駅弁のエキスパートでもある人気鉄道写真家・櫻井寛さん
駅弁に興味を持ったのは、子どもの頃です。僕の子どもの頃はまだ、終戦後の貧しさが残っている時代。弁当といえば、せいぜいおにぎりが一般的で、両親と列車に乗ると、やはり、おにぎりがいいところだったんです。
ところが、祖父母と旅に行くと、駅弁を買ってもらえた。その中には、もう、ごちそうばかり。今ではごちそうとはいえないのですが、ごはんの上に梅干しがのっている、ゴマがかけてある、それだけで僕は嬉しかったです。
卵焼きとか魚焼きとかまぼこなんか、普段は食べられないごちそうだったんです。
鉄道に乗ると、駅弁がある、ごちそうがある、それで鉄道好きになったんですね。そこが原点です。
おいしい駅弁を探すコツ
おいしい駅弁を探すコツは、パッケージに作り手の思いがこもっているか。コンビニ弁当と違ってパッケージでお弁当への愛があるかどうかがわかります。パッケージが魅力的であれば、まず、中身もおいしいとみていいでしょう。また、古いパッケージのまま変わらないのは、ずっと愛されてきた証拠。高崎の「鶏めし弁当」や横川の「峠の釜めし」は、自分でもツートップのベスト駅弁です。子ども時代から今も変わらない歴史ある駅弁は、おすすめ駅弁殿堂入りですね。
駅弁を選ぶときに見逃せないのが、駅弁のマークがついているか。マークがないのは、単なる駅で売っているお弁当です。国鉄時代からの老舗の証で、駅弁と名乗ることを許可されたというお墨付きの意味がこめられています。
時代とともに特急は窓が開かなくなり、ホームの立ち売りがなくなり、今は、車内販売すらなくなってきています。昔ながらの売り方がもうできなくて、コンビニ弁当になってしまう。コンビニ弁当を食べて、何か残りますか。
駅弁の味やパッケージは、旅の思い出に直結しています。いまやなくなりつつある駅弁ですが、残していきたい文化ですね。
第1位「花の待つ駅かれい川」1,500円 森の弁当やまだ屋|鹿児島県霧島市JR嘉例川駅
駅の周辺に次々と咲いていく花をイメージした九州駅弁グランプリ獲得
嘉例川駅 は、1903年に営業を開始。築100年以上のレトロな木造駅舎は登録有形文化財に登録されています。この駅で人気なのが、JR九州主催の「第14回 九州駅弁グランプリ」 で、2年連続グランプリに輝いた「花の待つ駅かれい川」。
九州各県の駅や観光列車内で販売されている45点がエントリーしたなか、購入者投票1927票から選ばれた九州一の駅弁です。
私も参加した審査の項目は、「味」「こだわり・郷土感」「盛り付け」「パッケージ」「価格」。
地元で採れた黒米と粟を炊き込み、霧島産の生姜の佃煮をのせたご飯。鹿児島特産の紅さつまを使用した天ぷら、ガネ。鹿児島弁で蟹のことをガネと呼びますが、揚げた形が蟹に似ているためこの名で呼ばれています。
昔懐かしいお母さんの甘い卵焼きや酢ごぼう、里芋と梅の果肉を使った郷土料理、里の味。中に野菜を混ぜ込み、 嘉例川の香り高い原木椎茸と一緒に煮付けた鹿児島のさつま赤鶏。
地魚のすり身のつけ揚げ、シナモンの香りのする「けせんの葉」でさつま芋と紫芋の団子をはさみ、蒸しあげた「けせん団子」など地元の美味が、竹皮製の弁当箱に詰まっています。
製造元の「森の弁当やまだ屋」の女将、山田まゆみさんが、嘉例川駅の周辺に河津桜から次々と咲いていく花をイメージし、同駅を訪れる皆様を花でおもてなししたいという気持ちを込めて作られた駅弁です。
鹿児島県霧島市隼人町嘉例川
第2位「あなごめし」2,700円 あなごめしうえの|広島県廿日市市JR宮島口駅
漁師から届く鮮度の高い希少な「金あなご」を秘伝のタレで
創業明治34年の「あなごめしうえの」が100年以上守り続ける伝統の味。究極の駅弁です。瀬戸内海のあなごのなかでも、100匹のうちの数匹しかいない「金あなご」を使っています。しかも、市場ではなくて漁師さんから直接届けられる鮮度の高いもの。
明治時代に創業してから受け継がれてきた秘伝のタレは、あなごのエキスでいっぱいです。あなごの蒲焼の旨味を味飯が吸い取り深みがでます。
見た目も美しく、蒲焼をとてもていねいに並べてある。できたてのお弁当は格別の味わいですが、冷めてもいっそうおいしいのがこの「あなごめし弁当」です。
広島県廿日市市宮島口1丁目3−23
第3位「海苔のりべん」1,200円 福豆屋|福島県郡山市JR郡山駅
「マツコの知らない世界」で一番人気のおふくろの味
JR東日本が毎年開催している「駅弁味の陣」で2018年の駅弁大将軍(グランプリ)を受賞した駅弁。製造している「福豆屋」の女将さんが、自分の子どもに食べさせたいと思って作ったお袋の味です。
まず、ご飯がふっくらしていて甘味があり、とにかくおいしい。蕎麦ダレで炒ったおかかとゴマがのっています。
おかずは、玉子焼き、焼鮭、煮物、かまぼこ。ご飯、海苔、昆布佃煮が2段になっています。だし巻き卵や焼き鮭が目にも麗しく並び、私の出演した「マツコの知らない世界」で駅弁を特集したときにも一番人気でした。
福島県郡山市
第4位「元気甲斐」1,800円 丸政|山梨県北杜市JR小淵沢駅
上段は京都の「菊乃井」、下段は東京の「吉左右」が作る豪華版
元祖グルメ駅弁で、発売当時は値段も高いことで有名でしたが、いまは、ほかの駅弁も高くなっているのでリーズナブルに感じます。テレビ番組「探検レストラン」で各界のプロの舌と知恵の結集として完成した駅弁です。
東京と京都の老舗が一品ずつすべて手作りで作っています。上段は京都の「菊乃井」、下段は東京の「吉左右」が担当。中央本線ですから、西と東の文化を一度に味わえるんですね。昔ながらの経木折詰の二段重ねの弁当箱もレトロで趣があります。一の重は、胡桃御飯、蓮根の金平、山女の甲州煮、栗としめじのおこわ(銀杏・蓮根入り)など、二の重には、鶏の柚子味噌あえ、わかさぎの南蛮漬けなどが詰められています。
山梨県北杜市小淵沢町
第5位「瀬戸の押し寿司」1,540円 二葉|愛媛県今治市JR今治駅
来島海峡で育つ天然真鯛の透き通った白身が美しい押し寿司
これも美しい駅弁ですね。日本三大急潮の一つである来島海峡で育つ天然真鯛を使っているので、極めておいしい。容器に笹の葉を1枚敷き、白い酢飯を詰めて大葉をのせ、鯛の身で一面を覆う。鯛の白身の下に敷かれた大葉が透き通って見えるのがアーティスティック。
さらにその下のご飯も透き通って見えるんです。鯛の身がそれほど透き通っているんですね。もはや、芸術です。押寿司弁当のなかでも、もっとも美しい駅弁ではないでしょうか。
愛媛県今治市中日吉町1丁目1
第6位「津軽めんこい懐石弁当 ひと口だらけ」1,350円 つがる惣菜|青森県青森市JR新青森駅
24種類もの青森のご馳走が詰まった欲張り弁当
普通、駅弁の容器は多くても9分割ですが、この弁当は24分割もされており、青森のおいしいものがすべて詰められています。日本随一の手間がかけられた駅弁ですね。
津軽地方の郷土料理、名産を中心に青森県の味をひとくちずつ24種類集めた、欲ばりな弁当。ご飯は青森名物のほたてを使った「ほたて飯」、味付けご飯「しじみご飯」など4種類。赤い酢飯を詰めた津軽名物のいなり寿司、もち米を蒸して作られる「すしこ」や「紅鮭寿司」。
生姜味噌おでんや牛バラ焼き、黒石焼きそばをはじめとしたB級系ご当地グルメも満載。青森県名物のホタテは、バター焼き、ほたて煮ほか、いろいろなバージョンで楽しめます。
黒い弁当箱にしているのは、できるだけ外から見えないようにして、開けたときのサプライズ感を演出したいからだそうです。
現在は、弘前駅や東京駅の「駅弁屋祭 グランスタ東京」での取り扱いもあります。
青森県青森市石江高間140−2
第7位「松阪でアッツアツ牛めしに出会う!!」1700円 新竹商店|三重県松阪市JR松阪駅
弁当箱についているひもを引くと熱々になる松阪の厳選黒毛和牛
最後に入れておきたいのが、僕がプロデュースに参加した駅弁。創業開始以来115年に、「115周年企画」として、双葉社『漫画アクション』の人気連載「駅弁ひとり旅」とのコラボレーション企画で誕生。 パッケージには 漫画家はやせ淳さんが描いた「駅弁ひとり旅」の主役「中原大介くん」の顔のイラスト、熱々の湯気の写真は監修者の僕が担当。
メイン具材は国産黒毛和牛。松阪中町の老舗精肉店「丸中本店」の厳選素材。肉質は、A-4とA-5に限定してあります。旨みの抜群のロース肉をガーリック味で豪快さを演出。 黒毛和牛のおいしさを引き出すために「加熱容器」を使い、弁当箱に付いているヒモを引くと熱々になるんです。何度も試食を重ねて、何種類もあるなかで選んだ逸品です。
三重県松阪市京町 301
櫻井さんの駅弁への思い入れは深く、未来に残していきたい文化としてプロデュースなど尽力されています。さまざまに趣向を凝らした駅弁もブームになっている今、鉄道ファンならずとも楽しめる、グルメな駅弁を探す旅に出てみませんか。