家康公をご祭神として祀った「久能山東照宮」
東京駅からJR静岡駅までは新幹線で約1時間。家康公ゆかりの地を巡るのに、まず外せないのが、家康公をご祭神として祀った「久能山東照宮」(静岡市駿河区)。大河ドラマ効果もあり、年間の参拝者はコロナ前40万人から1.5倍の60万人ペースの人気だそうです。
久能山へと向かう日本平ロープウェイはJR静岡駅から車で30分、バスだと50分ほどの距離。山を登る道すがら静岡県民の自慢である富士山と茶畑が一望できるスポットもあります。ちなみに余談ですが、縁起がいいものを指す「一富士二鷹三茄子」は家康公が遺したそうです。
日本平から全長1065mの江戸時代の「駕篭(かご)」をイメージしたロープウェイに乗車。筆者が訪れたのは11月ですが、家康ブームによる観光客増加に伴い特別ダイヤになっていて、ロープウェイは通常15分間隔のところ5分ごとに運行していました。料金は大人片道700円、小児350円です。
1617年に創建された豪華絢爛な国宝「社殿」
ガイドのアナウンスを聞きながら、この季節は眼下に広がる美しい紅葉のじゅうたんを眺めていると5分ほどであっという間に久能山に到着しました。乗降場から社務所受付を通過すると見えてくるのが朱色の楼門。楼門には平和を祈って設置したと言われるバクが飾られています。
境内に入ると、門のすぐ裏手に「家康公御手形」が設置されています。こちらは38歳の頃の家康公の手形。身長150センチ後半だったため、意外にも手のサイズはかなり小さく感じました。
さらに階段を上って唐門をくぐると、久能山東照宮の目玉ともいえる1617年に創建された国宝の社殿(拝殿、石の間、本殿)が見えてきます。豪華絢爛な総漆塗りで、いたるところに色鮮やかな彫刻や絵が飾られています。
今回特別に拝殿の中を見せてもらいましたが、厳粛な雰囲気とともに、内部の美しい装飾が非常に興味深かったです。社殿は50年に一度塗り替え作業が行われているため、天女や鳥や植物などの装飾が非常に鮮やかです。また装飾の一部は200年前の貴重な色をそのまま残しており、つい時間を忘れて見入ってしまいました。
逆さになった「葵の御紋」に込めた意味は?
そして、社殿への参拝するとき、まず目に入ってくるのが、中央左右にある3つの彫刻。神職の方の説明によると、これは「司馬温公の甕割り」「三賢人」、「瓢箪から駒」という中国の故事からなるモノで、家康公の教えである、命を大事に、終生勉強を、人生は何が起こるかわからない(常に準備を)というメッセージをそれぞれ伝えています。
拝殿にはこういった逸話があちこちにあります。例えば外観には多くの葵の御紋がありますが、よく見ると、葵が上下逆になっている「逆さ葵」が4か所(見えるのは3か所)にあるそうです。これは設計ミスではなく、日光東照宮の陽明門の柱が1本逆さまになっているのと同じで、完成したものはあとは朽ちていくのみなので、あえて未完成にしておくために逆さにされたとも考えられます。
そんな家康公の想いを感じつつ、拝殿の西側にある階段をのぼっていくと、これまでの景色が一変。家康公のお墓「神廟」があるひっそりとした空間に到着します。境内で最も高いところにある神廟は、西の方向を向いていて、京都の天皇を見ているとも、西の大名に睨みを利かせるためとも、幼少期を過ごした浜松・三河を向いて生涯を振り返っているとも言われています。家康公の想いはこんなところにまで遺されていたのでした。
ちなみに、東照宮まではロープウェイのほか、久能山下からの徒歩ルートもあります。1159段の石段を約20分かけて登る過酷な道ですが、東照宮の神職や職員のみなさんは毎日この石段で通勤しているから驚きです。延々と続く石段は敵の侵入を防ぐため急な角度ですが、駿河湾の眺望も望めるので、体力自慢な方はぜひチャレンジしてみては。
大御所時代の家康が過ごした「駿府城公園」
もうひとつの家康公ゆかりの地巡りで外せないのが「駿府城公園」です。江戸幕府成立後、将軍職を息子・秀忠に譲ったのちの大御所時代を過ごした駿府城跡を整備した公園。こちらはJR静岡駅から徒歩で15分ほどの距離です。
駿府城は天正期と慶長期の2度にわたって造営され、家康公は晩年の65歳から亡くなる75歳までの10年間をここで過ごしています。しかし、2度の火災で天守は焼失し、現在は2016~2022年に実施した発掘によって見つかった天守台を公開しています。駿府城の天守台は国内最大規模とも言われ、城や歴史に興味がある人なら見逃せないスポットです。
幼少期、壮年期、晩年。3体の家康像
もうひとつ、駿府城公園でチェックしておきたいのが、フォトスポットでもある「徳川家康公之像」です。静岡市内には家康公の像が3体あり、駿府城公園の1体と、JR静岡駅前に2体の像があります。駿府城公園の家康像は、鷹狩りに興じる晩年の姿を描いたとされています。
一方、JR静岡駅北口のバスロータリーの隣にあるのが、幼少期の「竹千代君像」。今川領だったころの駿府にいた家康公(幼名、竹千代)で、後ろにいるのは今川義元公です。まだ幼いですが、その可愛らしさの中にやがて天下を取る男の凛々しさがうかがえます。
そして、その竹千代君像のすぐそばにあるのが「五か国時代の家康像」。三河・遠江・駿河・甲斐・信濃の五か国を支配した壮年期の頃で、采配(さいはい)を手に持つ姿には威厳があります。かなり大きく、駅からも近いので撮影スポットにピッタリです。
また、その駿府城公園のすぐ横にある「静岡市歴史博物館」でも、家康公の足跡をたどることができます。企画展「駿府城と徳川家康」(12月10日まで)が開催され、江戸を離れた家康公が居住した駿府城本丸御殿を徹底解剖し、その政務スタイルに迫っています。静岡市歴史博物館は、建設前の発掘調査で見つかった「戦国時代末期の道と石垣の遺構」がそのまま内部に取り込まれた変わった造りになっていて、一見の価値ありです。
松本潤が大河で着用した具足をプラモに
駿府城外堀の城代橋すぐそばにあるのが、今年4月に設置された「プラモデルパーツ風の家康公の金の甲冑モニュメント」です。
実は静岡市は、世界的プラモデルメーカー・タミヤの本社やバンダイの拠点があり、プラモデルの全国出荷額8割を誇る「模型の街」なのです。そのため、静岡市ではプラモデルを活用して街の賑わいを生み出す「静岡市プラモデル化計画」を2020年から実施。
プラモデルパーツ風の家康公の金の甲冑は、大河ドラマ「どうする家康」で松本さんが着用している「金陀美具足」をモチーフに作成されました。具足界ナンバーワン知名度といっても過言ではない金陀美具足のプラモニュメントを間近に見ることができます。
静岡市プラモデル化計画では、静岡市役所静岡庁舎前の郵便ポスト、JR静岡駅の公衆電話などのプラモニュメントを市内の9か所(2023年11月取材時)に設置しています。ほかにはどのようなプラモニュメントがあるのか探してみるのもいいかもしれません。
お茶好きの家康が愛した「本山茶」
家康公にゆかりがあるのは何も寺社や史跡だけではありません。静岡といえばお茶が有名ですが、お茶にも家康公にまつわるエピソードがあります。そもそも静岡県はお茶の生産量で全国1位を誇り、市場に流通しているお茶の60%が静岡茶と言われています。なかでも静岡茶発祥の地で作り出される「本山茶(ほんやまちゃ)」は、家康公に愛飲されていたことでも有名です。
というのも、75歳まで長生きした家康公は、粗食を心がけるなど食生活にも気を遣っており、健康によいお茶をよく飲んでいました。そのため、お茶を詰めた茶壺を保管するための茶蔵を建てたという逸話も残っているほどです。
JR静岡駅北口地下広場にある、静岡茶商工業協同組合が運営する日本茶カフェ「しずチカ茶店一茶」は静岡市のシティプロモーション施設で、組合加盟の約50社のお茶が一堂に集まり、週替わりで3種類を「本日のお茶」として提供しています。
さらにお茶のプロ・茶匠がこだわった茶葉を500円で購入できる物販コーナーも併設しています。今回、筆者が購入したのが「家康浪漫」「本山茶」「天下人」の3種で、いずれも家康公が愛飲していた「本山茶」です。なかには手軽にティーバッグで淹れられる商品もありました。それぞれ渋みや甘みに特徴があるので、どう違っているのか飲み比べてみるのも楽しいかもしれません。
「家康公は静岡が好きだったはず」
家康ブームに沸く静岡市。静岡市役所広報課のシティプロモーション担当者は次のように期待を語ります。
「徳川家康は、生涯の3分の1を静岡市(駿府)で過ごしました。江戸幕府を開いた後、もう2年後には静岡市に戻ってきているんです。西国の大名へにらみを利かせる意図もあったでしょうが、やはり家康公は静岡が好きだったはず。そんな温暖な気候と豊かな自然が今も残っているので、ぜひ見たり、体感したりしていただけると有難いかなと思います」
久能山東照宮以外にも、駿府城公園の発掘調査現場や静岡市歴史博物館など、家康公のゆかりの魅力的なスポットはたくさんあります。大河ドラマ放映中の今こそ、ぜひ一度訪れてみもいいかもしれませんね。
住所:静岡県静岡市駿河区根古屋390 久能山東照宮社務所
TEL:054-237-2438
アクセス:久能山の山下から表参道を登るか、日本平からロープウェイで渡る。
URL:https://www.toshogu.or.jp/
[All Photos by SilverIogi]