(C)Nao
今年、第100回を迎えた夏の高校野球。記念すべき今夏はいつになく熱いドラマが甲子園で生まれ、かつてないほどの盛り上がりを感じさせてくれましたね。
球児たちが魅せる感動や奇跡に心奪われ、大会が終わったいま、心にぽっかり穴があいてしまった人も少なくないのではないでしょうか?
ところで、夏の高校野球にはなぜいつも日本中が大興奮してしまうのでしょうか?高校野球ファン歴約20年の筆者が改めてその魅力を考えてみました。
ひたむきすぎる「全力プレー」
負けたら甲子園を去らなければならない高校野球は、プロ野球とは一味違うスリル感たっぷり。球児たちは一瞬一瞬のプレーに全てを賭け、時には想像できないよう大逆転劇も。たとえ知らない高校であっても、全力で頑張る球児たちの姿に見る人は心を奪われてしまうのではないでしょうか。大人になると「一所懸命」になる場面が少なくなりがちですが、球児のひたむきなプレイが我々大人の心を動かし、勇気を与えてくれるのでしょう。
筋書きのないドラマ
誰もが試合は終わったと思った9回に大逆転が起こったり、前評判のよかった高校が敗退してしまったりと高校野球には予想外の展開も多いもの。今大会では星稜ー済美戦の逆転満塁サヨナラホームランや、金足農業ー近江戦の2ランサヨナラスクイズなど筋書きのないドラマに心を揺さぶられてしまった人も多いはず。
ノーマークの高校の活躍、スターの出現
毎年大会前に「高校ビッグ3」「スカウト大注目」「ドラフト1位候補」などと注目選手が話題となりますが、いざ始まってみるとマスコミがノーマークだった選手や高校が活躍することも多い夏の高校野球。今年は準優勝に輝いた金足農業がまさにそのような存在。強豪校相手に劇的な勝ち上がりを続け、見事決勝に上り詰めた姿は漫画やドラマにも描けないような感動がありました。
マスコミから注目される高校よりも、甲子園という舞台で着実に強くなっていく選手や高校を応援したくなる高校野球ファンが多いのも事実。さらに金足農業が公立の農業高校、野球部員が全員秋田出身、爽やかなイケメンピッチャーによる奮闘、優勝経験がない東北勢であることも日本中を沸かせさせた要素なのでしょう。
ちなみに一昨年の夏の甲子園で準優勝した北海高校も好ゲームが多く、エースピッチャーもV6の岡田似のイケメンと話題となったのですが、北海道という北日本ながらも今回の金足農業ほどの大旋風は巻き起こりませんでした。やはり「公立校」という要素は日本人の心をガッチリ掴んでしまうのではないかと改めて感じました。
敗者の美しさ
負けたら次の試合には出られない高校野球。敗者の流す悔し涙は時に見る人の心を揺さぶります。試合終了後、選手同士が握手やハグをしてお互いに健闘をたたえ合う姿は、スキンシップの機会が少ない日本においてはとりわけ特別なシーンなのではないでしょうか。
今大会の決勝後、涙を流す金足農業の吉田君に大阪桐蔭ナインが抱擁し労う姿には思わずもらい泣きしてしまった人も多いことでしょう。
青春時代と故郷を思い出す
社会人となって忙しい日々を送っていると、自分の高校時代を思い出す機会は少ないもの。ひたむきにプレーをするキラキラした球児を見ると、つい自分自身の高校時代と重ね合わせ、自分にもあんな頃があったなと青春を思い出したり、大人になるにつれて忘れてかけていた感情が蘇ってくる人も少なくないのではないでしょうか。
また就職や結婚で故郷を離れて暮らしている人にとっては、地元代表校の試合を見るとたとえその高校を知らなくとも郷土愛が刺激されることも多いでしょう。
「熱闘甲子園」の存在
大会期間中の夜、テレビ朝日系列局で放送される「熱闘甲子園」。番組では試合結果だけでなく、球児の素顔や背景を掘り下げて紹介。
甲子園という舞台の裏側にあるドラマがきめ細かく描かれ、高校野球ファンに昼間の試合と同じくらい愛され続けています。スポーツニュースでは知り得ないような球児や高校、また球児を支える人々の魅力が伝えられ、そのストーリーを知っていると試合も一層楽しく見れるんです。春のセンバツよりも夏の高校野球が盛り上がるのはこの熱闘甲子園の存在も大きいのではないでしょうか。
(ちなみに最終日にはその年の大会をまとめた5分ほどの「エンデイング」が流れ、高校野球ファンの間では毎年その内容や出来栄えが話題となります。エンディングは毎年各高校が満遍なく登場するのですが、今年は金足農業の尺が長めでこれはかなり異例のこと。改めて金足農旋風のすごさを感じます)
筆者が今大会で感じたこと
(C)Nao
記念すべき100回大会にふさわしい、心を揺さぶられてしまう試合が多かった今夏。大会が終わったいま、マスコミの報道はほぼ金足農業一色。公立の農業高校、奇跡のような展開の試合、イケメンピッチャーの奮闘などが日本人の心をガッチリ掴んだわけですが、史上初2度目の春夏連覇を果たした大阪桐蔭にあまりスポットが当てられていないことに違和感を感じました。
筆者は決勝戦を甲子園にて観戦しましたが、3塁側も含め球場全体の約7割は金足農業への応援に包まれていました。地元ながらアウェー感もあるなか、堂々とした戦いぶりを見せた大阪桐蔭ナイン。特に試合後アルプス席に向かって一礼し、その場で泣き崩れた主将の中川君の姿には深く心を打たれました。
昨年の大会では1塁手として出場した中川君。3回戦の仙台育英戦では9回裏、内野ゴロの送球を受けたもののベースを踏み損ね、次の打者に逆転サヨナラ打を浴び大阪桐蔭は春夏連覇を逃してしまいました。敗退の理由は決して彼だけのものではありませんが、想像を絶する責任感と重圧感を背負っていたことでしょう。
黄金世代などと注目されるプレッシャーも抱え、球場全体が金足農業を応援する雰囲気にもかかわらず素晴らしい大健闘でした。マスコミはもうちょっと両校を取り上げて健闘を讃えてもいいのではないでしょうか。
私立の圧倒的な強さが目立つ昨今の高校野球。公立高校や地元出身の球児たちで構成された高校が支持を集める一方、全国から選手を集める高校への批判的な意見も少なくありません。球場では地元出身者が少ない高校へ醜いヤジを飛ばす悲しい大人もいるほどです。
しかしわずか15歳にして親元を離れ、合宿所での生活を送るのには相当な覚悟が必要なことでしょう。さまざまな感動やドラマを魅せてくれる高校野球。野球留学、地元出身などに関係なく、温かい気持ちで応援してもよいのではないかと筆者は思います。