海外の旅先で英語を使って何かのお願いをするための表現を考える連載。2回目の今回は、海外旅行で必ず立ち寄る飲食店でのお願いについて考えてみたいと思います。基本的な考え方については連載の初回『お願い上手のトラベル英会話【飛行機編】「座席を倒してもいいですか?」は何て言う? 』にまとまっていますので、併せてチェックしてみてくださいね。
ちなみに登場する英会話表現は全て、ネイティブスピーカーにチェックしてもらっていますので、状況が合致すれば、そのまま丸ごと使っても問題ありません。
「コーヒー、ください」は「Coffee,please.」でいいの?
最初はカフェでの注文から。入店して、最初にやってくるハードルですね。コーヒーを頼みたい。どのように相手に伝えればいいのでしょうか。表現は英語として正しくても、場面によっては相手に失礼に聞こえるケースもあると初回で確認しました。そこで
・相手と自分の関係を考える
・自分のお願いを相手が引き受ける義務の有無を考える
・相手の負担の大きさを考える
といった作業で言葉の丁寧度合いを決め、その丁寧度合いを参考に、
・お願い表現そのものを調整する
・お願い表現の前後に、呼びかけや前置き、説明を入れるか考える
といった作業が大切だと紹介しました。コーヒーの注文のケースで言えば、
店員さんは初対面になります。ただ、「コーヒーをください」というこちらのお願いに対して、相手は応じる義務があります。よって両者の関係はD。
「コーヒーが欲しい」と言われてコーヒーを出す作業は、カフェのスタッフからすれば、大した負担になりません。3,000m級の山の頂上にある売店でカプチーノをお願いするのではありませんから、相手の負担は小さく同じDでもD-になり、「丁寧なお願い」を「普通のお願い」に格下げしても問題はありません。
また、お願いにあたって、前置きや理由の説明、謝罪などの言葉を尽くす必要もありませんから、
「Hello.」
くらいの笑顔の呼びかけで前後の話を済ませ、
「Coffee, please」
と言っても、相手に失礼には響きません。
ただ、連載の初回でも述べたように、本来英語は主語、動詞、目的語と型を整えて表現する必要があり、言葉を省略するほどに、フランクでカジュアルな響きが出てきます。「もうちょっと、ちゃんと言いたい」と感じる人も居るかもしれませんので、
「I’ll have coffee, please.」
などと言って注文すると、ちょうどいい丁寧さかもしれませんね。
「お水、もらえますか?」はCan IとMay Iのどっち?
日本の飲食店では黙っていても水がもらえますが、海外の飲食店では、出てこないケースも少なくありません。例えばスターバックスコーヒーでは、お水は出てきませんよね。しかし、コメダ珈琲店では水が出てきます。日本の感覚で水が欲しいと思ったら、どのようにお願いすればいいのでしょうか?
この場合、お店の定員さんとは初対面ですが、黙っていてもお水が出てこない場合、お水を出す義務が相手にない(出す文化がない)と考えた方が無難です。両者の関係はB。
ただ、お水を出す作業の負担(迷惑)を考えると、店員さんからすればお店にあるコップに水道水(tap water)を注いで持ってくるだけですから、大した負担になりません。同じBでもB-、「かなり丁寧にお願い」を、「丁寧にお願い」に格下げした方が、響きに不自然さがなくなります。
お願いの表現としては、日本の中学生が学校で使用している英語の教科書に、
「May I have water?」
「Can I have water?」
という2つの表現が出ています。この場合は、どちらが正解でしょうか。答えを先に言えば、どちらも正解。ただ、少しニュアンスが変わります。
「May I have water?」の方は、「店員さんは、物理的にお水を持ってこられる」という前提に立った上で、「もらえるかな、もらえないかな」と半々の気持ちで、お願いしている感じ。
「Can I have water?」は、「店員さんは、そもそもお水を持ってこられるのか?」という疑問を感じながら、「もらうことはできますか?」と聞いている感じ。
初回の飛行機編で考えると、機内食の時間も終わり、普通に飛行機が上空を飛んでいる最中に、通路を歩いてきた客室乗務員に「お水、もらえますか?」と聞く場合は、「May I have water?」がいいかもしれません。「物理的にコップもあるし、水もあるから持ってこられる」という前提に立ったうえで、「でも今は食事でもドリンクの時間でもないから、持ってきてもらえるかな、どうかな」という半々の気持ちで聞いている雰囲です。
しかし、飛行機が着陸態勢に入ったタイミングであれば、客室乗務員も間もなく、自分たちの専用の席に着き、シートベルトを締め、着陸に備えなければいけません。
このような状態で、気分が悪くなり「水が欲しい」と感じたとしましょう。でも、機内はもう着陸態勢。「今、お水を持ってきてもらうことは、可能なのか?」という疑問が浮かびますよね。それでもお願いしたい場合は、「Can I have water?」の方が適しています。さらに、この場合は、お願いがお願いなだけに、なぜこの場面で水が欲しいのか、軽く理由を説明した方がいいかもしれませんね。
では別の状況を想定して、カフェやレストランで、メニューにない注文を料理する場合は、どちらが適しているでしょうか。この場合は、そもそも注文できるかできないかが分かりませんから、
「Can I order off-menu items?」(裏メニューは頼めますか?)
の方が最適ですね。May Iと聞くと、裏メニューの注文は大前提として可能だと考えている感じが伝わります。裏メニューの存在が有名なお店であれば、適切ですが・・・。なんとなく、分かってきましたか?
「割り勘にしてくれますか?」はどう言うの?
次は割り勘について。外国ではテーブルで会計をするケースがほとんどですから、割り勘の前に「お会計をお願いします」と、お願いの言葉をテーブルで言わなければなりません。相手は初対面の(に近い)定員ですが、相手はこちらのお願いに応える義務があります。
関係はDですね。「お会計したい」というのは当然のお願いですから、負担は小さく同じDでもD-になります。丁寧なお願いではなく、普通のお願いで問題ありません。
ただ、普通のお願いでも、相手が友だちではありませんから、さすがに呼びかけくらいはあった方がいいと思います。
「Excuse me.」
と手を挙げて店員さんの注意を引き、
「Check, please」
とお願いしてください。言葉を省略しすぎているため、さすがに気が引けるという場合は、
「We like to get our check, please.」
と申し出てください。もう少し丁寧度を増したい場合は、
「We would like to get our check, please.」
ですね。Wouldの響きは、連載の別の回で詳しく解説します。
その上で、店員さんが料金を示してきたら、いよいよ本番です。「割り勘をお願いします」というお願いは、初対面の相手にしますが、相手に応える義務があるかどうかは、判断が分かれるところ。
仮にお店の側に義務があると考えれば、Dになります。ただ、お店の側に負担があるかと言えば、負担や迷惑というほどでもないと考えられますので、D+でもD-でもなく、変化なしのDだとしましょう。それであれば、「丁寧にお願い」になりますね。
「標準的」な丁寧表現として教科書で習うお願いに、canとmayがあると先ほど述べました。この場合は、どちらでしょうか。
結論から言えば、お店の雰囲気によりますよね。お店の格式や雰囲気などから「割り勘は不可能なのではないか」という疑問を感じている、あるいは最初から割り勘は受け付けないとお店の側から何らかの意思表示が出ていて、それでも割り勘を受け付けてもらいたい場合は、
「Can you split the bill?」
「Could you split the bill?」
の方が、適しているはずです。仮にお店の側から、割り勘は不可と意思表示が出ている場合は、後者にして、さらに前後で理由の説明などが必要になってくるはずです。
他の例で考えれば、仮に食べ残しを持ち帰りたいと思ったとしましょう。可能かどうか分からないのなら、
「Can you wrap this up for me?」(これを包んでもらえますか?)
「Can I get this to go?」(これを持ち帰れますか?)
とcanで聞けばいいのですね。仮に可能だと分かっている場合でも、あえてcanと使えば、「できるかどうか定かではないのですが」という気持ちが出るため、mayよりもある意味で丁寧な響きになります。
「May I get this to go?」は、大前提としてドギーバッグなどの用意がお店の側にあり、物理的に持ち帰りが可能だと考えた上で、「いいですか、駄目ですか?」と聞いている感じがあります。一応そのあたりの響きも意識したいですね。
以上、飲食店のお願いの表現を考えましたが、いかがでしたでしょうか? 繰り返しになりますが、基本的には相手との関係、相手がこちらのお願いに応える義務の有無を考え、その上でお願いの負担の大きさを考慮し、表現を調整してみてください。必要に応じて前後に言葉を尽くせば、相手はお願いを認めてくれるはず。
ちょっとくらい英文法や英語表現が間違っていても、基本のスタンスが正しければ、失礼な印象は与えません。言葉にする前に少し考えてみて、その上でチャレンジしてみてくださいね。
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