(C)Hong Kong Tourism Board
そもそも政府観光局ってなんだ?
提供:林麻里衣さん
そもそも今回の取材相手・林さんの勤務する政府観光局とは何でしょう?旅行に関係した仕事をする人であればなじみ深いと思いますが、普通の旅行者にはなかなか聞かない存在だと思います。
政府観光局とは日本政府観光局の公式ホームページに詳しいので引用すると、
<主要な市場に海外事務所等を設置し、外国人旅行者の誘致活動を行う政府機関>(日本政府観光局のホームページより引用)
とあります。この政府観光局は各国にあって、旅行者の誘致活動を各地で繰り広げています。香港政府観光局も一緒で、日本からの旅行者を香港へ呼ぶために日本に事務所を置いています。その香港政府観光局の日本事務所に林さんは勤務しているのです。
香港政府観光局の日本事務所の入り口
香港政府観光局の日本事務所はスタッフが10人、意外にも全員が日本人だといいます。前回のオーストラリア観光局の日本事務所は局長がオーストラリア人でしたが、香港政府観光局の場合は局長も日本人です。
旅行はエンターテインメント
香港での一コマ 提供:林麻里衣さん
この香港政府観光局にどうして林さんは勤務しているのでしょうか?世の中にはたくさんの仕事があって、一般的に仕事としてなじみのない外国の政府観光局に勤務するには特別な背景がありそうです。その点を聞いてみると、
「私も最初は政府観光局という存在を詳しく知りませんでした。それこそ後に私が勤務するきっかけをつくってくれた友人が先に香港政府観光局に入ったのですが、その友人が香港政府観光局へ転職するか迷っている時に一緒にお茶をして相談を受けました。それ以降政府観光局を意識するようになりました」(林さん、以下同)
との話です。日本の大学を卒業後、2年間のイギリス留学を経て芸能プロダクション、イギリス系の広報代理店、キャラクター・映画・テーマパークで世界的に有名なエンターテインメント企業でキャリアを重ねてきた林さん。
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ちょうど香港にディズニーランドが誕生した2005年(平成17年)に、前述の友人から香港政府観光局でPR担当者の募集が出ていると聞いて、応募したそうです。「政府系なので大きな仕事ができるかもしれない」「旅行はエンターテインメントである」などの考えから転職を決め、数回の面接を経て見事に採用となりました。
香港人は働き者
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日本の企業や外資系の企業経験など、林さんは政府観光局以外での業務経験も豊富です。香港政府観光局は日本人スタッフばかりだとそうですが、日常的に香港の人たちとやり取りする中で、仕事の進め方に香港の人「らしさ」を感じる瞬間はあるのでしょうか?
「とにかく熱心に働く点でしょうか。一見するとアジアの国々の人は、日本人を例外としてのんびりと働くイメージがありました。しかし香港の人は物事を極めて合理的に進めながら、やるべき仕事を集中して懸命に取り組みます。その仕事ぶりには驚かされました。
プライベートでも一緒で、日常的な買い物も香港の人は合理的です。スパスパっと買いたい商品だけを買って、すぐにお店を出るというか、ぶらぶら買い回る人が少ない印象です。
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この合理性は香港のまちの設計にも影響を及ぼしていると思います。例えば香港の地下鉄は路線や駅構内もすごく合理的でわかりやすく、日本の地下鉄のように入り組んでいません。便利だよねと多くの人が思うのであれば、早々に便利な方向へ切り替えてしまう国民性があるのだと思います」
例えばショッピングモールの出入り口で「濡れた傘を入れる折り畳み傘用のビニール袋が欲しいよね」となれば、すぐにつくってしまうのが香港人だといいます。
1平方キロメートル当たりの人口密度が世界トップクラスといわれる香港で、700万以上の人が混乱なく暮らそうとすると、合理性や利便性が自然に磨き抜かれていくのかもしれませんね。
新宿より香港の方が詳しい
香港のスーパーマーケット 提供:林麻里衣
新型コロナウイルス感染症の影響で、香港は外国との行き来をストップしています。
当の香港の人たちは「Holiday at home(ホリデー・アット・ホーム)」というキャンペーンの下、香港域内を巡り、例えばトレイルコースの散策などを楽しんでいるのだとか。
「香港といわれれば、ビル群というイメージがあるかもしれません。しかし意外にも、まちから20分くらい行けば緑の豊かなエリアに出られます。イギリスの影響でそうした自然の中にトレイルコースがたくさんあって、香港の人たちは密を避けてトレイルウォークを楽しんでいます」
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確かに香港とトレイルウォークのイメージは結び付きません。ちょっと油断すると、観光写真でよく見るビクトリア・ハーバー周辺だけが香港だと勘違いして、「あんな狭い場所でトレイル?」と驚いてしまいますよね。
しかし日本の外務省によれば、香港の面積は1,106平方キロメートルとされています。その広さは東京都の約半分。意外に広いといえば広く、その域内の70%に及んで豊かな山も海も離島も存在しているのです。
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ただし政府観光局に勤務する林さんといえども、域内観光が盛り上がる香港には非居住者なので今は入れません。「コロナ」前だと年間で2~3回、プライベートでも必ず訪れ、通算で50回近くは訪れている林さんは、「私は新宿のまちより香港のほうが詳しい」と豪語するほどです。そんな林さんだからこそ、渡航の制限がありストレスを感じているはずですが、新型コロナウイルス感染症が終息したら香港のどこに行きたいと思っているのでしょうか?
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その答えは、きっと終息後に香港を目指す旅行者の参考にもなるはずです。どこか話題のニュースポットでも出てくるのかと思いましたが、答えは意外でした。
「スーパーマーケットです。今は香港に行けないので、こまごました香港の食材を切らしています。例えばリプトンの中国茶(ジャスミンやプーアル)だとかXO醤、のどあめもです。
日用品ならティッシュです。どれも日本に売っていなくて、例えば香港の『Tempo』というティッシュは日本の柔らかいティッシュと違って、紙ナプキンのように強く水にも溶けないので、ちょっと机をふいたり汗をふいたりと重宝します」
提供:林麻里衣
15年ほど前に香港政府観光局で働き始めた当初、林さんはブランド品や化粧品ばかりを香港で買っていたそうです。
そのうち訪問回数が増え、香港に詳しくなるほどに買い物の内容が食材中心に切り替わり、今では上述のようにスーパーマーケットで買える調味料や日用品がメインになっているといいます。
日本では売っていないスーパーマーケットのアイテムをお土産として配ると、やはり日本人には珍しくて喜ばれるそうです。
TABIZINEでも【リレー連載】世界のスーパーマーケットをめぐる旅「第1回フランス編」など世界各地のスーパーマーケットの魅力を取り上げてきました。
旅のスペシャリストである林さんが行き着いた香港スーパーマーケットの魅力にも大いに注目ですね。
香港の人は日本が大好き
(C)Hong Kong Tourism Board
新型コロナウイルス感染症が終息して世界への旅が自由にできるようになったら、多くの日本人が再び海外旅行を楽しみ始めるでしょう。
行き先はさまざまで、それこそ久々の海外をどこにするか問題が出てくると思うのですが、行き先に迷う日本人にプッシュするとしたら、香港は何がセールスポイトになるのでしょうか?
「最近の香港の情勢に不安を持つ方もいらっしゃるかもしれません。しかし旅行に関しては全く問題ないですし、衛生対策も極めて合理的に行っています。例えば駅の券売機を2時間ごとに清掃するなど対策はばっちりです。その意味で、治安の良さと清潔さ、衛生環境がコロナ明けの旅行として1つのセールスポイントになるのではないでしょうか。
また香港は英語が通じる便利さもあり、食のレベルは味・洗練さの面でアジアの諸都市と比べても突出していると思います。舌の肥えた日本人観光客でも大満足できる食のレベルの高さも、香港を選ぶ理由のひとつになると思います」
(C)Hong Kong Tourism Board
「加えて、これはどうしてもお伝えしたいのですが、香港の人は日本が大好きです。実際に訪日外国人観光客の数を見ても、人口750万人程度しかいない香港の人がコロナ前は日本旅行にたくさん出かけていました。
国民感情という意味でいえば、香港人は日本人を大歓迎しています。その温かいおもてなしの雰囲気を香港では楽しんでもらえればと思います」
日本に訪れる外国人観光客の内訳(2018年)を見ると、中国(838万人)、韓国(753万人)、台湾(475万人)、香港(220万人)の順番に多いです。しかし人口比で考え直すと、香港→台湾→韓国→中国の順で多くの人が日本に来てくれているとわかります。
実は、すごく日本に興味を持ってくれている香港の人たち。そんな香港を訪れれば、確かにすてきなおもてなしを受けられそうですね。
新型コロナウイルス感染症が終息した段階で最初にどこへ行こうとなったら、距離的にもすぐ近所の香港をファーストチョイスに考えてみてもいいかもしれないと感じるインタビューでした。
(C)Hong Kong Tourism Board
[取材協力]
林麻里衣・・・香港政府観光局でPRやマーケティングなどを担当する。
[参考]
※ 香港(Hong Kong)基礎データ – 外務省
※ MTR
※ 国・地域別訪日外国人(訪日外客)数の推移 – 日本旅行業協会
※ プロフィール – 日本政府観光局