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ニューヨーク市が抱える深刻な「治安の悪化」問題~在住者が盗難にあった話・後編~

Posted by: 青山 沙羅
掲載日: May 11th, 2022.

ニューヨーク市の新型コロナウイルス感染率が下がり、マスク着用義務は、学校や病院、地下鉄・バスなどの公共機関などと緩和。春になり暖かくなったことから、ソーホーやチャイナタウンでは海外や米国他州から旅行客が増えました。しかしその一方で、屈託なくニューヨーク観光を楽しむ旅行客に、「ニューヨーク市の現在の治安の悪さを知っているの?」と筆者は思ってしまうのです。前回に引き続き、筆者が体験した治安の悪化による事件の後編をお届けします。

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ニューヨーク市の至る所に、セキュリティカメラが設置 mariakray / Shutterstock.com

2022年5月現在、ニューヨーク市の治安の悪化は深刻な問題です。

治安悪化の原因としては、

1.長期化するコロナ禍での鬱憤
2.刑務所内で感染拡大を防ぐため、2020年3月にNYデブラシオ前市長が1,500人以上という多数の服役囚を釈放した(隣のニュージャージー州では、2020年11月に2,000人以上の受刑者の早期釈放)
3.ホームレスの増加(多くが薬物かアルコール中毒者)

ことなどが考えられます。早期釈放は高齢や軽罪で再犯の恐れが少ない服役囚に限るということでしたが、釈放時に実際条件に厳密であったかは不明。多数の元服役囚が街に戻り、行くあてのない元服役囚がホームレス増加に繋がったと言われています。

中でも強盗や侵入窃盗が急増するニューヨーク市で、筆者の実体験を語りたいと思います。ニューヨーク市はもちろん日本を含め、盗難にあったのは初めてのことでした。

 


泥棒はどこから侵入したのか

地下に続く入り口から

2021年12月31日の大晦日午後1時57分頃、筆者のバイト先に泥棒が侵入しました。ニューヨーク市の建物は地下に倉庫や貯蔵庫があるため、鋪道から出入り可能な入口があります。飲食店やレストランの食材は、納入業者が地下の入り口から納品することがほとんどで、泥棒はその入り口から侵入しました。

泥棒に何が盗まれたのか

ショルダーバッグから財布が抜かれた

侵入窃盗の容疑者1
セキュリティカメラに映るバッグから財布を盗む容疑者

地下には従業員の私物を置くスペースがあり、筆者のショルダーバッグから、財布が盗まれました。

ショルダーバッグから盗まれたもの

●現金(120ドル)
●銀行のキャッシュカード(2行)
●クレジットカード(2社)
●保険証
●写真付き身分証明書
●自宅のスペアキー
●長財布(ケートスペード)

などが入っており、バッグの中に入っていたパスポートは無事でしたが、それ以外の大切な公的身分証明書をすべて失ってしまいました。住所や電話番号、メールアドレスなどの個人情報が盗まれてしまったのだと思うと、恐ろしくて震えあがりました。

また、万一鍵を忘れた時のため、自宅のスペアキーをお財布に入れておいたことも仇になりました。

デイパックごとカメラが盗まれた

侵入窃盗の容疑者2
セキュリティカメラに映る、カメラが入ったデイパックを盗む容疑者

デイパックごと盗まれたもの
●カメラ(キヤノン)
●レンズ
●カメラバッグ
●付属品
●デイパック(ピューマ)

この日はイベントがあったため、カメラを持ってきていたのも不運でした。

犯行発覚後何をしたか

盗難に気づいたのは、ロッカーに入れておいたはずのバッグが違う場所に移動していたから。まさかと思い中身を確かめると、長財布が盗られていたのです。ロッカーに入らなかったカメラを入れたデイパックは、デイパックごと綺麗に消えていました。

泥棒にあった事態に気がつくと、胃がキリキリと痛み、腰が抜けてしまいました。

真っ先に銀行へ走った

まず避けたいのは、銀行預金を引き出されないことです。メインバンクがバイト先の近くにあったので真っ先に向かい、銀行の窓口で「助けてください。財布が盗まれたので、取引を停止してください」と頼みました。

シティバンク(Citibank)

シティバンク BGStock72 / Shutterstock.com

筆者個人のメインバンクはシティバンク(Citibank)。窓口で、キャッシュ(デビット)カードとクレジットカードを止めてもらうよう頼みました。驚いたことに、泥棒は犯行後すぐ地下鉄駅に向かい、筆者のデビットカードを不正使用し、メトロカード(地下鉄乗車券)1カ月分(128ドル)を購入していました。

銀行窓口で事情を説明し、盗まれたカードの取引を停止してもらいました。ただし、カードの再発行や不正使用の返金については、支店ではできないので、カスタマーサービス(コールセンター)に電話するよう言われました。

【シティバンク】

支店でできたこと
●盗難の事情説明
●カード使用の差し止め

カスタマーサービス(コールセンター)でしたこと
●カードの再発行依頼
●不正使用の返金依頼(泥棒が不正購入した128ドルのメトロカード)

シティバンクの対応・結果

コールセンターに被害当日電話で依頼

●再発行のクレジットカード → エクスプレス(2日以内)で発送依頼。依頼通りに到着
●再発行のキャッシュ(デビット)カード → エクスプレス(2日以内)で発送依頼。2週間経っても届かず、再依頼。結局手元にキャッシュカードが届いたのは、1カ月後(対応のミス)
●コールセンターの担当者は不正使用の返金は確約できないが努力するといわれた結果 → 3日以内に口座に返金あり

TDバンク


TDバンク Michael Vi / Shutterstock.com

生活に関わる引き落としのため、夫と共同名義口座(ジョイントアカウント)所有。同様に、泥棒は筆者のデビットカードを不正使用し、メトロカード(地下鉄乗車券)1カ月分(128ドル)を購入していました。

【TDバンク】

支店でできたこと
●盗難の事情説明
●カード使用の差し止め
●カードの再発行(即時発行)
●不正使用の返金依頼(泥棒が不正購入した128ドルのメトロカード)

カスタマーサービス(コールセンター)でしたこと
なし(すべて支店で完了)

TDバンクの対応・結果
●再発行のキャッシュ(デビット)カード → 窓口で即時発行。口座開設の時もカードは即時発行で、郵送を待つことなく便利
●支店の窓口担当者は不正使用の返金は3日以内に戻るといわれた結果 → 1カ月経っても返金なく、再度銀行へ出向く。カスターサービス担当者は「調査中であり、まだ2カ月ほどかかる」と言われたが、ポリスレポートやセキュリティカメラに映った容疑者の写真を見せたのが功を奏したのか、再依頼後1週間以内に口座に返金あり

警察へ届けた

ニューヨーク市警察署
ニューヨーク市警察署 (C) Sara Aoyama

大晦日で911(アメリカの警察、火事、救急車などを呼ぶ共通の緊急電話)に連絡するも、カウントダウンやその他の取り込みで忙しいのか、数時間待つも誰も来てくれませんでした。

そのため年明け(2022年)に、バイト先最寄りの警察署に直接出向きました。911に電話しても警察が来ない時は、警察署に出向いた方が早いです。ニューヨーク市の警察は、ほとんど週7日24時間受付可能のようです。

被害届のために、筆者はバイト先名、場所、日時(犯行時間はセキュリティカメラで確認)、個人名、連絡先(電話番号)、被害に遭った明細(品名・金額)をリストに作成して持ち込みました。また、セキュリティカメラに映った泥棒の画像をスマートフォンに転送して貰っていたので、写真を刑事に見せました。

米警察のポリスリポート(警察への被害届)とは

ポリスレポート(警察への被害届)1
ポリスレポート(警察への被害届)※レポートを抜粋しています

当日は被害届の番号を発行したメモをもらい、ポリスレートは後日もらいます。筆者の被害は、英語ではGrand Larceny(侵入窃盗で、一定額以上の財物の窃盗)。犯罪の種類は、Felonyで重罪です。

「犯罪にはギャングが関係しているか?」「ギャングの名前は?」などとあり(筆者の盗難は無関係のよう)、ニューヨークっぽいなと思いました。

ポリスレポート(警察への被害届)2
ポリスレポート(警察への被害届)※レポートを抜粋しています

筆者が赤枠をつけた部分は、「容疑者に関する記載」です。驚いたのが、ポリスレポートができてみると、未逮捕なのに容疑者の身長(6.1フィート=約186cm)や体重(180パウンド=約82kg)が記載されていたこと。写真でアフリカ系の男とは分かりますが、身長や体重まで分かるものなのかびっくりしました。

バイト先のセキュリティカメラに記録されたビデオを後に刑事がチェックに来ましたが、ポリスレポートはそれ以前に作成されていたのです。容疑者には前科があり、警察にデータがあるのかもしれません。また、容疑者の服装は写真では黒に見えますが、ポリスレートでは青と記載されています。

ニューヨーク警察(NYPD)がしてくれたこと
●事情聴取(筆者が直接警察署へ出向いた)
●ポリスレポートの作成(当日は貰えないので、後日取りに行った)
●被害者(筆者)に盗難確認のインタビュー電話(後日筆者の携帯電話に警官から連絡あり)
●セキュリティカメラに映った容疑者のビデオをチェック(後日バイト先に刑事が来た)

容疑者は未逮捕(2022年5月4日現在)

ニューヨークの治安はコロナ禍以降悪化、泥棒被害は前年比500%増

NYC 5th Precinct 犯罪統計
(C)NYC 5th Precinct 犯罪統計(2022年4月25日〜2022年5月1日の犯罪件数)

コロナ禍以降、ニューヨーク市の治安は悪化しています。筆者が盗難届けを出したニューヨーク市警察5分署の2022年4月25日〜2022年5月1日の犯罪件数を見ると、筆者も被害に遭ったGrand Larceny(侵入窃盗で、一定額以上の財物の窃盗)は、前年比(週比較)の200%増前年比(月比較)で強盗(被害者から直接盗む)は200%増侵入窃盗(被害者が現場不在で盗む)は500%増という驚異的な数字。いかにコロナ禍以降治安が悪化しているかが分かります。

30年前(1990年)の犯罪件数は、Grand Larceny(侵入窃盗で、一定額以上の財物の窃盗)が年間1,829件(1日5件以上)もあり、犯罪件数が年間4,476件(1日12件以上)もあったのですから、ニューヨーク市は本当に危なかったのですね。

盗難にあって変えたこと

地下鉄やストリートでの犯罪には注意していましたが、「盗難」に関しては危機意識が少なく(大したものを持っていないので、まさか自分がという過信)、被害にあって考えをあらためました。

必ず施錠

地下への入り口は、業者による納品後には必ず施錠してもらい、開きっぱなしの時間がないように徹底(少なくとも自分が勤務中は)。
セキュリティロックを購入して、ロッカーは必ず施錠。

バッグを変えた

黒や茶色と違い、印象に残りやすいピンクのバッグだったので、泥棒にどこで見られているか分からないためバッグを変えました。ニューヨークの治安が悪いこともあり、手を入れやすく、引っ張られやすいショルダーバッグから、斜めがけのミニショルダーと盗難にあいにくいデイパック(背中と密着する内側にファスナー付きポケットがあり、貴重品が入れられる)に変更。

自宅の鍵を変えた

住所や電話番号、メールアドレスなどの個人情報が渡ってしまっているうえ、自宅の鍵(スペアキー)を盗られてしまったので、念のため自宅の鍵は変更。

財布に大事なものをすべて入れない

現金、クレジットカード、キャッシュカード、各種身分証明書と、大事なものすべてを財布に入れていたことを配偶者に叱られました。その後、財布内は基本的に現金のみとし、カードや身分証明書は別に収納することに。

常に警戒心を持つ意識

今まで盗難にあったことがなく、警戒心が薄かったことを猛省しました。

泥棒は丸腰ではないはず


写真はイメージです

筆者は数メートルしか離れていない場所でランチを食べていましたが、容疑者と鉢合わせしなかったのは不幸中の幸いでした。丸腰で泥棒を行うとは考え難く、拳銃や刃物を持っていたはずで、「身体に危害を加えられる」ことを考えれば「モノ(お金)を失う」ことは諦めがつきます

セキュリティカメラの記録時間を見ると容疑者の犯行滞在時間は2分ほど。その足で地下鉄駅へ向かい128ドルx2枚(被害額256ドル)のメトロカード(地下鉄乗車券)を不正購入したのは、犯行後10分以内(銀行口座使用の記録時間)という手際の良さ。まさにプロの仕業です。

現金やカメラは戻りませんが、幸いキャッシュカードの不正使用は銀行口座に返金となり、差し止め前にクレジットカードの不正使用もありませんでした。それでも盗まれたキャッシュカードやクレジットカード、身分証明書各種を再発行するのは大変な手間がかかりました。2022年5月現在、まだ再発行できていない大事な身分証明書もあります。

地下鉄内やストリートでの暴力や強盗、侵入強盗、車両窃盗と、ニューヨーク市の治安の悪化は市民を悩ませています。恥を忍んで、筆者の体験を綴ってみましたが、ニューヨーク市に限らず世界の都市で同じことが起きているかもしれません。日本は世界の中でも治安の良い国ですが、くれぐれも防犯にご留意ください。

参照
ライカーズ島刑務所が危機的状況 コロナで職員不足・状況悪化 Daily Sun New York 2021年9月16日
受刑者2200人を釈放、コロナ対策の新法に基づき 米ニュージャージー州 CNN CO JP 2020年11月5日

青山 沙羅

sara-aoyama ライター
はじめて訪れた瞬間から、NYに一目惚れ。恋い焦がれた末、幾年月を経て、ついには上陸。旅の重要ポイントは、その土地の安くて美味しいものを食すこと。特技は、早寝早起き早メシ。人生のモットーは、『やられたら、やり返せ』。プロ・フォトグラファーの夫とNY在住。


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