旧陸奥邸の日本庭園
明治元年から150年を記念して、明治記念大磯邸園が公開されています。明治中期に建てられた旧大隈邸、旧陸奥邸は、今年9月に国に建物が寄贈されるまで、古河電工の迎賓施設として使われていました。つまり、明治記念大磯邸園としての一般公開は今回がはじめてなんです。
旧大隈邸と旧陸奥邸のお庭は自由に観覧できます。今回筆者はガイドツアーに参加し、お庭の見どころをうかがってきました。
大磯ってどんな町?
明治18年(1885年)、大磯に日本で初めて海水浴場が開かれました。当時の海水浴は医療目的。ツアーに参加時のガイドさんの説明によると、医師で政治家の松本順が、大磯の海には大きな川の水が流れ込まないから水がきれい、波の飛沫がジャグジーのようになるし、海底の小石には足つぼ効果があるといって推薦したそうです。
この地を気に入った初代総理大臣の伊藤博文が小田原から別荘を移します。他の政治家も次々と大磯に別荘を構えました。なんと歴代8人の総理経験者が大磯に別荘を持っていたんだそうです。大磯が、「明治政界の奥座敷」と呼ばれる所以です。
邸園に入るには?
旧大隈邸・旧陸奥邸入口
邸宅は、大磯駅から1kmほどの大磯名物の松並木にあります。このまま入らず、150m進んだところの総合案内に進み、受付で入園券(無料)をもらいます。
総合案内の隣には、展示ブースがあります。ここでは、明治時代の大磯のこと、そして偉人たちのキャラクターがざっくりつかめます。理解を深めたら、邸園に戻りましょう。
旧大隈邸のお庭
邸園内は、好きなほうから回れるのですが、まずは大隈邸へ。大隈重信が4年間所有していた別邸です。関東大震災もものともせず、玄関を含め、南側はほとんど当時のままというのが驚きです。玄関周辺には大隈さんの出身である佐賀の県木、楠が茂っています。
玄関は家相がよくないとされる西向き。お隣の佐賀藩主のお殿様である鍋島さんに尻を向けられないと、敬意を表すことを優先したんですって。玄関の戸のむこうに丸い鏡が見えますが、これは古河時代のものだそうです。
100ワットと称されたエネルギッシュで明るい人柄で知られる大隈さん。この庭に面した大広間では、よく宴会が開かれました。
旧大隈邸 神代の間
書斎兼寝室だった神代の間です。貴重な神代杉を使ったお部屋です。ツアーに参加時のガイドさんの説明によると、大隈さんはここで座禅をしていたと言わているそうです。
邸宅の窓は、明治時代の末期から大正にかけて使われた「大正ガラス」で、現在日本では製造されていない貴重なもの。特にこの神代の間のガラスは、手吹き円筒法という、厚みが一定ではなく気泡が入る手法で、非常に珍しいものだそう。景色がゆがんで見えるのがなんとも美しいです。でも写真では伝えられないので、ぜひ実物をみてくださいね。
旧大隈邸 五右衛門風呂
五右衛門風呂。数年前に掘り起こされたもので、おそらく風呂好きの大隈さんが使っていたものでは?と言われています。
なだらかな庭。当時の大隈さんは、足に怪我を負っていたので、散策のためというより、部屋から愛でるための庭だったと言われています。
海の方向に石段を下りていくと、鳥のさえずりがかなりの音量です。向こう側にある西湘バイパスからの音を遮るくらいで、いろいろな種類の声が聞こえますよ。きっとここは鳥の楽園なのですね。
旧大隈邸と旧陸奥邸の境目
ツアーに参加時のガイドさんの説明によると、旧大隈邸と旧陸奥邸は、古河家が両方を所有するようになって塀が取り払われたようで、今は庭を通って簡単に行き来ができます。
千手観音のような楠
庭には、古河時代の相撲の土俵跡や、バラ園もあります。大正時代には、東京・駒込の古河庭園に、温暖な大磯で栽培したバラの苗を送っていたそうですよ。
庭全体で、赤松・黒松が約420本。海沿いの邸宅らしさを醸し出しています。
旧陸奥邸のお庭
さて、旧陸奥邸には本格的な日本庭園があります。
大観腰掛岩
中でも目玉となるのは、横山大観が腰かけたとされる岩です。
大観腰掛岩からみた滝
今は水が流れていないのですが、岩に腰をかけると、高さ5mの滝が流れていた場所がみえます。
横山大観作の掛軸「飛泉」
これが描かれた作品です。大観が古河家に宿泊と飲食のお礼に庭の滝を描いたと言われています。南側の窓から家の中をのぞくと、掛け軸が見えます。
旧陸奥邸の玄関に着きました。外務大臣までのぼりつめた陸奥さん。イギリスとの治外法権の撤廃を皮切りに、明治政府の悲願だった15か国すべてと不平等条約改正を実現した凄腕です。
明治27年(1894年)に別荘を建築。2年後に大臣を辞したあとは、大磯とハワイで過ごしていました。カミソリ大臣と呼ばれる切れ者の奥さんは「鹿鳴館の華」だけでなく「ワシントン社交界の華」と呼ばれた亮子夫人。長男もイケメンと評判です(展示の写真を見た見学者の間で)。障子が上部だけというセンスは海外で培ったのでしょうか。
邸宅は、関東大震災で壊れたあと、応接間兼主人室のあたりは、ほぼ元どおりに再建されています。
晴れたときがいいか、曇りのときがいいか
さて、見学はどんな天気のときがいいでしょうか。晴れた日に、緑の松が青空に伸びるさまを見るのはとても気持ちがいいです。
ただ、曇りや夕方の薄暗いときは、邸宅のライトアップがきれいに見えるんです。
湯川松堂作の杉戸
伊藤博文が明治天皇から下賜された湯川松堂作の杉戸や、伊藤博文の肖像画などが窓から見えます。今回、伊藤博文にまつわる品物を大隈邸内に展示しています。
また、旧陸奥邸前のうっそうとした雰囲気も、曇りの方が素敵です。
大磯の海へ
邸宅と隣のマンションの間に細い道があります。ここを進むと、海へ出られるのです。海水浴発祥の地の大磯の海に触れてください。
邸宅の中に入るには?
実は邸宅の中を見学するガイドツアーがあります。あまりの人気で、予約がいっぱいになってしまいましたが、もしキャンセルが出れば当日先着順で参加できます。
旧大隈邸 富士の間(掛軸は伊藤博文書を展示)
中に入ると、旧大隈邸の見事なサルスベリの床柱や、杉戸のもう2枚が裏側にあるのものなどが見えます。
旧陸奥邸 風呂場
旧陸奥邸では、当時の風呂場や、蹇蹇録を口述で記した書生の部屋など。
旧伊藤邸 滄浪閣
旧伊藤邸である滄浪閣の中庭にもガイドツアーで立ち入りが可能です。なお、今の建物は李王家時代のものです。
お庭だけでも見ごたえがありますが、ツアーのキャンセル待ちで朝一に行ってみてもいいかもしれません。
来年は公園になるという計画ですが、明治への改元から150年の今年にぜひ訪れてはいかがでしょうか?
明治記念大磯庭園 明治150年記念公開期間:2018年 10月23日(火) 〜 12月24日(月)
会場:明治記念大磯邸園(神奈川県中郡大磯町西小磯85ほか)
開園時間:9:00~16:30 ※最終入園は16:00まで。
休園日:水曜日 (ただし、12月2日(日)は湘南国際マラソンのため休園)
参考
大磯建物語4 明治記念大磯庭園 (大磯まちづくり会議発行)