同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。
連載 第5回 テーマ:日本のビジネスパーソンの装いの8割は、何らかのミスを犯している
服を纏うということは、その服が生まれた国の文化や歴史を纏うということ。しかし、その着こなしや振る舞いから、日本人が海外から失笑されているという現状が、一連のインタビューから浮き彫りになりました。西洋生まれの洋服を纏うことが日常となり、国際化が加速する今、私たち日本人は洋服ときちんと向き合う必要性に迫られています。でも、一体、どこで何を学べばよいのでしょうか・・・?
以下のリスト、一つでもチェックがつく人は必読ですよー!
- 仕事での海外出張や外国人に対応する機会が多い
- いわゆる、高級ブランド品を持っている
- 正直、ドレスコードがわからない
- 街中で見かけるお洒落な人をファッションの参考にしている
日本人はブランド志向ではなく、ブランド依存?
「ブランドに依存してしまう理由は、『何が本物なのか』『何が本当によいのか』がわからないからなのだと思います。ご自身の中にそれを見極める審美眼があれば、なにも、ブランドの露骨なロゴに頼らなくてもいいと思うんです。でも、そこに自信がないので、『ここのブランドのこのバックだったら大丈夫だろう』とか『ここのブランドのこの高級生地のスーツだったらいいだろう』となってしまっているんですね。(審美眼を持つ人たちには)そのことが見透かされてしまって、笑われてしまうわけなんですが。」
「本当に自分に自信があったり、伝えたい想いやメッセージやミッションがあったりすれば、過度に飾り付けなくても、外側に滲み出てくると思うんです。自ずと、その人の哲学に沿った装いになっていきます。しかし、中身に自信がない人ほど、外側をゴテゴテに盛りたがる。これは、ハーバード大学をはじめ、様々な研究機関でも研究されていることですが、人は、自分の自尊心が傷つけられたときや自信を失くしたときほど、ブランドのものに走るという傾向があります。そういった意味で、過度にブランド品を身に付けていたりするのは、自尊心の低さや自信のなさを表しているとも言えますよね。」
欧米のブランド事情
「欧米では、階級社会の歴史的影響が色濃く残っていることもあって、どんなにお金があったとしても、全身を高級ブランドで包むようなスタイルは素敵だと思われません。むしろ、経済的にも精神的にも本当に豊かな人というのは、それによって要らぬ嫉妬を買ってしまうことを知っていますし、ブランド品を身に付けて虚勢を張るのは、品性のないことだと考えています。例えば、ニューヨークでは、ブランド品に身を包んだり、自己主張の強い装いをしていたりするのは、ファッションアイコンとして立場を築いているような、一部の特別な人たちです。代表的なのはファッションやショービジネス業界の人、アーティスト達です。」
「欧米では、いわゆる、“おしゃれなファッション”ではなく、“知性を感じさせるファッション”の方が評価される傾向にあります。」と安積さんは言う。
装いへの不安はなぜ起こる?
「私たちは、洋服について、何が正しいのか、何が間違っているのか、そういったことを学ばないまま、大人になってしまいました。日本人は周囲からの見え方を気にする視点(他者視点)があるにも関わらず、洋服の装いについて沢山の間違いを犯してしまっているのは、結局、自分が(他者から)どのように見られているかが分からないからなのだと思います。自分はよいのか、悪いのか。かっこいいのか、そうでないのか。何を基に判断をすればよいのか判らないので、『この格好で大丈夫かな?』という不安な気持ちを抱いてしまうのだと思います。」
「これは、つまらない解釈かもしれませんが、まずは原理原則を知ること。何が大丈夫で、何がダメなのか。何が洗練されていて、何が野暮なのか。装いのセオリーに従っていれば、こういった線引きがクリアになりますよね。その原理原則をわかって着崩している人と、それを知らずにただ間違った装いをしている人とでは、雲泥の差があります。」
日本のオフィス街で、お手本を見つけるのは至難の技
「丸ノ内や銀座、新橋などのオフィス街で日本のビジネスパーソンの装いを観察していると、基本ルールを知らないことから、八割近くの方が何らかの装いのミスをしています。 ですが、みんながみんな間違っているので、自分のどこが間違っていて、何が正しいのかわからない。これでは、原理原則、本当のルールを学ぶことはできませんよね。」
実は滑稽に見えている、日本の女性アナウンサーの装い
「日本のビジネスウーマンの装いは、欧米のグローバル・キャリアスタイルとは、かけ離れていますね。例えば、ジャケットよりもカーディガン、タイトスカートよりAラインスカート、キラキラのネイルアート。こういった姿は、欧米のエグゼクティブから『まるでデートに行くときのような装いだ』と嘲笑されてしまっています。
日本の女性アナウンサー(の装い)に代表されるような、ふわりとしたスカート、パステルカラー、フリル、レース、リボン、シースルー素材を取りいれたファッションも、『ティーンエイジャーのようだ』と揶揄され、『日本の女性アナウンサーは、デートに行くようなふわふわした格好で、深刻なニュースを読んでいて滑稽だ』と皮肉まで言われることもあります。」
「日本には着物の文化があり、日本人はそれにまつわる立ち居振る舞いや精神性の存在を理解しているからこそ、『下手に着物には手を出せない』と思うのはわかります。ましてや、京都や浅草でたまにみかける外国人の方が、着物をぐちゃぐちゃに着て、脛が見えるくらいに大股で歩いている光景を目の当たりにすると、『こうじゃないんだよな』と、日常的に着物をお召しになっていない方でも、歯痒い気持ちになるのではないでしょうか。
ですが、同じように洋服の文化がヨーロッパにはあるわけで、私たちがすごく適当に洋服を着てしまうと、欧米人もそういう感覚になるということです。私たちは、毎日のように洋服を着ていますが、それは“借り物の文化”ですので、そこをもう少し見直してみると、洋服との向き合い方も変わるのではないかなと思います。」
装いのいろはを学ぶ効果的な方法とは?
「例えば、ドレスコードの体系的な知識から学ぶこともできますし、他にも、色が持つパワー(何色を身につけると人の目にはどう映るとか)、どんな柄を用いるとどんなメッセージを与えるのか等を知っておくだけでも、何も知らないのとでは全く違ってくると思います。これが正しくてこれは間違っている、といった判断基準が明確になれば、洋服選びが楽になりますし、『自分は客観的には、こう見えている』と自己認識が、安心感にも繋がってくると思います。
一番いいのは、男性でも女性でも、スーツを一着仕立ててみることですね。テーラーでスーツを仕立てると、数十万することもあります。すると、その一着に魂を込めるんですよ。そう簡単に買い換えられるものではないので、間違った買い物はできないわけです。」
「それが結果的に、この一着を通して、洋服のパーツの所以や細かなルールを知って、本当に自分は何を目指していきたいのか、究極の自問自答をすることになります。3年後、5年後のビジョンを描いたときに、その自分に相応しい装いをしようとするんですよね。自分の将来のビジョンを明確にするためにも、できれば、社会人になるころに一回経験されておくといいのではないかなと思います。」
「安心感や気持ちの余裕は、余裕のある振る舞いや、他者への気配りというところにも関係してくると思います。『今日の服装、大丈夫かな?』とか、自分にばかり意識がいってしまうと、周りの人に対しての気配りや関心は薄れてしまいますよね。当然、周りの人を褒めるという、心の余裕もなくなってしまいます。どのような場においても、自分ではなく周りを見られる余裕というのは、落ち着いた大人の振る舞いとリンクしていると思います。」
自分自身と装いへの不安は、ブランド品では埋めることができない心の穴です。仮に、ブランド品の力をかりて不安を払拭したとしても、その場しのぎの応急処置なのかもしれません。次のステップに進むためには、装いの原理原則を学ぶことが求められます。しかし、ルールに従うだけでは、自分らしさが失われてしまうという懸念もあります。次回は、世界標準の装いのルールのなかで、自分らしさを輝かせる方法について、安積さんに尋ねていきたいと思います。
安積陽子氏インタビュー
<1>海外で笑われないための装い、洋服選び
<2>日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?
<3>日本の常識は世界の非常識?日本人を残念に見せる仕草とは
<4>無知なジェスチャーが、旅先でもあなたを危険にさらしている
もぜひチェックしてくださいね。
●国際ボディランゲージ協会代表理事
●IRC JAPAN代表
アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング学科を卒業後、アメリカの政治・経済・外交の中枢機能が集中するワシントンD.C.で、大統領補佐らを同窓に非言語コミュニケーションを学ぶ。そこで、世界のエリートたちが政治、経済、ビジネスのあらゆる場面で非言語コミュニケーションを駆使している事実に遭遇。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブや政治家、女優、モデル、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、Image Resource Center of New Yorkの日本校代表に就任。2016年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、仕草から相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材の育成」。非言語コミュニケーションのセミナー、研修、コンサルティング等を行う。
《著書》「NYとワシントンのアメリカ人がクスリと笑う日本人の洋服と仕草」
[Interview photo by MASASHI YONEDA]
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