「久保田」を造る「朝日酒造」とは?
新潟県長岡市の「朝日酒造」は、水田と里山の広がる新潟県長岡市朝日で1830年(天保元年)に「久保田屋」として創業されました。
いまやお酒好きならずとも知っている「久保田」は、創業時の屋号を名に冠した日本酒。生まれたのは1985年です。
もともと朝日酒造には、甘口で濃厚な味わいの「朝日山」という定番のお酒があり、地元の人に親しまれていました。しかし、時代の変化とともに、都会の人のニーズにも合わせて淡麗なプレミアム酒を作ろうというプロジェクトが立ち上がったのです。そして誕生した久保田は、さらっと飲める淡麗辛口ブームの火付け役となり、多くの人に知られるようになりました。
朝日酒造は日本酒の主原料である米を大事にしています。朝日酒造商品の原料米には新潟県産米のみを使用。地元農家と直接契約して栽培された米も使っています。
機械や科学的分析とともに職人の五感を駆使した酒造り
朝日酒造の酒蔵見学は、季節限定実施の「60分製造工程見学コース」と 通年実施の「20分見学コース」があり、歴史や酒造りのこだわり等のお話を交えながら、案内していただけます。
まずは「松籟蔵(しょうらいぐら)」と呼ばれる建物で、製造工程を見学します。大まかには下記のような過程を経て、お酒ができあがります。
【精米、洗米・浸漬】
玄米を精米して、洗って水に浸します。年によって米の状態が異なるため、その米に合わせて調整する必要があります。後の工程で挽回できないので、とても重要な工程です。
久保田にも、百寿、千寿、萬寿と種類がありますが、これは米の精米歩合の違いから生まれます。米の外側にはミネラルが存在し、それがご飯で食べるとおいしい部分である一方、お酒にとってはミネラルが雑味のもとになるのです。
そのため、米の中心にある「心白」といわれるでんぷんの集合体を残して外側を削ります。70%まで削ると本醸造、60%までだと吟醸、50%で大吟醸に分類されます。久保田萬寿の掛米は、33%まで削っているので、とても贅沢な作りというわけです。
【蒸米】
水を含んだ米を蒸します。蒸すのは機械が行いますが、蒸米の状態は杜氏(酒造りの現場を仕切るトップ)や蔵人の目や感覚と小まめな品温管理によって確かめられています。
【製麹】
蒸米に麹菌を付着させ、麹米を作ります。40度前後のサウナのような状態で温度管理をしながら麹菌を発育させます。米の外側を乾かしながら、中心に菌糸が食い込んでいく環境を整えていく「切り返し」という作業は、一番重要なプロセスだそうです。2日ほどで麹ができあがります。
【もろみ製造】
タンクに水と麹、酵母を入れて酒母(酛)を造り、さらに水と麹、蒸米を追加して、糖化と発酵のバランスを取りながら、もろみを仕込みます。タンクの上はフロアになっていて、床に開いた穴がつまりタンクの口で、そこから、もろみの様子が目視できます。
それにしても、ひっそりと静かで、いわゆる大型の木桶で大勢が作業をしているような酒蔵のイメージとはかけ離れた、近代的な酒蔵という雰囲気です。
約1カ月の間、成分値を記録し、科学的分析を加える一方、杜氏が泡を目で確かめながら、もろみの状態を総合的に見極めていきます。かつて杜氏の技術は門外不出だったそうですが、いまは技術を伝承していく方向に変わっているとのこと。チームで勉強しあいながら、若手の蔵人にも教えているといいます。
【しぼり・火入れ】
発酵が終わったもろみを搾って原酒と酒粕に分け、火入れ(加熱処理)します。お酒によっては火入れをせず、生酒のままで次の工程へ進むものもあります。
【貯蔵】
火入れされた原酒は、アルコール度数が18〜19度と、通常15度の製品と比べると、濃厚でボディの強い味わいです。それぞれに適した温度を保ちながら、貯蔵タンクで半年から1年ほど貯蔵されます。
【調合】
同じ原料で同じ作り方をしても、タンクによってお酒の表情や性格が違ってくるので、調合によって味を均一化します。機械化されている一方で、職人の研ぎ澄まされた五感が重要なのです。
【びん詰】
年間で、一升瓶換算で約280万本のお酒が瓶に詰められます。
機械で整然と行われるボトリングの本数は1時間に一升瓶換算で約4,000本!
検品作業は人の目で丁寧に行われています。製品となったお酒は、原酒に比べると落ち着いた味に。
日本酒の8割は水ということで、朝日酒造では約40年前から自然環境を守る活動に取り組んでいます。酒蔵の近くで見られる蛍の保護活動や、近隣のもみじ園の整備にも携わっているそうです。
エントランスは広いホールになっていて、自立型としては日本最大クラスのステンドグラスが飾ってあり、スタインウェイのピアノも。残響音の長い建物の構造を生かして、毎月第3土曜日には、サンドコンサートが開催されています。
素材やデザインにこだわりが詰まった創立者の住宅「松籟閣」
酒蔵の隣にある「松籟閣(しょうらいかく)」は昭和初期、朝日酒造の創立者・平澤與之助が建てた住宅で、国の重要文化財にも指定されている建物です。期間限定で、4月~11月の月曜、水曜、金曜、土曜に公開されています。
伝統的な日本家屋に、アールデコ様式の丸窓やステンドグラスなどの装飾を採り入れられた、おしゃれな建物。地域のシンボルでもあり、お客様が訪れた時に洗練されたイメージを受け取ってもらえるような存在だったようです。
廊下が欅の一本板だったり、床柱にヤシの木、和室に唐木三大銘木のひとつ鉄刀木(タガヤサン)が使われたりしているなど、随所にこだわりが感じられます。また、ドイツから取り寄せたブランド壁紙、大正時代の窓など貴重な素材を見ることもできます。
扉にモザイクタイルが埋め込まれていたり、床板の節を生かした模様がデザインされていたり、細部の装飾が美しく、一つひとつじっくり見ていると、あっという間に時間が過ぎてしまいます。秋は庭の紅葉もきれいですし、こちらの見学だけでも訪れる価値があると思いました。
開館日:4月~11月 月曜、水曜、金曜、土曜(祝日の場合は閉館)
開館時間:11:00~15:00
入館料:無料(施設の貸し出しについては要相談)
※施設の貸し出しや維持管理、悪天候等により、休館の場合があります
※ゴールデンウィーク期間中及びもみじ祭り期間中(10月下旬~11月中旬)の土曜、日曜、祝日は、見学ガイド付きの特別開館
公式サイト:https://www.asahi-shuzo.co.jp/visit/shouraikaku/
朝日酒造の酒蔵見学は、単に酒造りの工程を見学するだけでなく、地元の自然や歴史的建造物に触れることもできて、さまざまな楽しみがあります。お酒に興味がある人はもちろん、新潟方面へ旅行しようかなと思っている人にもおすすめです。
お酒と食事の楽しめるレストランやお土産の買い物ができるショップについては、こちらの記事で紹介しています。
[Photos by nakasa]
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