北イタリアの水の古都ヴェネチアから船で40分程のところに、漁師の暮らす小さなブラーノ島がある。船が島に着岸すると、一斉に観光客は美しくカラフルな街並を目指して島の中へと流れていく。にわかに賑わった船着場は、やがてまた本来の静寂さを取り戻す。すると、やれやれと、白猫がどこからともなく姿を現して、大勢とは違うほうの道へと歩いていった。
白猫に導かれるように、観光客の誰もいない住宅の小径をついていく。白猫は私の存在を確信しているのか、歩くペースをあげたりも、後ろを振り返ったりもしない。ゆっくりと、堂々と、だけど確かな足取りでどこかに向かっている。まあ、きっと、この色に愛された美しい街を自慢したいだけなのだ。
彼女(彼)の誘う世界は、色あせたパープルやコーラル、やや淡いブルーやビビッドなピンク、レモン色などの家々が立ち並び、同じように色とりどりの洗濯物が気持ち良さそうに家々の間に張られたロープに干されて、風に泳いでいる。その色の空間に溶けこむように、たくさんの猫がのんびりと寛ぎ、それぞれの時間を過ごしている。
ふと気付くと、前方を歩く白猫はオレンジ色の家の前で立ち止まり、ようやく私を一瞥すると、ニャーンとないて家の中に入っていった。
ブラーノ島に色とりどりの家があるのは、昔、漁に出た男たちが、濃霧のなかでも沖から家に戻ってこられるようにと、女たちが自分たちの家の外壁に色を塗り始めたからだとか。それぞれの色は愛の結晶だ。そしてその色を目指して帰ってくるのは、島の猫たちも同じ。ならば、この街の猫たちも人に愛されているということだ。
Nozomi Kobayashi
1982年東京都出身。2005年立教大学文学部心理学科卒業。大学在学中から海外をバックパッカーとして旅をする。写真部に所属。
2005年サイバーエージェント入社。子会社のアメーバブックス新社で多くの書籍を編集した後、2011年末に退社、その日の夜から一眼レフを相棒に旅に出る。1年後帰国して、その旅を綴った『恋する旅女、世界をゆくーー29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎)でデビュー。
既に45カ国をめぐり、現在も世界を旅しながら執筆活動をする。傍ら、ネットやラジオ、雑誌などで旅や世界のネコなどをテーマにした取材をうけたりしている。また、瀬戸内海の秘境の無名の離島「讃岐広島」で、古民家を宿として再生する島プロジェクトを立ち上げ、「ひるねこ」をオープン(ボランティア)。近著に『女ふたり、台湾行ってきた。』(ダイヤモンド社)、世界25カ国54の街で出会ったネコのフォトブック『世界の美しい街の美しいネコ』(エクスナレッジ)、長期旅でオス化した著者が女を取り戻す挑戦の旅を綴った『恋する旅女、美容大国タイ・バンコクにいく!』(幻冬舎)がある。
今年夏以降、2度目のキューバをはじめ、中米数カ国を旅する予定。スペインに長期滞在するのが夢。ラテン人の楽観的な生き方に惹かれるのが理由。
instagram/nozokoneko
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