青をテーマに、さまざまな角度から記事を配信しているTABIZINE BLUE WEEK。世界の青い絶景や、青いハーブティーなど、取り上げる青は様々ですが、筆者は青と言われて、真っ先に思い浮かんだキーワードが蒙古斑(もうこはん)でした・・・。
2人目の娘が生まれたばかりで、そのお尻にくっきりと蒙古斑が出ていたからですが、実はこの蒙古斑、白人の多く住む土地では存在自体知られておらず、まれに蒙古斑が出た子どもの親が、周りから児童虐待で通報されるなどのケースすらあるのだと、知人の医療従事者が教えてくれました・・・。ちょっと驚きではありませんか?
そこで今回はこのちょっと身近で不思議な存在の蒙古斑について、その歴史や正体などトリビアをまとめたいと思います。
そもそも「蒙古」ってあんまりいい言葉じゃない?
冒頭では2人目の娘に蒙古斑があったと述べましたが、もちろん1人目の娘の臀部(でんぶ)にも、大人になった筆者の左肩にも異所性の蒙古斑が、消えずに持続して残っています。この「蒙古」という漢字は、もちろんモンゴルを意味する言葉ですね。
ただ、学生時代に知り合ったモンゴル人留学生が、この「蒙古」という漢字を嫌っていると言っていました。ふとその言葉を思い出して手元の『漢字源』(学研)を調べてみると、確かに「蒙」という字は、自分の子どもにつけたいとは決して思わない語源を持っています。
「豚に上から覆いをかぶせた状態」を指す語源を持ち、覆われて暗く、光がなくて何もかも見分けがつかなくなった豚(人)を意味する漢字なのだとか。
話が脇道にそれましたが、国立医学図書館(米)の情報を見ると、この蒙古斑(英語でMongolian spots/Mongolian blue spots)は主に黄色人種、具体的にはアジア人、アメリカ大陸の原住民族、ヒスパニック系などにだけ見られる身体的な特徴だと言います。
例えば米国においては、原住民族の90%、アジア系の80%、ヒスパニック系の70%が蒙古斑を持つものの、白人系の場合は10%以下だと言います。
世界的に見ても、白人の子どもの場合は1~9%の割合しか、蒙古斑を持っていないみたいですね。その結果、白人社会では蒙古斑を知らない人が普通に存在しているそう。
実際に知人のオランダ人に聞いてみたところ、蒙古斑など知らないと言っていました。
米国のQ&Aサイトには「蒙古斑」を虐待のあざだと疑う投稿が・・・
では本当に冒頭で紹介したような話まであるのかと調べてみると、わが子の蒙古斑を虐待のあざだと勘違いされて、両親が児童虐待の嫌疑を掛けられているというニュースがBBCで報じられていました。
子育てについて専門家に相談できる米国のQ&Aサイトには、ある投稿者が友達の子どものお尻に、「今までに見たこともないおぞましいあざ」を発見してしまったという相談もあります。
蒙古斑のある子どもの父親に「蒙古斑って知っている?」と聞かれたそうですが、そのような単語は聞き覚えがなく、虐待からその子を救い出す必要があるのではと、投稿者は相談を寄せているのです。
もちろん投稿者に対して、回答者の医師が「蒙古斑」について一から説明をしていましたが、Q&Aに対するコメント欄には、同様に虐待の嫌疑を掛けられたという経験者が居て、共感の声を寄せていました。
一方でもし自分がベビーシッターや学校の先生だったら、虐待を疑って即刻警察に通報していたかもしれないというコメントも・・・。
わが子に、あるいは自分自身に「蒙古斑」があるという人もコメントを寄せているものの、このQ&Aを見るまでは、なんの「あざ」だったのか知らなかったという人も少なくなかったようです。
中には出産のときに強く圧迫されて、勝手についた「あざ」だと思っていたという人も居る様子。
コメント欄に投稿している各人のプロフィール写真を見ると、米国人の中でも白人が「知らなかった」と発言している傾向があります。「蒙古斑」は意外に、白人の世界では知られていなかったのですね。
蒙古斑は日本で100年近く前に「発見」された
ちなみにこの「蒙古斑」、実は世界的に見るとモンゴルでも中国でも朝鮮半島でもなく、日本に来ていたドイツ人医師が日本で「発見」したという歴史をご存じでしたか?
「発見者」はエルヴィン・フォン・ベルツという人で、ある縁で日本政府に招かれ、帝国大学(現・東京大学)医学部の前身である東京医学校で20年以上教師を務めた偉人です。
日本での多大なる貢献が認められ、後に明治天皇からは勲章を与えられ、ドイツでも皇帝から貴族に列せられたほどの人。現在でも東京大学の本郷キャンパスに胸像が建っています。
このベルツという人が日本人の子どものお尻に青い「あざ」を「発見」し、モンゴロイドに共通する身体的特徴として「蒙古斑」を世界に発表するのですね。それまでは当の日本人も蒙古斑について、特にいわれを知らなかったのだとか・・・。
そう考えると明治維新がもたらしたであろう功績の1つに、蒙古斑の「発見」も列せられるのかもしれません。
以上、蒙古斑の歴史や欧米での知名度の低さなどを紹介しましたが、いかがでしたか? 「そもそも、あのあざの正体って何なの?」という方、『広辞苑』(岩波書店)を見ると、
<皮膚真皮層中にメラニン色素細胞が存在するため>(広辞苑より引用)
とあります。正体はメラニン色素なのですね。普通は2歳児くらいで小さくなり消えていくのですが、大人になっても残った状態を持続性蒙古斑と呼ぶようです。
また、お尻以外にできる蒙古斑を異所性蒙古斑と呼ぶそう。異所性蒙古斑は消えにくいらしく、筆者の左肩にもありますが、成人しても残る(持続性蒙古斑になる)ケースが多いみたいですよ。
[Mongolian blue spots – National Library of Medicine]
[Congenital Dermal Melanocytosis (Mongolian Spot) – Medscape]
[Ask Dr. Sears: Mongolian Spots- parenting]
[CONTRIBUTION TO GERMAN-JAPANESE MEDICAL RELATIONS]
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