フィレンツェの郊外の小さな町、パンツァーノ・イン・キャンティは、オリーブとぶどう畑に囲まれたのどかな町。
こんな郊外の町まで、人々がわざわざ買いに来るほど有名なお肉屋さん「ダリオ・チェッキーニ」があります。おいしいお肉を愛してやまないオーナーのダリオさんは業界では有名人。日本でも公開中の、世界のおいしいお肉を巡る旅のドキュメンタリー映画「ステーキ・レボリューション」にも、美食大国イタリアから、おいしいお肉を紹介するため出演しています。
こんな小さな町から、精肉業界の超有名人になるまでの、彼の肉屋としての情熱、その伝説をご紹介します。
伝説となった牛の葬式
町に代々続くお肉屋さんのダリオさん、明るく、ユニークな人柄で人を引きつける彼が有名にした事件。世界を震撼させた狂牛病の対策として、2001年EU11カ国で骨付き肉の販売が禁止されました。お店のあるトスカーナ地方は、骨付きのTボーンステーキが伝統的料理、この条例を受けてたくさんの肉が処分されることになりました。そのことを憂いて、処分される肉を棺桶に入れて赤いバラで飾って葬式を出したのです。
その時作った墓石が今もお店の入り口にバラの花とともに飾られています。それは彼のお肉に対する情熱の標石でもあるのですね。
もちろん、彼を有名にしたのはそんな派手なパフォーマンスだけではありません。そこには彼が見込んだおいしいお肉、そしてそれをおいしく食べる提案があるから。郊外のこのお店まで、わざわざ車を飛ばして人々が買いにくるのはそのためです。
伝説のお肉屋さんが提案する新しいお肉のおいしい食べ方
彼は田舎町の一介の肉屋では終わりませんでした。世界中からおいしいお肉を探し、またそれをおいしく食べる方法も提案してきました。そしてそのおいしい肉をその場でも食べれるようにと、肉屋にレストランを併設するようになりました。そこでは彼が提案した、おいしいお肉料理を味わうことができます。
こちらがその盛り合わせ。左手前からキャンティのツナと命名された豚肉のマリネ。本当にツナのようにほろっとほどける味わい。その奥はキャンティの寿司と命名された牛肉のタルタル。新鮮で上質なお肉である自信があるからこそ生で食べてもらいたい、渾身の一品。他にもオレンジのマリネや、伝統料理ポルケッタをアレンジしたものまで、お肉をよりおいしく、楽しく食べるための、彼のアイデアがあふれています。
ランチでは、赤身肉を贅沢に使った炭火焼のハンバーグも、お肉本来のおいしさが味わえる一品です。夜にはフィレンツェ名物Tボーンステーキのメニューもあります。
誰よりもお肉を愛し、自分の仕事に誇りと情熱を持つ伝説のお肉屋さん。そのおいしさは、食べることの大切さ、食べ物を大切にする気持ちを思い出させてくれる物です。彼の熱い思いは今日本でも上映中の映画「ステーキ・レボリューション」でも見ることができます。彼の情熱を知ったら、今日はきっとおいしいお肉が食べたくなるはずですよ。
[Photos by Ryoko Fujihara]
[Dario Cecchini]