開放感あふれるレストランバスで楽しむ優雅なバス旅とは?
朝8時30分。函館駅前に鮮やかな赤の車体が目を引く2階建ての「レストランバス」が到着しました。バスの1階部分は運転席と料理ができる厨房になっていて、客席となる2階には25人が着席できる座席とテーブルが設置されています。バスの屋根はスライド式のガラス張りなので、暖かくてお天気の良い日にはオープントップで開放的な景色を楽しむことができるんです。
「高速バスを1億円かけて改造した」というこのレストランバスは、なんと全国にたった3台しか走っておらず、ここ北海道では網走バスが運行しています。今年7月には札幌市内でフレンチのコースを楽しむツアーが、そして8月には網走で獲れたての日本海の海の幸を味わう日本食のツアーが開催されたんだそう。ちなみに今回のツアーの舞台となる「檜山地方」は、地元函館でも知る人ぞ知る、ディープスポットなんだとか。「レストランバスで行く北海道の旬を食する旅」はオフィシャルサイトでチェックしてみてくださいね。
JR東日本「TRAIN SUITE四季島」の料理人も務めるシェフの極上フレンチ
なんといっても「レストランバス in ひやま」の一番の魅力は、雄大な景色を眺めながら、予約の取れない人気店「climat(クリマ)」の関川裕哉シェフが手掛ける、地元の食材を使った本格フレンチのコース料理が味わえること。なんとこの関川シェフ、JR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE四季島」の料理人も務められており、大泉洋さん主演の映画『そらのレストラン』に出てくる有名シェフのモデルの一人。日本人に馴染みのある味を一皿に必ず一つは取り入れながら、こだわりの薪焼き料理や繊細なデザートを生み出す、スーパーシェフなんです。
函館駅を出発してから1時間半ほど走り到着したのは厚沢部(あっさぶ)町にある「鶉(うずら)ダム展望駐車場」。厚沢部町は稲作を中心とした農業と林業の町で、メークイン(ジャガイモ)発祥の地としても知られています。このダムは平成13年に完成した灌漑を目的とした農業用ダムで、このあたりの水田や畑作の用水として使われているそうです。
階段下の厨房からは、いい匂いが漂ってきました。一品目は「厚沢部産なつのこまのケークサレと玉蜀黍のサブレ 小さな南瓜のポタージュ」。「なつのこま」という品種のトマトを使ったバラの形の塩味のケークサレと、「玉蜀黍」ことトウモロコシのサブレ、「ダークホース」という品種の南瓜の冷たいポタージュの中には、小さく切って蒸しあげた南瓜とマスカルポーネ、柑橘を混ぜたものが入っています。そして黄金色のジャガイモ「キタアカリ」の上には、なんと映画『そらのレストラン』にも登場した村上牧場の3年もののチーズ「カリンパ」が!
景色を楽しみながら、ワイングラスを片手に地元の名産品を使った美味しい料理が食べられるなんて、まさしく贅沢の極みですよね。ちなみにテーブルにはワイングラスがしっかり固定できる切り込みが入っているので、グラスが倒れる心配はほとんどありません。走行中のバスの中でも優雅に食事を楽しむことができるんです。
前田農園で初めてのアスパラ収穫体験!
アミューズを堪能した後は「道の駅あっさぶ」に立ち寄ってから、厚沢部町の「前田農園」さんにお邪魔して、アスパラガスの収穫体験を行いました。
実はここに来るまでアスパラガスがどんな風に栽培されているのか知らなかったのですが、アスパラガスは成長すると高さ2メートル以上も伸びてしまうんだとか。ビニールハウスの中で可愛らしい赤い実をつけた、ワサワサさとした茎が生い茂る光景に驚かされました。
前田さんのアドバイスによると、およそ25センチくらいの長さの茎が収穫に適しているとのこと。各自ハウスの中で美味しそうなアスパラガスを探してハサミで収穫していきます。
収穫体験を楽しんだ後は、新鮮なアスパラガスをそのままお土産として持ち帰ることができるのも嬉しい限り。しかもバスに戻って座席に着くやいなや、絶妙なタイミングで厚沢部産のアスパラガスを使ったお料理が登場するという、なんとも心憎い演出に心が躍ります。
二品目は「厚沢部産茹で上げアスパラガスとトリュフ 温泉卵とベーコンのソース」。高級感溢れるトリュフがかかった茹で上げとフリットの2種類のアスパラガスには、温泉卵とカリカリのベーコンのソースが添えられ、美しく盛り付けられたベビーリーフやコリンキー、カブ、ジャガイモ、トマトのサラダの下には、高級な鮭として知られる絶品の「時鮭(トキシラズ)」が隠れていました。
アスパラ畑の真ん中で収穫体験の直後に手の込んだアレンジ料理に舌鼓が打てるのも、まさに厨房の機能を兼ね備えた「レストランバス」ならではの醍醐味ですよね。しかもこのバス、通常の観光バスよりもさらに車高が高いので、車窓からの見晴らしも抜群なんです。
山の幸を堪能した後は、乙部(おとべ)町までバスを走らせて、眼下に日本海が一面に広がる「元和台」に到着しました。駐車場からグルグルと回る長いらせん歩道を降りていくと、町中漁業部の方々がホタテを焼きながら迎えてくださいました。
ホタテ磨き体験後にホタテ&新鮮な生ウニをその場で堪能!
濡れてもいいように長靴に履き替え、軍手にブラシでゴシゴシとホタテ磨き体験を行い、その磨き立てのホタテをお刺身でいただいた後、さらに焼き立てのホタテと生ウニを振る舞っていただきました。
こちらの地方のホタテはそれほど大きくはならないそうですが、潮の流れの影響からか、貝柱がしっかりしていて、プリプリとした歯ごたえと甘みが特徴なんだとか。
お刺身と焼き立ての2種類のホタテをその場で堪能できるなんて、まさに北海道ならではの体験ですよね。
しかも、ウニは半分に割ってもまだ手のひらのうえでトゲが動いているほど新鮮で、専用のスプーンですくって食べると、海の香りが口の中いっぱいに広がり、すっかり夢見心地の気分に浸ってしまいました。
港に横付けされたマイクロバスで崖の上のレストランバスまで戻ると、いよいよコースのメイン料理となる「山の幸」の登場です。良い香りにつられて厨房を覗いてみると、まさに「せたな産放牧黒豚の薪焼き 万願寺唐辛子のコンディマン」の仕上げの真っ最中。
赤ワインと相性抜群! シェフこだわりの薪焼きの放牧黒豚に舌鼓!
こちらも映画『そらのレストラン』のモデルとなった「山の会」のメンバーが育てた放牧黒豚を、シェフこだわりの薪焼きでコーティングし、山わさびをのせて盛り付けたものだそう。バルサミコで揚げびたしにしたナスと、日本海で獲れる「白貝」と万願寺唐辛子に胡桃オイルを混ぜたディップが付け合わせになっていて、柔らかくてジューシーなお肉との相性が抜群!
海の幸を堪能した直後に、今度は本格的なフレンチのメイン料理を赤ワインと共に味わえるなんて、「旅好きの食いしん坊」にうってつけのツアーであることは間違いありません。
お腹も心も満たされた後は、巨大な風力発電機が立ち並ぶ車窓を眺めながら、乙部町から江差町まで移動し、老舗の和菓子店「五勝手屋本舗 本店」へ。
老舗の和菓子屋でお土産を調達!
丸い筒形の容器に入ったこの羊羹は、白いキャップを外して下から中身を押し上げ、付属の糸で食べたい分だけ切って食べるというスタイルの和菓子。ミニサイズなら1本270円から買える上、日持ちも60日と長く、パッケージもキュート。お土産にピッタリの逸品です。
その後は、カモメが羽を広げた形に見えることから「かもめ島」と呼ばれる小島を車窓から眺め、停泊している巨大な開陽丸を記念にパチリ。
さらに、祭りには欠かせない豪華絢爛な「山車」や伝統芸能にまつわる数々の資料が展示されている「江差追分会館」に立ち寄り、檜山地方の歴史や風土を学ぶことも出来たんです。
江差追分会館で本場の民謡の迫力を体験
この日はちょうど函館に寄港中だった豪華客船の外国人観光客とともに、百畳敷のホールで江差追分全国大会優勝者が唄う本場の民謡「江差追分」にじっくりと耳を傾けました。
絶品スイーツで忘れられない旅に
そしていよいよ旅も終盤。バスに戻るとまたもや絶妙なタイミングで、デザートの「柚子の香りのウフアラネージュ マルメロとヨーグルトのソルベ」が、ハーブティーとともに運ばれてきました。
「ウフアラネージュ」とはフランスの郷土菓子で、その上にマンゴーと青蜜柑のムースと、北斗市の名産のマルメロをベースにしたヨーグルトのシャーベットがのっています。今回のツアーでは大自然の中で数々の美味しい料理を堪能させていただきましたが、中でもこのデザートの繊細な味わいが、東京に戻って来た今でも鮮明に残っています。
そしてバスは一路、この日の出発地点だった函館の町へ。「レストランバスinひやま」の旅の最後には、この日の料理を手掛けた関川シェフとアシスタントの方のほか、完璧なガイドをこなしつつ、さらにワインや料理のサーブも行うスーパーウーマンのようなバスガイドさんや、添乗員さん、運転手さん総出でお客様をお見送り。
通常のバスツアーでは絶対に経験できないことばかりが詰まった「レストランバス in ひやま」は、とても日帰りとは思えぬほど大充実のツアーでした。有名な観光地を巡るだけの旅にはもはや満足できない旅の上級者にこそ、ぜひともオススメしたいツアーです。(檜山地域を巡る「レストランバスツアー」の2019年の催行分は終了し、次回、2020年の開催が予定されています)檜山地域について興味を持たれた方は、ぜひこちらの観光情報もあわせてご覧ください。
「レストランバス」は北海道以外にも東京・京都などでも開催されています。気になる方はオフィシャルサイトをチェックしてみてくださいね。
[All photos by Reico Watanabe]