酸味のきいた肉の蒸し煮「ザウアーブラーテン」
ザウアーブラーテンは酸味のきいた肉の蒸し煮で、ドイツの伝統料理。作るのにとても手間のかかる料理で、酢に野菜や香辛料、水を加えたマリネ液に肉(通常は牛肉)を数日~10日間漬け込んで柔らかくし、その後ゆっくり時間をかけて蒸し煮にします。
地域によってスタイルが異なりますが、ほどよい酸味ととろけるように柔らかいお肉がクセになるおいしさ。色々な地域で食べ比べてみるのもいいでしょう。
ザウアーブラーテンが名物とされている都市のひとつが、東ドイツの古都ドレスデン。ドレスデンのザウアーブラーテンは、「ドレスデナー・サウアーブラーテン」と呼ばれます。
ドレスデンのザウアーブラーテンは、ソースにやや甘みがあり、赤キャベツやじゃがいも団子が添えられているのが特徴。ドイツの肉料理はボリューム満点というイメージがありますが、ザウアーブラーテンは意外にも後味すっきり。肉料理好きならずとも一度は食べてみてほしい一品です。
じゃがいも団子「テューリンガー・クロース」
じゃがいもが国民食となっているドイツには、さまざまなじゃがいも料理が目白押し。中でもおすすめしたいじゃがいも料理のひとつが、テューリンゲン州のじゃがいも団子「テューリンガー・クロース」。
「クロース(複数形:クロ―セ)」は団子のことで、地域によっては「クヌーデル」とも呼ばれ、材料や作り方も異なります。とりわけテューリンゲン州のクロースは「クロースの王様」とでも呼ぶべき存在で、そのサイズとモチモチ感は別格。
ただのじゃがいも団子とあなどるなかれ。テューリンガー・クロースはメイン料理として食べられることもあるほどで、中にほうれん草が入ったものなどバリエーション豊富。なんとテューリンガー・クロースのおいしさをたたえる歌まであるんです。
テューリンガー・クロースが食べられる町の代表格が、ゲーテ街道沿いの町ワイマール。かの「ワイマール憲法」が採択された地としても有名ですね。
市内のレストランで本場のクロースが味わえるのはもちろんのこと、ワイマール郊外には「テューリンガー・クロースの世界」というなんともマニアックな博物館まであります。
南ドイツ風パスタ「ケーゼシュペッツレ」
ドイツの南西部には、典型的なドイツ料理のイメージを覆すような郷土料理がいくつもあります。
そのひとつが「南ドイツ風パスタ」とも呼ばれる「シュペッツレ」。シュヴァーベン地方の名物料理で、小麦粉や卵、塩をこねて作った生地をゆでたものに、フライドオニオンなどがトッピングされます。
シュペッツレは、肉料理などの付け合わせとして食べられることもあれば、メイン料理として食べられることも。特に、トロトロの濃厚なチーズを絡めた「ケーゼシュペッツレ」は、白ワインとの相性抜群。ぜひローカルワインとのマリアージュを楽しんでください。
シュペッツレが食べられるシュヴァーベン地方の中心都市が、ロマンチック街道の交通の要衝でもあるアウクスブルク。
歴史に残る大富豪フッガー家を輩出した都市で、フッガー家が創設したフッゲライは、世界最古の社会福祉住宅。ほかにも、豪華絢爛な「黄金の間」がある市庁舎など、見どころ満載です。
ドイツ版餃子「マウルタッシェ」
もうひとつ、南西ドイツを代表する郷土料理といえば、「マウルタッシェ(複数形:マウルタッシェン)」。小麦粉や卵で作った生地にひき肉やほうれん草などを詰め、ゆでてから焼いたもので「ドイツ版餃子」「ドイツ風ラビオリ」などと呼ばれます。
焼き餃子よろしく焼いて食べるだけでなく、焼かずにスープに入れて食べることも。日本人にとってはなじみのあるスタイルの料理なので、遠い異国にいてもなんだかほっとしますね。
レストランによってサイズやトッピングなどが異なり、バラエティに富んでいるので、あちこちで食べてみたくなります。
一説でマウルタッシェが生まれた場所ともいわれるのが、シュトゥットガルト近郊の世界遺産・マウルブロン修道院。
戒律により、修道士たちには肉を食べてはいけない期間がありました。肉食が禁じられている日にどうしても肉が食べたくなった修道士が、細切れ肉を野菜と混ぜてパスタで包んだのがマウルタッシェの起源といわれています。「パスタに包んで隠してしまえば神様にもわからないだろう」という発想が面白いですね。
春の味覚「シュパーゲル」(白アスパラガス)
ドイツ人が愛してやまない春の味覚といえば、シュパーゲル(白アスパラガス)。ドイツ産のシュパーゲルは4月中旬ごろから出回りはじめ、6月24日の「聖ヨハネの日」で収穫を終えます。つまり、シュパーゲルは毎年2カ月ほどしか食べられない、特別な野菜なのです。
日本で新鮮な白アスパラガスを食べるのは難しいものですが、ドイツではシュパーゲルの季節になると、マーケットもスーパーもレストランもシュパーゲル祭り。
シュパーゲルは「ホランデーソース」と呼ばれる白いクリーミーなソースをかけて食べるのが定番で、ジャガイモを付け合わせにしたり、シュニッツェル(カツレツのような料理)などの肉料理に添えて食べたりします。本場のシュパーゲルのみずみずしさを味わったら、アスパラガスの概念が変わるかもしれません。
ロマンチック街道をはじめ、さまざまな街道があるドイツですが、なんと「アスパラガス街道」まであるのをご存じでしょうか。
ドイツ南西部バーデン=ヴュルテンベルク州にあるバーデン・アスパラガス街道の起点の町、シュヴェッツィンゲン(Schwetzingen)は特に有名なシュパーゲル産地のひとつ。広場には「アスパラガス婦人像」もあり、この町の「シュパーゲル推し」ぶりがうかがえます。
シュパーゲルの時期には直売所も出るほか、醸造所レストラン「ブラウハウス・ツム・リッター(Blauhaus zum Ritter)」では、地元のシュパーゲルを使った多彩なシュパーゲル料理が堪能できます。
所在地:Schloßpl. 1, 68723 Schwetzingen
https://www.brauhaus-zum-ritter.de/index.php
本場ドイツの本命「ニュルンベルク・ソーセージ」
「ドイツグルメはビールとソーセージだけじゃない」とはいっても、やはりこれを無視するわけにいきません。
1500種類ものソーセージがあるといわれるドイツは、いわずと知れたソーセージ大国。それだけに、ドイツの各地にさまざまな「ご当地ソーセージ」がありますが、中でも人気なのがニュルンベルク・ソーセージです。
その人気の秘密が、小ぶりなソーセージに肉の旨味とハーブやスパイスの香りがぎゅっと凝縮されていること。焼きソーセージゆえスモーキーな香ばしさも特徴で、ニュルンベルクの専門店では、伝統的にブナ材の火でグリルして焼かれます。
本場ドイツでも本命のニュルンベルク・ソーセージは、一度食べたら忘れられなくなるおいしさです。
ニュルンベルク・ソーセージは、バイエルン州第2の都市ニュルンベルクの名物。ニュルンベルクにあるソーセージ専門店の中でも、「ブラートヴルストホイス(Bratwursthäusle)」は老舗の名店として知られ、ドイツ内外からやってくるお客さんが後を絶ちません。
ニュルンベルクはかつて神聖ローマ皇帝の城が置かれた古城の町としても有名。町を見下ろす皇帝の城「カイザーブルク」や、メルヘンチックなフラウエン教会が建つ中央広場などをめぐって、情緒豊かなレンガ色の町を楽しみましょう。
所在地:Rathausplatz 1, 90403 Nürnberg
https://bratwursthaeuslenuernberg.de/
黒い森をイメージしたケーキ「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ」
(C) DZT / Leungmo
ドイツを訪れたら必ず一度は食べてほしいスイーツが、「シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテ」。日本語にすると「黒い森のサクランボケーキ」で、ドイツ国内のみならず世界的にも人気の高いケーキです。
シュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテはドイツ南西部に広がる黒い森をイメージしたケーキ。「キルシュヴァッサー」と呼ばれるサクランボの蒸留酒をしみこませたココア風味のスポンジで、生クリームとサクランボのジャムやコンポートをサンドし、表面は雪に見立てた生クリームでコーティング。最後に、落ち葉に見立てて削りチョコレートやサクランボの身を飾って完成です。
生クリームをたっぷり使っているので一見とても甘そうですが、見かけによらず大人のケーキ。甘酸っぱいサクランボの風味に、甘さ控えめのふんわり軽い生クリーム、キルシュヴァッサーのほのかな苦みが見事に調和して、一度食べたらハマってしまうこと請け合いです。
本場のシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテが食べられる場所のひとつが、黒い森地方の主要都市フライブルク。ドイツ屈指のエコシティとしても有名で、周囲の緑とカラフルな町並みが調和した居心地の良い町です。
フライブルクにある老舗パティスリー「グマイナー(Gmeiner)」のカフェでは、丁寧に作られた繊細な味わいのシュヴァルツヴェルダー・キルシュトルテがいただけます。空間も上品でゆったりとしていて、優雅なティータイムを過ごすのにぴったり。
所在地:Kaiser-Joseph-Str. 243, 79098 Freiburg im Breisgau
https://www.chocolatier.de/kh_freiburg.php
ワイン初心者でも飲みやすい「リースリング」(白ワイン)
ドイツといえばビールのイメージが強いですが、実はドイツはおいしいワインの産地でもあります。
ドイツワインの代表格が、モーゼル地方で作られるリースリング種の白ワイン。ドイツは世界のリースリングの栽培面積の6割を占めるリースリング大国で、高品質なリースリングを生み出す産地として有名なのがモーゼル川と、その支流のザール川、ルーヴァー川流域なのです。
「生産者は命がけ」ともいわれるモーゼル地方の急斜面で栽培されるリースリングは、フレッシュな果実味と豊かなミネラルが特徴。ワイン初心者でも飲みやすいものが多いので、ワイン好きでなくとも一度はトライしてほしいところです。
モーゼルワインの名産地のひとつが、ドイツ中西部のコッヘム。町のカフェやレストランならどこでも地元のワインが飲めますが、伝統的なワイン酒場を訪れるのもワインの里ならではの体験。「シュロスベルクケラー(Schlossbergkeller)」では、自社製造のワインが1杯から気軽に楽しめます。
コッヘムは観光地としても魅力満点。ブドウ畑の頂には中世の雰囲気を漂わせるライヒスブルク城があり、ガイドツアーで城内を見学することができます。一方、木組みの建物が多く残る旧市街はおとぎ話のようなかわいらしさ。美酒と美景がよくばりな旅人の願いを叶えてくれます。
ドイツの地方は知られざる美食の宝庫。ドイツを旅する際は、イメージ通りのドイツ料理だけでなく、いい意味で予想を裏切るご当地グルメの数々にトライしてみませんか。
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