旅行中に使うクレーム英語表現を考える今回の連載。6回目は観光地で必要なクレーム表現をいくつか考えてみたいと思います。クレームを英語で伝えるときの基本については、連載の初回に記してありますので、この回から読み始めたという人は、初回の記事、あるいは姉妹編のお願い上手のトラベル英会話もチェックしてみてくださいね。
観光地に入場制限で入れなかった場合のクレーム表現は?
最初は観光地に入場制限で入れなかった場合のクレーム表現(complaint)を考えてみましょう。筆者もかつて、ある国の国会議事堂を見学しようと出かけると、入場制限で入れなかった思い出があります。このような場合、どのように伝えればいいのでしょうか。
まずはいつものように、上述の表で状況を整理してみます。クレームを言いたい相手はチケット売り場のスタッフだと考えられますから、初対面になります。「入場制限を解除して、入れてほしい」という要求がこちらの言い分になるかと思いますが、目の前の相手はこちらの要求に応える権限がないと考えられますから、義務や責任も発生しないと考えていいかもしれません。よって、状況はBですね。
次は自分の被る迷惑度の大きさや、負担の大きさを考えます。クレームを言いたくなるくらい入国前から楽しみにしていた観光地だとすると、心理的ショックは大きいと考えられます。その分だけ「かなり慎重」な要求を、「慎重にクレームと要求」に格下げしても問題はないと考えられます。同じBでもB-になります。
また、文句を言う相手は自分の部下でも手下でもありません。対等の関係にありますから、直接的に非難の言葉を浴びせるのではなく、呼びかけや前置き、状況の説明など言葉を尽くして、こちらの言い分を伝えたいです。
「I came here all the way from Japan to see this. Is there any way that you could be so kind as to let me in?」(私は日本からこの場所を見るためにはるばるやってきました。何とかご厚意で入れてもらう方法はないでしょうか?)
下線を引いた部分のように事情を伝え、相手の心を動かす形で要求を伝えた方が、事態が好転する可能性は高いです。クレームと言うと相手をまくしたて、何かストレスを発散するような行為と勘違いしてしまうかもしれませんが、そのような言動は、
「This does not solve anything.」(何も解決しない)
と、今回の連載で英文をチェックしてくれたアメリカ人の翻訳家も指摘していました。相手を責めなじるようなクレームと、クレーム上手な英会話表現は全く異なりますから、注意したいですね。
いわれのない入場料を取られそうになった場合のクレーム表現は?
次はいわれのない入場料を取られそうになった場合のクレーム表現を考えます。筆者もインド東北部の村を自動車で通過しようとすると、「村では祭りが行われているから、入場料を払え」と、いわれのないお金を請求されたケースがありました。このような場合、どうすればいいのでしょうか。
不必要な入場料を請求してくる人は、初対面です。「入場料は発生しない。払わない」というこちらの要求に応じる義務は、本来なら向こうにあるはずです。よって関係はDになります。
次にこちらの迷惑度を考えてみます。払う必要のないお金を払わされるのですから、被害や迷惑は大きいと言えます。その迷惑の分だけDでもD-、「慎重にクレームと要求」から格下げして「普通にクレームと要求」をぶつけても、問題ないと言えます。
ただ、普通に要求すると言っても、相手は部下でも子分でもありません。対等の人間ですから、頭ごなしの態度は絶対にNGですね。もちろん、身の安全を最優先し、さっさと支払ってしまうべき場面もあるはずです。しかし、身の安全が保障されているような場面では、相手を責めるような言葉を避けつつ、言葉を尽くして支払いを拒否したいです。
「There is no admission fee mentioned in my guide book or the official tourist pamphlet, and there is no sign saying that an admission fee is necessary. Why are you asking for an admission fee?」(ガイドブックにも、公式の観光パンフレットにも、入場料の記述はありません。入場料が必要だと書かれた看板もありません。なぜ、あなたは入場料を要求するのですか?)
下線で状況を説明し、反論する根拠を伝えてから、相手に疑問を呈します。言葉の響きは別に丁寧でも何でもありませんが、頭ごなしに相手の不正を責めなじるような態度は取っていません。こちらがけんか腰の態度になると、本当に暴力沙汰になるかもしれません。注意したいですね。
路上で物乞いや物売りを振り切る英語表現は?
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最後は路上で追い回してくる物乞いや物売りを振り切る英語表現を考えます。物乞いに金銭やその他を与えるか、物を買うかどうかについては、難しい問題だと言えます。専門家に取材した経験もありますが、国、地域、あるいは当人によって物乞いや物売りをする事情が異なっているため、一概に何が正しいかは判断が難しいとの話でした。そのため今回は、単に物乞いや物売りを振り切りたいと感じたときの英語表現を考えます。
まず、相手は初対面です。「やめてほしい」というこちらの要求に、本来なら応じる義務が相手にあるはずです。よって状況はDですね。
こちらの迷惑度も考えてみましょう。別に物乞いや物売りに声を掛けられたところで、何か被害に遭ったかと言えば、全く違うはずです。ただ、迷惑がゼロかと言えばまた違うと思います。そこで今回はプラスマイナスゼロ、丁重さや慎重さの調整は行わず、Dのまま「慎重にクレームと要求」を行いたいと思います。
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「I’m sorry, I am not interested.」(ごめんなさい。興味ないです)
いきなり路上で話かけてきた相手に対する返答ですから、こちらの言葉自体も決して丁寧とは言えません。しかし、最初の下線で謝罪の言葉を口にして、相手の心をケアしています。その意味で少し、慎重さや丁重さが感じられますね。相手とこちらは対等。相手を尊重する気持ちを意識しつつ、拒否の言葉を伝えたいですね。
以上、観光地でのクレーム表現について考えましたが、いかがでしたか? 姉妹編のお願い上手なトラベル英会話と違って、文章が長く、難易度も高くて、すぐに口に出てこないかもしれません。しかし、とりあえず基本的なスタンスを決め、そのスタンスから外れないようにすれば、少なくとも相手に失礼な言動にはならないはずです。もちろん全ての英文はネイティブスピーカーのチェックを受けていますので、もし状況が合致するのであれば、そのまま表現を使っても問題ありませんよ。
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