1本の木に会いに行く【4】陸前高田 奇跡の一本松<岩手県>

Posted by: 阿部 真人

掲載日: Jun 2nd, 2019

何気ない1本の木。その木の秘境に分け入り、子細に観察し、ふと周囲を見渡すといろんなものが見えてきます。今回は人々の記憶にとどまる陸前高田の「奇跡の一本松」に会いに行きました。震災から8年が過ぎ、あの一本松と陸前高田がどうなっているのか、とても気になっていたのです。

一本松

「奇跡の一本松」に会いに行く

TABIZINE還暦特派員の阿部 真人です。

陸前高田の街はまだまだ復興の途上にあるらしいことはテレビや新聞の報道などで見聞きしています。街の中心部に街並みらしきものはまだ形作られていません。海岸部は更地で嵩上げの途中です。そして一本松がどこにあるかははっきり分かりません。海岸にあったことを思い出して、行ってみることにしました。高台を走る三陸自動車道から海岸部に下っていきます。

建物のないまっ平らな海岸部に出て、ダンプカーや工事関係の車が行き交う道を進むと「奇跡の一本松」の場所を示す表示がありました。しかし途中で表示もなくなり、仕方なく近くにいた交通整理員の方に一本松の場所を尋ねると、専用の駐車場がすぐ右手にあるので、車を止めて歩いて行くことになるといいます。

一本松駐車場

すでに時刻は夕方の4時を過ぎていたので、駐車場は閑散として見学者も少ないようでした。一本松まで歩いて10分ほどということです。海岸沿いの国道45号線を歩いて向かいます。すると遠く海岸近くに一本松らしきものが見えてきました。

遠く一本松

一本松の孤独を思う

あまりにも有名になった松ですが、あらためて現場の映像を思い出してみます。一本松の印象が強烈だったので松の周囲に何が写り込んでいたのか、しっかりと覚えている方は少ないのではないでしょうか。

一本松と建物

周囲には何もなく松が一本残されている風景を想像していましたが、じつはその一本松の先には横に長いベージュの建物の残骸が横たわっています。この建物が何だったのかこの時には分かりませんでした。駐車場に戻って売店のスタッフに尋ねると「陸前高田ユースホステル」なのだそうです。震災の時にはすでに休業中で無人だったために被災した方はいなかったといいます。

ユースホステル

もともとは一本松が陸側、ユースホステルが海側にあって、さらに海辺には松原があったそうですが、松原はすべて押し流されてしまいました。建物は一本松が倒れないように津波から守った形だといいます。このユースホステルも今後遺構として残されるそうです。

建物とブルドーザー

どんよりとした曇り空であたりはうす暗く、一本松を見に来ていたのはほんの一組、二組でした。現場で間近に見る一本松。一本松は寂しそうに見えます。そんなことはありえないのですが、一本松の孤独を感じました。
一本松はすでに枯れ死んでいて今はモニュメントとして残されているのですが・・・

一本松上部

周囲は砂浜だったためにいまでも海水が入り込み、排水・造成工事が行われている様子でした。8年たってもまだこの程度なのだと驚かされます。あるいは人が住む地域から先に工事を始めたため取り残されているのかもしれません。

一本松周辺

一本松を見ているといろいろな記憶が呼び覚まされます。あの地震と津波。その当時自分は何をしていたのかも思い起こされます。たぶん多くの人々も同じように、あの時の地震と津波、そしてそれぞれの個人的な体験を思い出すのではないでしょうか。
未来志向のモニュメントですが、一本松はあの当時の記憶の入り口でもあるようでした。

一本松縦サイズ

陸前高田の街を歩いてみる

震災遺構として残されているのは一本松だけではありません。海岸脇の国道45号線沿いにポツンと建つ5階建ての市営住宅も印象的です。5階部分まで津波が押し寄せたと書かれていました。

旧市営住宅

復興は遅れているように感じます。被災地域が広範に渡っているためかもしれませんし、海岸部は広大な公園になる計画のためかもしれません。うまく進まない復興に批判の目を向けることは簡単です。

平野部ロング

翌日ふたたび一本松の駐車場に行き、街の中心部への道順を教えてもらいました。
道はいたってシンプルです。高台からの道の途中で東に向かえばよいのだそうです。

市の中心部

遠くから見た時には何もないように見えた場所にも建物がありました。すべて新築の建物です。
街の中心部には2年前に商業施設「アバッセたかた」がオープンしました。スーパーやドラッグストア、文具店、菓子店、そして図書館などが入った施設です。

アバッセたかた

「アバッセ」とは陸前高田の方言で「一緒に行きましょう」という意味だそうです。たくさんの人々が誘い合って訪れ、笑顔あふれる場所になってほしいという願いから名づけられました。

アバッセ内

復興とは、ふたたびもとの盛んな状態に戻ることです。しかし街の人々は津波への不安からふたたび同じ場所に戻ることをためらっています。街を離れた人々に訊いた陸前高田市のアンケートで、6割の人は「戻るつもりはない」または「戻りたいが、すぐには戻れない」と回答しています。
「アバッセたかた」の向かいに、市の復興まちづくり情報館のプレハブがありました。

復興まちづくり情報館

ここには地震と津波でどれだけ街が変わったのか、写真が掲示されています。「奇跡の一本松」が震災前にどのように立っていたのか、それがどう変わったのかも写真で示されていました。
そして復興計画による街の未来の模型も展示されていました。

情報館内部

情報館の入り口に被災者への追悼の碑が建てられていました。一時的な施設のようで、将来は「奇跡の一本松」に近い海岸に公園が整備され、追悼・祈念施設が建てられるといいます。

追悼施設

無数の千羽鶴を見ているだけで心が痛みます。

千羽鶴

碑の脇から海岸から広がるまっ平らな平野部が見渡せます。この平野部にふたたび活気が戻ってくるのだろうか、正直重い気持ちになってしまいました。

平野部ロング

もうひとつの一本松

海岸から1キロ以上も内陸部に建つ浄土寺は、戦国時代の1574年に建てられたお寺です。津波はこんな内陸まで押し寄せたそうです。本堂は床上まで津波に曝されましたが、幸い流されずに済んだといいます。じつはこの寺の境内にも1本の松が残されていました。

浄土寺

樹齢220年余りの赤松。当時この松も津波に襲われ、流されてきたガレキによって、何本もの枝が奪われました。枝ぶりは大きく変わってしまったそうですが、根が十分に張っていたことや幹が強い衝撃を受けなかったことで、この一本松は生き残ることができたそうです。ちょっと嬉しい出会いでした。

浄土寺の松

三陸応援ツアーに行こう

被災地への旅行はつい敬遠しがちですが、三陸がふたたび元気になるためには、多くの人々に訪ねてもらうことが必要です。奇跡の一本松をはじめとした震災遺構を見て回るのもいいですね。周辺には温泉宿もあります。三陸の海の幸は豊かです。
まずは陸前高田の南に位置する南三陸町志津川地区に作られた「南三陸さんさん商店街」はいかがでしょう。

南三陸さんさん商店街

震災で被害を受けた鮮魚店や食堂、菓子店、土産物屋にカフェ、衣料品店、コンビニなどの店主などが復興の拠点にしようと28店舗が軒を連ね、休日ともなると大勢の観光客や買い物客でにぎわいます。おススメはマグロやウニ・イクラをたっぷり載せた海鮮丼です。

メニュー

温泉が大好きなら、一本松から車で15分の高台に「大船渡温泉」があります。三陸で獲れる海の幸は新鮮そのもの。地物を使った料理は、ひと味もふた味も違います。

大船渡温泉
刺盛

温泉はナトリウム・カルシウム塩化物泉。美しい大船渡湾を見下ろす展望露天風呂まであります。
海は時には脅威にもなりますが、私たち日本人にとっては身近で豊かな大自然です。
美しく広々とした海を前にすると、心が晴れやかになります。

大船渡湾ロング

奇跡の一本松 岩手県陸前高田市気仙町字砂盛176-6
陸前高田市役所より車で約5分 JR大船渡線BRT「奇跡の一本松駅」より徒歩1分。
駐車場 陸前高田市気仙町字土手影142-1ほか 駐車場出入口は国道340号側のみです。国道45号からは出入りできません。駐車場から奇跡の一本松までは800m徒歩です。

アバッセたかた 岩手県陸前高田市高田町館の沖1番地
http://abassetakata.jp/ 

浄土寺 岩手県陸前高田市高田町字洞の沢26

南三陸さんさん商店街 宮城県本吉郡南三陸町志津川五日町51 TEL:0226-25-8903 
https://www.sansan-minamisanriku.com/

大船渡温泉 岩手県大船渡市大船渡町字丸森29-1 TEL:0192-26-1717 
https://oofunato-onsen.com/

1本の木に会いに行くシリーズ、1〜3もぜひご一読ください。

PROFILE

阿部 真人

Masato Abe 還暦特派員

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

大学を卒業後、およそ30年間テレビ番組を作ってきました。57歳の時に、主夫となり、かつ自由人として旅に生きることを決意して早期定年退職。登山を始め、東京の街歩きガイドや温泉めぐり、豆大福探訪などなど60歳の還暦を迎えて好奇心が高まっています。

SHARE

  • Facebook