あちこちで中世の面影を残すメルヘンチックな町々に出会える国、ドイツ。
ローテンブルクをはじめ、日本でもよく知られている町もありますが、元ドイツ在住の筆者が本当におすすめしたいドイツの観光地は、日本ではほとんど無名の小さな町が少なくありません。
一瞬にして童話の世界へといざなってくれる、絵本のような風景が楽しめるドイツの小さな町々を訪ねてみましょう。
リューネブルク
北ドイツ、ハンブルク近郊に位置する町がリューネブルク。ハンブルクから鉄道でわずか30~50分と、ハンブルクから気軽に日帰り旅行が楽しめるアクセスの良さも魅力です。
古くから製塩業で栄えた町で、リューベックへといたる「塩の道」の起点としても有名。その名残は今も健在で、塩のすべてがわかる「ドイツ塩博物館」まであるほどです。
リューネブルクの魅力は、なんといっても重厚なレンガ造りと、素朴な木組み建築が融合したメルヘンチックな町並み。ヨーロッパにレンガ造りの町並みや木組みの町並みは数あれど、リューネブルクのように両者が高度に融合した町というのは珍しいのです。
レンガ造りや木組みの家は見慣れているという人にとっても、リューネブルクの町並みは新鮮に映ることでしょう。
ハンブルクから近いわりに観光客の姿は少なく、穏やかな雰囲気の中ゆったりと町歩きが楽しめます。
ツェレ
「北ドイツの真珠」と称されるツェレは、絵本のように美しい木組みの町並みが自慢。木組みの家と聞くと、パステルイエローなどの明るい色の家々を思い浮かべるかもしれませんが、この地方の木組み建築は、茶色に近いオレンジや、深い赤、緑などの落ち着いた色づかいが主流。
それだけに、ツェレの町には、メルヘンチックなムードに加え、高貴でどこかミステリアスな空気が漂っています。どの通りを歩いても、丁寧に保存された見事な木組みの家々がずらりと並んでいる光景は圧巻。とりわけ、ツェレで最も美しいといわれる木組みの家「ホッペナーハウス」と、ツェレで最も古い家は必見です。
ツェレの魅力は、可愛らしい木組みの町並みだけにとどまりません。ツェレで最も重要な建造物が、17世紀にツェレ大公の居城として建てられた城。ルネッサンスとバロックのふたつの建築様式が混じりあった優雅な城で、城内では大公妃たちの居室や貴重な陶器コレクションなどを見ることができます。
クヴェトリンブルク
ドイツの中央よりもやや北に位置するハルツ地方には、独自の文化に育まれた個性豊かな町がいっぱい。そのひとつが、旧市街がまるごと世界遺産に登録されているクヴェトリンブルクです。
クヴェトリンブルクは、ヨーロッパでも屈指の木組みの町として有名。ほとんど戦災を受けなかったことから、1500ものあらゆる木組みの家々が残っているのです。
その風景は、まさに天井のない博物館。旧東ドイツに位置し、近代化にやや遅れをとったこともあって、数百年間ほとんど変わっていないのではないかと思う光景が広がります。
そんなクヴェトリンブルクのシンボルが城山。ドイツの初代王・ハインリヒ1世が建てた城があることから、「ドイツ発祥の地」とも呼ばれています。
12世紀に建てられた女子修道院付属の聖セルヴァティウス教会は、ドイツを代表するロマネスク建築のひとつ。ロマネスク様式らしいどっしりとした重厚感のある造りで、町のあちこちから見えるクヴェトリンブルクのランドマークです。
ヴェルニゲローデ
クヴェトリンブルクと並んで、ハルツ地方で最も美しい木組みの町並みを残しているのがヴェルニゲローデ。クヴェトリンブルクがしみじみとした情緒を感じさせる町並みなら、ヴェルニゲローデは見るだけ元気になれるような、カラフルでポップな町並みが持ち味です。
旧市街のシンボルは、2本のとんがり屋根をもつオレンジ色の木組みの市庁舎。童話の世界から飛び出してきたかのようにキュートな姿は、一度見ると忘れられません。
もうひとつ、ヴェルニゲローデで見逃せない場所といえば、町を見下ろす高台にそびえるヴェルニゲローデ城。ヴェルニゲローデの伯爵が1120年に建てたのがはじまりで、荒廃や改築を経て、現在のようなバロックとネオゴシック様式の城になりました。
端正で重厚感あふれる姿は、「これぞヨーロッパの古城」といった趣。独特の雰囲気から、「ラプンツェルが過ごした城」とも噂されているほどです。
マールブルク
メルヘン街道沿いに位置するマールブルクは、グリム兄弟が大学に通った町。趣深い坂の町として知られ、丘の上に建つ方伯城が旧市街を見下ろしています。古い木組みの家々と、方伯城が折り重なるようにして建つ風景は、坂の町ならでは。
旧市街には赤やグレーの木骨組みが印象的な家々が並び、思わず立ち止まってじっくりと眺めてしまうほど趣向を凝らした美しい建物の数々に出会えます。
マールブルクを訪れる観光客に人気を集めているのが、「かえるの王さま」や「灰かぶり姫(シンデレラ)」などのグリム童話をモチーフにしたオブジェの数々。巨大なシンデレラの靴をはじめ大小10以上のオブジェがあり、それらを探しながら歩けばマールブルクの旅がよりいっそう楽しめます。
フランクフルトから列車で1時間ほどで行けることから、フランクフルトからの日帰り旅行にもおすすめ。近代的なフランクフルトとは全く違った、情緒あふれる町並みが楽しめますよ。
ディンケルスビュール
ロマンティック街道といえば、なんといってもローテンブルクが有名ですが、ロマンティック街道沿いには、ほかにも美しい町がたくさんあります。その代表格が、ディンケルスビュール。
ローテンブルク同様、城壁に囲まれた中世の城塞都市で、イギリスの旅行サイトなどで、ドイツで最も美しい旧市街のひとつにも選ばれています。
ほとんど戦争の被害を受けなかった旧市街には、色とりどりの美しいファサードをもつ家々が建ち並び、美しい中世都市の姿をそのままにとどめています。旅客列車が運行していないこともあって、ローテンブルクよりもずっと静か。ドイツの一大観光地、ロマンティック街道沿いにあって、ほっと一息つける優しい町です。
この町の名物が、夜警ツアー。かつて中世の町を守っていた夜警が登場し、夜の町を案内してくれるツアーで、町のレストランや居酒屋を訪ね歩いて、参加者たちがワインを回し飲み。夜のとばりが下りた旧市街に響き渡る夜警の歌声と角笛は、この上なくロマンティックです。
メーアスブルク
ドイツ南西部、広大なボーデン湖のほとりにたたずむロマンティックな町がメーアスブルク。古城とワインで知られる小さな町には、南ドイツらしいパステルカラーの美しい町並みが広がっています。
スイスとの国境に近いこともあって、塔のある風景にはどこかスイス的な雰囲気も感じられます。その町並みはおとぎの世界そのものので、日本ではほとんど知られていないのが信じられないほどの可愛らしさ。
メーアスブルクのシンボルが、中世の面影を色濃く残す旧城。現在も人が住んでいる城としてはドイツ最古の城といわれ、中世の武具などが展示されているホールや、ドイツを代表する女流詩人アンネッテ・フォン・ヒュルスホフが住んでいた部屋などを見学することができます。
重厚なたたずまいの城と、赤茶屋根の家々、海のように雄大なボーデン湖が織り成す風景はいつまでも心に残る美しさです。
じっくりと旅してみると、「こんなに素敵な場所があったんだ!」と思う町が無数に見つかるドイツ。
大都市や有名観光地もいいですが、日本ではあまり知られていない小さな町も旅のルートに加えてみてはいかがでしょうか。
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