旅立ち前、行先の土地について書かれた本を読んでおくと旅の魅力は何倍にも増すものです。荷造りや家の掃除に追われ、結局手を付けないままドタバタ出国することが常ですが。ここでご紹介する本は、いずれも肩の力を抜いて読めるものばかり。道中のお供にいかがでしょう。
1. 『世界しあわせ紀行』、エリック・ワイナー
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『ニューヨーク・タイムズ』元記者で世界30か国以上を取材したジャーナリストが、「幸せ」を探し歩いた旅の記録です。
「経済的に成功しているスイス」「暗そうな極寒の地アイスランド」などの私たちが持っている先入観は、幸せという視点で切り取ると大きく覆されます。「現地へ行くと、報道やガイドブックの印象と違って驚いた」という経験は旅人なら誰しも持っていると思いますが、本書ではそれを追体験できます。
2. 『遊牧夫婦』、近藤雄生
(C) 紀伊國屋書店
3部作の長編エッセイですが、まず読むなら1作目のこちら。東大大学院を修了した後、「文章を書いて生きていこう!」と、無職のまま奥さんと旅に出かけた著者の5年半が綴られています。一見無謀な人生設計に見えますが、文章修行を重ねてライターとして独り立ちできるようになっていく行程は一種のドキュメンタリーのよう。「旅を暮らしにする」というスタイルも一つの選択肢かも、と思えてきます。
続編の『中国でお尻を手術。』『終わりなき旅の終わり』では旅が夫婦生活そのものになっていく様が時にユーモラスに、時に悩み深く描かれており、こちらも読みごたえがあります。
3. 『東南アジア四次元日記』、宮田珠己
(C) 紀伊國屋書店
捧腹絶倒の本を評すのに「電車の中で読むと危険!」という文句がありますが、本書はまさにそれ。1ページに1回の高頻度で笑いどころが登場する面白エッセイです。「エリートサラリーマンだった彼が、会社を辞めて、アジアをさまよう旅に出た」と説明されていますが、はたして。冒頭はこんな調子です。
旅に出るため、先日、会社を辞めた。
その会社には大学を出てから十年近く勤めていた。十年である。気の遠くなるような年月だ。事実、私は仕事中によく気が遠くなって、会議室で休んだり、近くの喫茶店でコーヒーを飲んだりしたものだ。
全然エリートサラリーマンじゃない!!
ともかく、この5文で笑った方は間違いなく本書を楽しめます。
4. 『おしゃれのベーシック』、光野桃
(C) 紀伊國屋書店
いわゆる紀行文ではないのですが、異国の空気をまとったエッセイです。著者が暮らしたイタリア、バーレーンのファッション事情を主軸に、「おしゃれとは何か」が語られています。「ストッキングは第二の皮膚である」「紺色は、日本人の肌を生かすもっとも美しい色」など、メモしておきたいフレーズがたくさん。旅先で服を買おうとするとあれもこれもと目移りしてしまいますが、本書を読んでおけば自分にぴったりの一品を見つけられそうです。
5. 『くちぶえサンドイッチ』、松浦弥太郎
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すっかり「ていねいな暮らし」の人になってしまった松浦弥太郎さんですが、十年ほど前はヒッピースタイルの紀行文をよく書かれていました。タイトルの由来は「くちぶえを吹くような軽い気持ちでこつこつと書き続けた」からだそうで、その言葉通りいい意味で脱力した随筆集です。マーラーしかかけない喫茶店、いつも「ガハハ!」と豪快に笑うファーマーズ・マーケットのおじさん、真夏の日差しを浴びて食べたアメリカン・ブレックファスト・・・。著者が出合った物や人をなぞって旅したい、と思わせるエッセイです。