(C) kelly
情緒たっぷりの美祢線でのアクセスがおすすめ!
約600年前に住吉大明神のお告げによって発見されたといわれる長門湯本温泉は、山口県最古の温泉。室町時代には、毛利藩の藩主がこぞって湯治に訪れていたとか。昭和中頃の最盛期には、46軒もの旅館が軒を連ねていたそうですが、ライフスタイルの変化により、旅行者は減少していきます。そこで、長門市、星野リゾート、そして地元の温泉旅館経営者たちをはじめとした住民らがタッグを組み、温泉街再生に向けた取り組み『長門湯本温泉観光まちづくり計画』を推進することに。「界 長門」の開業もその一環です。
(C) kelly
「界 長門」の最寄り駅は、JR美祢線の長門湯本駅。JR新山口駅から長門湯本温泉まで、ジャンボタクシーによる直行便もありますが、時間に余裕があるなら、ディーゼルカー1両、もしくは2両のみのローカル線美祢線でのアクセスがおすすめ。山間部をひた走り、わずか1時間で、瀬戸内海と日本海を結ぶ全長46km美祢線は旅情たっぷり。ただ、列車の本数は2~3時間に1本ほど。事前の確認はマストです。ちなみに、山口宇部空港からは車で1時間15分ほどでアクセス可能です。
(C) kelly
さて、長門湯本駅からは徒歩約15分で「界 長門」に到着します。このアプローチも旅情をかきたてます。温泉街の中心には、音信川が流れていて、その両端に旅館やお店があります。音信川に沿って歩いていけば、迷わずたどりつけると思います。春の桜や紅葉に色づく山など、どの季節に訪れても楽しそう!
音信川の風景が迫る開放的なロビー
(C) 星野リゾート 界 長門
こうして到着した「界 長門」。敷地内に入り、小さく歓声をあげてしまいました。大きな窓からは温泉街と音信川の景色が飛び込んできます。音信川は地元の子どもたちの格好の遊び場で、夏には泳ぐ子どももいるそう。近所のおみやげ物屋さんでは、水着のレンタルもしているそうですよ。夏に訪れるなら、ぜひ水着を持参してみてはいかがでしょうか?
季節の移ろいを感じさせる景観にしばし圧倒されていましたが、そろそろ冷静に周囲を見てみましょう。ロビーは、参勤交代で滞在した藩主が休む「御茶屋屋敷」の客間をイメージした作り。床の間をイメージした違い棚には萩焼がしつらえてあり、こちらも見どころたっぷりです。窓の黒い枠は屏風の役割を備えており、目の前の景色が描かれているようにみえるのだとか。左右の桜の木の絵は、地元のアーティスト・木原千春さんの作品。躍動的で生物の勢いを感じます。
(C) 星野リゾート 界 長門
客室は全40室。すべて山口県の武家文化を生かしたご当地部屋「長門五彩の間」です。“五彩”は、客室を彩る5つの要素である山口県の伝統工芸「萩ガラス」「大内塗」「徳地和紙」「萩焼」、そして「窓から見える四季折々の景色」を意味しています。
徳地和紙、萩焼など伝統工芸が随所に
(C) 星野リゾート 界 長門
はい、こちらもほかの「界」ブランドの施設同様、徹底的に「ご当地」推しです!中でも山口市の無形文化財に指定されている伝統工芸「徳地和紙」のベッドボードはかなりのインパクト。製作を依頼した職人さんは、「今までこんな大きい和紙作ったことないんですけど……」(著者意訳)と、おっしゃっていたとか。また、室内には萩焼の作品が飾られていましたが、部屋ごとに異なるんですって。お部屋に置かれていた茶器も萩焼でした。
(C) kelly
部屋のカギには、山口の伝統工芸「大内塗」のキーホルダーがついています。なお、40室のうち4室は天然温泉の露天風呂付の特別室。坪庭をながめながら湯浴みを楽しむ、とびきり贅沢な時間が過ごせます。はあ、こんなところにステイできるなら、毎年、参勤交代したいです!
大浴場へは、外を歩いてのアプローチとなります。といっても、外気にさらされるのは1分程度。寒い冬でもちょうど心地いい感じじゃないでしょうか。湯上がり処にはテラスもありました。湯上がりにここで憩うのもサイコーです。なお、湯上がり処ではアイスキャンディーやお風呂あがりにお勧めのドリンクのほか、時間帯によっては日本酒も置いてあり、こちらも追加料金ナシでいただけます。うれしい計らいですよね。
ぬるめの源泉がまた気持ちいいんです!
(C) 星野リゾート 界 長門
温泉大浴場は、内風呂には湯舟が2つ。小さいほうは、ぬるめの源泉をかけ流しにしています。夏はぬるめの源泉にゆったり浸かるも良し。寒い時期や、熱めのお湯に浸かってしゃっきりしたい時には、加温した大きい湯舟と交互に入るのも良さそう。露天風呂も併設されています。
(C) kelly
さてさて。「界」では、すべての施設で、それぞれ地域の文化が体感できる「ご当地楽(ごとうちがく)」を提案していますが、「界 長門」では、「おとなの墨あそび」が無料で体験できます。「赤間硯(あかますずり)」ってご存じですか(筆者はここを訪れるまで知りませんでした)?
江戸時代には参勤交代の時に使う献上品であり、松下村塾の師・吉田松陰も愛用したといわれている山口県の伝統工芸です。現在、赤間硯を作る職人は3名のみ。その貴重な赤間硯で墨をすり、毛筆で文字を書くという体験なのです。筆者もそうでしたが、小学生や中学生以来となる「墨をする」という懐かしい体験に、多くの人は癒やされるのだとか。郷愁を誘う墨の香りに包まれると、不思議と心が静まってきます。
(C) kelly
長門湯本は、焼き鳥の街!
(C) kelly
お待ちかねの夕食は、半個室の食事処で。筆者が訪れた、春のメインは、山口県の郷土料理「瓦そば」から着想を得た、瓦焼きでいただく、牛肉と地鶏の味比べでした。こだわりの塩など薬味も複数用意されていましたが、山口県のオリジナル柑橘「長門ゆずきち」の果汁は特に印象的でした。
実は長門湯本は焼き鳥の街。1万人あたりの焼き鳥店の軒数は、全国1、2位を争うとか。山口県は古くから水産加工品、中でもカマボコの生産がさかんでしたが、残ったアラの部分を鳥の餌にしたところ、鶏がどんどん元気になっていき養鶏所が増えていったんですって!なんてサスティナブルなんでしょう(笑)。
(C) 星野リゾート 界 長門
(C) kelly
八寸やお造りを盛りつけた、宝楽盛りは、萩焼の器と、山口県でただひとりの桶職人・坂村晃氏に作ってもらった“底のない”桶とともに供されました。和紙もあしらわれています。さすが「界」ブランド、とことん地元・山口で攻めてきます(笑)。実際に訪れるまでは、「長門っていったい何が食べられるの?」と思っていましたが、国内漁獲高第2位を誇るケンサキイカをはじめ、三方を海に囲まれた山口県はじつは魚介類の宝庫。秋以降は、山口県の名産品であるふぐもいただけると聞き(しかも柑橘を使った鍋で提供するそうです。気になりすぎる!)、早々に再訪を決意しました(笑)。
(C) kelly
石州瓦と萩焼で作った「界 長門」オリジナルの土鍋でいただくごはんも、おいしかったこと!
(C) kelly
朝食で印象に残ったのは、「アカモク 土佐酢」。アカモクは海藻の一種で、ミネラルと食物繊維が豊富。メカブよりさっぱりとした味わいで永遠に食べ続けられそうでした(笑)。
そぞろ歩きの合間にどら焼きはいかが?
(C) 星野リゾート 界 長門
施設内にいるだけでも楽しいですが、長門温泉を訪れたからにはそぞろ歩きも楽しみたいところ。正面エントランスの反対側の「あけぼの門」を出れば、そこはもう温泉街。目の前には、温泉街のシンボルでもある音信川が流れています。オリジナルのそぞろ歩きマップも配布しているのでぜひゲットしてください。
(C) kelly
「あけぼの門」のすぐ脇には、宿泊客以外の利用も可能な「あけぼのカフェ」を併設。こちらの名物はどら焼き。粒あんのほか、山口県の特産品である夏みかん、「ゆずきち」の3種類を用意しています。
(C) kelly
なお、温泉街再生プロジェクトで整備された川沿いには、休憩できるベンチや足湯も。共同浴場の恩湯(おんとう)も新しくなりました。 最近、川床も完成したとか!
(C) 星野リゾート 界 長門
星野リゾートならではの高級感もあり、伝統工芸をおしゃれにあしらい、肩肘をはらないほどよいカジュアルさもいい感じ。温泉街も魅力的ですし、食事もおいしくて楽しい!友人やパートナーと訪れるのはもちろん、母娘旅にも良さそうですよ。・・・冥途の土産に連れていってあげようかしら。
(C) 星野リゾート 界 長門