかでも「なまはげ太鼓」は人気があります。筆者が訪れた日は、地元の若者でつくる太鼓団体「恩荷(おんが)」が担当していたのですが、これが圧巻の迫力で力強く美しく、本当にかっこいい!
- なまはげ柴灯まつり
- 【1】鎮釜祭・湯の舞
- 【2】なまはげ入魂
- 【3】なまはげ行事再現
- 【4】なまはげ踊り
- 【5】なまはげ太鼓
- 【6】なまはげ下山・献餅
- 【7】里のなまはげ乱入

恩荷は男鹿温泉郷の「五風なまはげ太鼓ライブ」で、年間来場者が延べ数万人規模、秋田を代表する人気イベントなのだそうです。
なまはげはフレンドリーになりすぎないで欲しい

そのなまはげ行事も少子高齢化や人口減少で実施地区が減少し、なまはげ役の若者の確保が大変だという話も聞きます。
一方で、なまはげは1978年「男鹿のナマハゲ」として国の重要無形民俗文化財に指定。さらに2018年にユネスコ無形文化遺産に「来訪神:仮面・仮装の神々」の一つとして登録され、地域の象徴・観光資源としての役割も担っています。
真山神社近くの「なまはげ館」では、なまはげが常設展示され、一年中なまはげに合うことができます。85地区150体以上のなまはげがずらりと並ぶ様子は圧巻! 隣接する「男鹿真山伝承館」の「ナマハゲ習俗学習講座」では、実際にナマハゲ体験もできます。

なまはげは本来祭りではなく伝統行事です。観光向けのショーや体験プログラムは、本来の行事とは区別すべき側面もありますが、観光客とツーショットで仲よく写真におさまるシーンなどを見ていると、個人的に「なまはげはフレンドリーになりすぎないで欲しい」と思ってしまう筆者なのでした(もちろん、なまはげを「可愛い」と思う気持ちにも共感。ユーモラスで可愛い面も残しつつも、怖さを失わないで欲しいと切に思います)。

リモートワークが増えて人との距離が遠くなり、SNSやアルゴリズムにより内輪だけで盛り上がる閉じた優しい世界に囲い込まれる時代に、外部から現れ、目の前に立って、怖い姿で「それで本当にいいのか」と問いかける存在は、むしろ以前より重要になっています。

あなたの心のなかには、いつも自分を見つめて戒めてくれる、“心のなまはげ”は存在しますか?
秋田県男鹿市北浦水喰沢 真山神社
毎年2月の第二土曜を含む金・土・日の3日間開催
https://oganavi.com/sedo/
なまはげ館
男鹿市北浦真山字水喰沢
0185-22-5050
8:30~17:00(年中無休)
入館料 大人660円、小中高生330円(税込)
https://namahage.co.jp/namahagekan/
男鹿真山伝承館
開講時間
4~11月(毎日開講)
9:00・9:30・10:00・10:30・11:00・11:30・13:30・14:00・14:30・15:00・15:30・16:00・16:30
12~3月(毎日開講)
9:30・10:30・11:30・13:30・14:30・15:30
※12/31は上記のほか10:00・11:00・14:00・15:00も開講
※1/1~1/2は上記のほか9:00・10:00・11:00・14:00・15:00も開講
共通入館料 大人1,100円、小中高生660円(税込)
画像素材:PIXTA
Akita Prefecture Tourism Promotion Division
©︎Aya Yamaguchi


