人類のためになる研究や功績をなした人々に贈られる「ノーベル賞」は有名ですよね。毎年、その受賞者は世界中で大きく報道されています。では、ノーベル賞のパロディー「イグノーベル賞」をご存知でしょうか。
「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」に対して与えられる賞で、1991年の創設以来30年近く行われているのです。世界中の研究が対象になっていますが、何故か日本人研究者は受賞者の常連なのだとか。ユーモアにあふれたこの賞に関するあれこれを、一緒に見てみましょう。
個性的な研究内容たち
前述のように「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」(全10部門)に授与される賞なので、過去に受賞した研究内容も破天荒なものばかり!例えば「ラットは日本語とオランダ語の区別がつくのか」(2007年)という研究や「インド象の総表面積の推測」(2002年)など、「何故そこ!?」といちいちツッコミたくなってしまいます。
(画像はイメージです)
そんなユニークさとユーモアを兼ね備えた研究たちが揃う中、実は過去に日本人研究者も数多く受賞しているのです。特に2007年以降は12年連続で受賞しているのだとか。2018年は、「座った姿勢で大腸の内視鏡検査を受けると痛みが少ない」という研究が評価された内視鏡専門医の堀内朗氏がイグノーベル医学賞を受賞されました(※大腸の内視鏡検査は通常横たわった姿勢で実施され、被検者は痛みを伴うこともあります)。
おめでとうございます!!
2018年9月13日に既に授賞式は執り行われ、堀内氏は当日実演(に近いパフォーマンス)を行い、大いに会場を沸かせました。
「イグノーベル賞」のここが面白い!
この「イグノーベル賞」の授賞式は毎年秋に、ハーバード大学のサンダーズ・シアターで行われます。実はイグノーベル賞の最大のお楽しみは、この授賞式にあります。いろいろと面白いしかけが隠されているので、代表的なお遊びをいくつかご紹介いたします。
1.紙飛行機が飛び交う
イグノーベル賞の授賞式の伝統として、観客がステージに向かって紙飛行機を飛ばすことで始まります。授賞式の様子は毎年インターネットでライブ中継されますが、いい年をした(そして学問にも造詣が深いと思われる)観客たちが嬉々として紙飛行機を投げる姿は本当に微笑ましいです。
そしてステージに散らばった紙飛行機を掃除するほうき係が存在するのですが、この人選もウィットに富んでいます。かつてはハーバード大学教授のロイ・J. グラウバー氏 (Roy J. Glauber)が務めていましたが、2005年はやむを得ない理由でこのほうき係を辞退されました。その理由というのが、「ノーベル物理学賞を受賞したのでストックホルムの授賞式に出席する」というもの。パロディじゃなくて本家のほうじゃないですか! このことからも、このイグノーベル賞は、その道を究めた人々が大真面目に遊んでいる賞だということが分かります。
2.受賞者は、ロープにつかまって入場
授賞式に入場する際、受賞者たちは1本のロープにつかまってぞろぞろと入場します。これは、迷子にならないようにロープで引率される幼児たちをイメージしているのだそう。確かに、こんな奇想天外な研究を行う研究者たちですから、しっかりと引率しないとあらぬ方向に行ってしまうかもしれませんからね!
3.受賞スピーチのタイムキーパーは8歳の少女
受賞者たちのスピーチ持ち時間は、たった60秒。語りたいことが山ほどある受賞者たちは、かつては60秒を大幅オーバーすることも珍しくなかったそう。それに業を煮やした主催者たちは、1999年から強力なタイムキーパーを進行役として公式に採用しました。
なんとそれは、「ミス・スウィーティー・プー」(Miss Sweetie Poo)と呼ばれる8歳の少女。受賞者のスピーチが60秒過ぎると歩み寄ってきて、「もうやめて!私は退屈なの!」(Please stop! I’m bored!)と連呼するのです。8歳の少女である理由は、一説によると「8歳の少女に罵倒されると一番傷つくという研究に基づく」と言われているそうですが、公式ホームページには明確な理由は見当たりませんでした。
それでも主催者たちが毎年その時点で8歳の少女を招聘しているからには、こだわりがあるのでしょう。ちなみに今年度の受賞者の堀内医師も、ミス・スウィーティー・プーの乱入を受けたじたじになってらっしゃいました。
ミス・スウィーティー・プーと受賞者たちの攻防戦は進化をとげ、スピーチを続けるために何とか彼女を懐柔しようとしようとする受賞者も存在します。お菓子をそっとあげたり、プレゼントを手渡したりあの手この手で時間稼ぎ。それだけ彼女が無視できない存在だということなので、やはり8歳の少女の「飽きた!」は効果があるのでしょう。
4.授賞式のための旅費は自腹
こんなに面白いイグノーベル賞の授賞式ですが、受賞者が出席するための交通費や宿泊費は出ないのだとか。そう、すべて自腹です。じゃあ賞金でまかなえるのかというと、受賞者がもらえるのは「10兆ジンバブエ・ドル」。ジンバブエはインフレが極端に過熱した結果、2015年に自国通貨を破棄しています。そう、つまり通貨としては価値ゼロなのです! 実質、受賞者が受け取るのはトロフィーと名誉だけのようです。
「イグノーベル賞」に関するあれこれ、いかがでしたでしょうか。どこを切り取っても笑いとユーモアに満ち溢れた賞でしたね。こういったユニークな研究が受け入れられるのも、世の中が平和だからなのだと思います。アカデミック界には、いつまでもこの心の余裕をもっていってほしいです。
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