名作の聖地を巡る旅!コロナの今こそ都心の「ロンバケ」聖地を振り返ってみる

Posted by: 坂本正敬

掲載日: Jul 6th, 2021

名作の聖地を巡る旅を提案するTABIZINEの新連載。1回目は「名作の聖地を巡る旅!『初代ウルトラマン』の始まりと終わりの地は“神奈川県”にあった」で多くの人に読んでもらいました。第2弾はすさまじい振り幅を見せて「ロンバケ」です。本当は第2回目で初代『仮面ライダー』を取り上げようと思いました。しかしウルトラマンと仮面ライダーが続けば、主に男性しか楽しめなくなりそうなので、今回はちょうど25年前の1996年(平成8年)6月24日(月)に放送を終えたテレビドラマ『ロングバケーション』(フジテレビ系)の聖地を巡る旅を紹介したいと思います。

東京都新大橋1
新大橋

神田明神

東京都千代田区神田明神
(C) beibaoke / Shutterstock.com

木村拓哉さん・山口智子さん主演のドラマ『ロングバケーション』が放送されたのは1996年(平成8年)です。現在41歳の筆者(男)は当時、埼玉県に暮らす高校生でした。

もっと若い人は知らないと思いますが、当時は「月9」と言われる大ヒットテレビドラマを連発するフジテレビの放送枠があって、その代表作といえるテレビドラマのひとつが『ロングバケーション(通称:ロンバケ)』でした。筆者よりも一回りくらい上の世代の人たちの場合、「ロンバケ」と言えば大瀧詠一さんの名盤を思い浮かべるかもしれませんね。

放送当時に会社員だった女性たちは、ドラマを見るために月曜日の夜は急いで家に帰りました。その時代は「スマホ」も「ワンセグ」も「見逃し配信」もありません。まちから「OLが消えた」とまで言われていたそう。

女性が熱狂した理由は、登場人物の設定にあります。山口智子さん演じる売れないモデル・葉山南(31歳)が、木村拓哉さん演じる年下の無名ピアニスト・瀬名秀俊(24歳)と恋に落ちる物語です。恋する相手が国民的スターの座を確立しつつあった木村さんで、当時「アラサー」だった女性が憧れを抱くには最高すぎる設定だったのです。

物語の始まりは葉山が結婚式当日に婚約者から逃げられるエピソードから始まります。その結婚式の舞台が神田明神。神田明神といえば千代田区にある神社で、東京都が東京府だったころに府社でもあった場所です。

放送当時に東京以外で暮らしていて、今では都心に上京した人であれば「ええ! 山口智子さんが文金高島田の姿で結婚相手を待つシーンって神田明神だったの?」と意外に思う人も多いのでは?

神田明神
住所:東京都千代田区外神田2-16-2

東京ドームシティ

東京都文京区東京ドームシティ
当時の「月9」の恋愛物語には鉄板のパターンがありました。『水戸黄門』(TBS系)で水戸光圀が最後に印ろうを見せて悪党をひれ伏させるみたいな感じです。

  • 主役(男)×主役(女)

の恋愛成就の過程で、

  • 主役(男)×脇役(女)
  • 主役(女)×脇役(男)

の恋のサブプロットがあって、それぞれが関係を変化させる中、最終的には主役の男女がお互いに心引かれながら右往左往するという流れです。

その鉄板のストーリーに変化や彩りを与えるために、美男美女やおしゃれな舞台、気の利いたせりふがたくさん用意されました。流れは知っているのだけれど、キラキラした世界観に思わず心を奪われてしまうのですね。
東京ドームシティ・スカイフラワー1
(C) Byjeng / Shutterstock.com

『ロングバケーション』も構図としては一緒です。

  • 主役(木村拓哉さん)×主役(山口智子さん)

の恋愛成就に至る過程で、

  • 主役(木村拓哉さん)×脇役(松たか子さん)×脇役(竹野内豊さん)
  • 主役(山口智子さん)×脇役(豊原功補さん)

の恋のサブプロットが展開されていきます。

そのサブプロットの序盤で、松たか子さん演じる音大生の奥沢涼子が「先輩、私、行きたいところあるんです」と瀬名を誘った先が夜の東京ドームシティ。お互いに恋心を寄せながらもはっきりとしない関係が2人には続いていて、一緒に『スカイフラワー』というパラシュートのアトラクションに乗った時、ちょっとした名シーンが生まれます。
東京ドームシティ・スカイフラワー2
(C) YAO23 / Shutterstock.com

お出かけ先の悩みについて、奥沢から何気ない雑談が始まり、ひとりでは行けないけれど男友達ともデートみたいになってしまうので行けない場所という話題で、具体例として遊園地が挙げられます。

奥沢)「ディズニーランドも(男の子と一緒だと)デートみたいになっちゃうし。ほら、こういうの(東京ドームシティ)もデートみたい」

瀬名「え、これってデートじゃないの?」

奥沢「デートなんですか?」

瀬名「いや」

2人は友達(先輩後輩)以上・恋人未満の微妙な関係です。瀬名が動揺しているとパラシュートが降下を開始します。夜の幻想的なライトアップと降下するパラシュートの音を、今でも筆者は記憶しています。

遠出ができない今こそ、あの名シーンを再現するために、今そばにいる誰かを誘って東京ドームシティに訪れてみてはいかがですか?基本は夜8時までやっていますので、仕事終わりにも立ち寄れますよね。

東京ドームシティ
住所:東京都文京区後楽1-3-61

西郷山公園

東京都目黒区西郷山公園
煮え切らない瀬名と奥沢の恋のサブプロットが大きく致死的なカーブを描き始める場所が、東京都目黒区青葉台にある西郷山公園です。

「デートなんですか?」と言われてしまうくらいあいまいな関係をはっきりさせられない瀬名と奥沢との関係に、竹野内豊さん演じる葉山真二の登場が大きな影響を与えます。

奥沢は育ちのいい音大生で、一方の葉山はギャンブルや水商売のにおいがする色男です。全く毛色の違う人間同士が出会い、意外な一面を見せ合ってお互いに引かれ始めます。

奥沢の心の変化に気付いた瀬名は意を決してデートに誘います。そのデートの最後に訪れた場所が西郷山公園です。目黒区の公式ホームページによれば、あの幕末の志士・西郷隆盛の弟で西郷従動の邸宅が存在した場所なのだとか。

周りの人からは西郷山と呼ばれたように、台地の斜面を利用した公園になります。

「キス、しようか?」

公園のベンチで、まちの景色を眺めながら瀬名は奥沢に問い掛けます。当時、女性の視聴者を熱狂させた名ぜりふですね。奥沢は目を閉じました。

しかし、瀬名は意気地がなくてキスができません。実はこの時点で(恐らく)人生初のキスを奥沢は、葉山とすでにしていました。その「比較」もあって、「意気地なし」との捨て台詞を残し、奥沢は立ち去ります。

公園の近くで暮らす友人に聞くと、2人が座ったベンチはまだあるそうです。眺めもいい公園ですし、週末の晴れ間を見つけて訪れてみては?

西郷山公園
住所:東京都目黒区青葉台2-10-28

以上がほんの一部になりますが、名作「ロングバケーション」の聖地を巡る旅の勧めです。

都心部で撮影されたため、ほかにも都内に「聖地」は山ほどありますが、ラーメン屋の「萬金」や主人公たちが暮らしていたマンションなどは、閉店したり壊されたりしているみたいですね。

とはいえ作中に何度も映った隅田川は今も雄大に流れていますし、隅田川に架かる新大橋も健在です。主人公たちが暮らしたマンション近くに架かる新大橋は、岩波書店『広辞苑』の「隅田川」の項目にも掲載されているように、シンプルな構造の斜張橋で解放感も素晴らしいです(筆者も大学生のころに何度かロケ地を訪ね歩きました)。

残念ながら2021年(令和3年)の隅田川花火大会も中止みたいですが、今年の夏は花火の代わりに、青春時代の記憶を求めて隅田川と新大橋周辺を散歩してみてもいいかもしれません。
東京都新大橋2

[参考]
西郷山公園 – 目黒区
隅田川の新大橋は、シンプルなデザインの斜張橋である – 土木ウォッチング
スカイフラワー Sky Flower – 東京ドームシティ アトラクションズ
[All photos by Shutterstock.com]

PROFILE

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。

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