(C)酸ヶ湯温泉
山の天気は変わりやすい 霧の八甲田山
標高1,585mの八甲田山。八甲田山といえば高倉健が主演した映画「八甲田山」を思い起こしますが、雪深い冬場を除けば、そんなに恐ろしい山ではありません。日本百名山のひとつに数えられる自然豊かな山です。
(C)Masato Abe
秋の美しい紅葉を見たいと思い、酸ヶ湯登山口にやってきました。とはいえ、あいにくの霧。交通手段はバスになります。JR青森駅東口からJRバスで1時間10分、または新幹線の新青森駅東口からJRバスに乗り、1時間20分で終点の酸ヶ湯温泉に到着します。酸ヶ湯温泉旅館に宿泊する場合は、青森駅近くから宿まで無料の送迎バスがあるので助かります。
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登山口は酸ヶ湯温泉から近いのです。この日は写真の通り、霧雨で4〜5m先も見えないほどの濃い霧に包まれていました。今日は果たして晴れてくれるかどうか。
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しばらくは雨でぬかるんだ樹林帯の登山道を歩くことになります。しばらくすると河原沿いの岩場。そして低木の樹林帯となります。
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まもなく仙人岱(せんにんたい)と呼ばれる湿地帯にでて木道を歩きます。ここまで1時間半ほどでしょうか。ここから山頂の八甲田山大岳へ向かいます。八甲田山というのは周辺の複数の火山を集めた総称で、ひとつの山ではありません。大岳と呼ばれるピークがもうひとつあります。東に標高1,559mの高田大岳がそびえています。
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八甲田山大岳へは仙人岱から石の多いガレ場の急坂を登っていくことになります。周囲は相変わらずの霧で、しかも雨風がさらにきつくなっていきました。さてさて、どうなることやら。
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そして標高1,585mの大岳山頂に到着です。ここまでおよそ2時間半。風も強く吹き付け、残念ながら景色を楽しむどころではありませんでした。とはいえ、この日の目的は山頂からの眺望よりも湿原地帯の紅葉なんです。
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山頂から北側斜面を少し下った1,400m付近に避難小屋の大岳ヒュッテがあります。ここでひと休み、と思って中に入ってみると、大勢の先客がいるではありませんか。みなさん、ここで雨風をしのいでいた様子です。スペースをあけていただき、昼食のおにぎりをいただきました。
みごとな草紅葉 八甲田山の高層湿原・毛無岱
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避難小屋で休んでいる間に少し霧が晴れてきた様子で、ようやく外に出てみました。そして山を下っている間にも霧が流れて周囲が見渡せるようになってきました。ここが毛無岱(けなしたい)と呼ばれる八甲田山の高層湿原です。「日本百名山」の著者・深田久弥は、この湿原を「神の工(たくみ)を尽くした名園」と絶賛しています。たしかに天空の楽園でした!
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毛無岱は標高が異なる2つの湿原に分かれています。上の写真は標高1,200mほどの所にある上毛無岱、そして下の写真は上毛無岱から標高1,000mほどの下毛無岱を眺めています。
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毛無岱の草紅葉は、毎年9月下旬から10月上旬頃が見頃だといいます。一目見たかった天空の楽園。「山の天気は変わりやすい」という言葉通り、先ほどまでの雨風が嘘のように収まっています。しかも毛無岱ではちょうど紅葉が始まっていました。
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ちなみに毛無岱という名前、不思議な名前ですが、湿原地帯で樹木が少ないために「毛無」となったのではないかと想像します。そして「岱」とは、中国・山東省にある泰山の古称といいますが、日本では台地状の平らな山などに名付けられているようですね。
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上毛無岱よりも下毛無岱のほうが少し広いようです。湿原のところどころに小さな池、池塘があります。その間を木道で少しずつ降りていきます。
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毛無岱は湿原ですので、ずっと木道が敷かれています。先ほどまで大雨が降っていたので、木道の周りは水が溢れ、ぬかるんでいました。景色に気を取られて滑らないように歩きます。
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1時間ほど紅葉を楽しみながら下ってゆくと、酸ヶ湯温泉旅館の建物が見えてきました。ちょうど旅館の脇に下りてゆくのですね。
百聞は一見に如かず 酸ヶ湯温泉の千人風呂
本日の宿は八甲田山の中腹、標高950m地点にある酸ヶ湯温泉。いまでは年間を通じて、千人風呂を目指すたくさんの観光客でにぎわいます。
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酸ヶ湯が発見されたのは今から約300年も前だそうです。鹿が湯に浸かり傷を癒やしていたため「鹿湯」と呼ばれたのがそもそもの由来ですが、その後、強い酸性のお湯であることから、名前が「酢ヶ湯」そして「酸ヶ湯」と変わったといいます。
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玄関を一歩入ると築100年もの木造の建物と浴衣を着た中高年の湯治客がそぞろ歩くさまに、昭和ロマンを感じさせます。そして強い硫黄の匂いが立ち込めています。
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酸ヶ湯温泉の大浴場は「ヒバ千人風呂」と呼ばれています。青森のヒバの木が使われているからです。そして千人風呂は混浴なのです。2つの大きな湯船は向かって左側が男性で、右側が女性の入浴スペース。男性が立ち入っていけないスペースには衝立てがありますので、注意して入浴してください。
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浴室内は蒸気で曇って周囲が何も見えないのですが、それでも混浴は苦手と抵抗感のある女性のために「湯あみ着」があります。また朝8時から9時が女性専用の時間なので、落ち着いて入浴できます。
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千人風呂にある大きな2つの湯船は、それぞれ異なる源泉を使用しています。上の写真の手前にあるのが「熱湯(ねつゆ)」。浴槽底から41〜42度の源泉が湧いています。そして奥にあるのが「四分六分(しぶろく)の湯」。「熱湯」とは別の源泉で、温度は43度とやや高くなっています。しかし、体の温まり具合が「熱湯」を10とした場合、4~6割なのでこの名前が付けられたのだそうです。
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とはいえもうひとつ、上の写真、男女別の内風呂「玉の湯」もありますのでご安心を。けっこう広いですし、玉の湯にはシャワーや洗い場、シャンプーリンスなどもあり、上がり湯として使われています。
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そして、酸ヶ湯温泉で注目したのは売店でした。広々として多彩、品数も充実しています。お菓子や記念品などのお土産はもちろんですが、自炊をする方も多いので、カップラーメンや日本酒、それにちょっとした野菜などなど、たいていの食材がそろっているのです。ここは小さな村、そんな印象でした。
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夕食は青森の山の幸、海の幸が並びます。どれもおいしく、ボリュームもたっぷりで湯治の宿とは思えないほど。朝食も大満足です。日帰り入浴もできますので、ぜひ一度は酸ヶ湯温泉を楽しんでみてください。