トルコの大都市、イスタンブールの観光スポットは、アヤソフィアやブルーモスク、トプカプ宮殿だけではありません。イスタンブールの旧市街と新市街を隔てる金角湾周辺は、ブルーモスクがあるスルタンアフメット地区とはひと味違う雰囲気が味わえるエリア。
ちょっぴり通なイスタンブール観光を楽しみたい人や、トルコ旅行のリピーターさんにもおすすめ。カーリエ博物館からエユップ・スルタン・ジャーミィ、ピエール・ロティのチャイハネを経て、金角湾をクルーズして新市街に行くルートをご紹介します。
カーリエ博物館
イスタンブールの主要観光スポットとしてガイドブックにも掲載されているカーリエ博物館ですが、観光の中心地からやや離れていることもあり、せわしない団体旅行者はなかなか訪れることのないスポットでもあります。
生活感漂う住宅地にひっそりとたたずむこの博物館は、もともと5世紀の初めに「コーラ修道院」として建てられたもの。この時代のイスタンブールは東ローマ帝国の領土でしたが、のちのオスマン帝国の時代には、イスラム教のモスクに転用されることとなったのです。
13~14世紀に描かれたキリスト教のモザイク画は、漆喰で塗りつぶされてしまったものの、20世紀半ばの調査で再び日の目を見ることに。今では、カーリエ博物館のモザイク画は、ビザンツ芸術の傑作として知られています。
筆者が訪れた際は、残念ながら修復作業のため、外観は完全に覆われた状態。中のモザイクもすべてを見ることはできませんでしたが、それでも厳かな雰囲気を醸し出すモザイク画に覆われた空間は、息を呑むほどに神秘的です。特にイエス・キリストの表情には、魂が宿っているような凄みを感じました。
おまけに、動物好きには嬉しいことに、カーリエ博物館周辺は猫がいっぱい。どうやら関係者が定期的にエサをあげているようで、このあたりに棲みついているようです。静かなエリアだけに、猫たちにとっても暮らしやすいのでしょうね。
エユップ・スルタン・ジャーミィ
カーリエ博物館を見学した後は、市内バスに乗ってエユップ・スルタン・ジャーミィへ。イスタンブールのモスクといえばなんといっても「スルタンアフメット・ジャーミィ(通称ブルーモスク)」が有名ですが、ほかにも見ごたえのあるモスクがたくさんあります。
金角湾に面したエユップ地区に建つ「エユップ・スルタン・ジャーミィ」は、新しいスルタンが即位する際、ここで聖剣授与が行われたという由緒あるモスク。預言者ムハンマドの盟友でイスラムの英雄でもある、アイユーブ・アル・アンサーリの墓所があることから、ムスリムにとっては重要な聖地となっています。
色鮮やかなイズニックタイルで彩られた霊廟には、真剣な面持ちで祈りを捧げる信者が入れ代わり立ち代わりやってきます。そんな光景を見るだけでも、ここが彼らにとってどれほど特別な場所なのかがわかります。
礼拝室内部は、派手さはありませんが、厳粛さではピカイチ。聖地だけに、伝統的な長衣や帽子を身に付けている男性も多く、一般のモスクとは違った雰囲気が味わえます。
「門前町」といった雰囲気の町並み
エユップ・スルタン・ジャーミィの周辺には、コーランの一節やありがたい言葉が書かれたパネル、イスラム教の数珠、あるいはトルコ名産のバラを使った石鹸やコスメといった土産物を売る露店が並び、日本の門前町そっくりの様相を呈しています。
日本人旅行者が欲しくなるようなものはないかもしれませんが、トルコと日本の相違点を感じて、眺めているだけでも興味深いですよ。
ピエール・ロティのチャイハネ
エユップ地区には、エユップ・スルタン・ジャーミィと並ぶもうひとつの有名スポットがあります。それが、ジャーミィの奥にある乗り場からロープウェイで行ける高台にある、「ピエール・ロティのチャイハネ」。
19世紀末に活躍したフランス人作家、ピエール・ロティは、金角湾を見下ろすこのチャイハネを好み、景色を眺めながら小説を書いていたといいます。
週末だったこともあって、金角湾に面した屋外席には、お客さんがぎっしり。地元の人から外国人観光客まで、みんな思い思いにこの開放的なロケーションを楽しんでいます。
6月下旬の晴れた日ともなれば、かなり暑いイスタンブールですが、ここでは木陰があるので外に座るのが気持ちいい!レモネードなどの冷たいドリンクにも惹かれましたが、せっかくのチャイハネなので、王道のチャイを注文しました。
眺望抜群の屋外席に加え、ピエール・ロティの肖像画などが飾られたレトロな屋内席にも注目。「ピエール・ロティ」と書かれた看板の上には鳥が巣を作っていて、なんとも微笑ましい限りです。
金角湾クルーズ
再びロープウェイで下界へと戻ったら、エユップの桟橋から新市街のカラキョイ(ガラタ塔近く)まで、プチクルーズの始まりです。この路線は一時間に一本程度の運行なので、エユップ地区に着いたら、まずは桟橋で運航スケジュールを確認するといいでしょう。
ボスポラスクルーズとは異なるイスタンブールの表情が楽しめる金角湾クルーズもなかなかに魅力的。中心部に近付いてくると、オスマン帝国時代の建築家ミマール・スィナンの傑作である「スュレイマニエ・ジャーミィ」や、新市街のガラタ塔もよく見えます。
最後は、カラキョイの船着き場でゴール。
イスタンブール観光の定番から少々外れたルートをたどる、今回のコース。エユップ・スルタン・ジャーミィやピエール・ロティのチャイハネにいると、スルタンアフメット地区とはあまりにも景色や雰囲気が異なるので、イスタンブールにいることを忘れてしまいそうになるかもしれません。
金角湾周辺へと足を延ばせば、きっと知らなかったイスタンブールに出会えるはずです。
[All photos by Haruna]
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