東京・池袋に佇む「自由学園明日館」
池袋駅から徒歩5分ほど。昔ながらの街並みが残る静かな住宅街の中に、「自由学園明日館(みょうにちかん)」はあります。
設計したのは、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエと並び「近代建築の3大巨匠」とも称されるフランク・ロイド・ライト。
当時、旧帝国ホテル設計のために来日していたライト。その設計助手を務めていた建築家・遠藤新は、自由学園の創立者である羽仁もと子・吉一夫妻の友人であり、彼を通して設計が依頼されたそうです。
1921年の1月にライトと羽仁夫妻が初めて会い、2月に設計案が確定、まもなく4月には開校という、かなりのハイスピードで進められた自由学園の建設作業。
実際に開校の時点ではまだまだ未完成で、壁には漆喰が塗られていないような状態でした。さらには13時からの開校式に向けて、12時ぎりぎりに教室に残った足場を外した、なんてエピソードも残っています。
近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトが手掛けた美麗な姿
「プレイリースタイル」の外観
ガラス窓の美しいホールが目を引く中央棟から、左右対称に東西教室棟が伸び、コの字型に前庭を囲むような設計。緑青葺きの緑の屋根とクリーム色の漆喰が、非常に鮮やかです!
建物の高さを抑えて横に広がる、水平のラインを強調した建築美は、ライトの特徴である「プレイリースタイル」が顕著に表れています。
アメリカの広い土地と調和することで評価を高めたプレイリースタイル。大正の世にはまだ郊外であった池袋にあって、のどかな田園風景をバックにした明日館も、今とは違った見え方をしていたのかもしれません。
敷石には「大谷石」が使われており、同じく大谷石がふんだんに使用されていた旧帝国ホテルとの関係性も伺えます。案内いただいた方曰く、ドアノブの位置が少々高めなのも、ホテルの客室設計に影響されているのでは? とのこと。興味深いです。
前庭からゆるやかに導かれて屋内へ
明日館の4つの玄関は、すべて天井が軒下と同じ高さで、廊下まで大谷石が続いた造り。屋外と屋内の境界はゆるやかで、流れるような空間設計になっています。
デザイナーとしても卓越していたライト。モダニズムを感じさせる幾何学模様の意匠が随所に見られ、秀逸です。
自由学園の顔・ホールの美しさに感動!
幾何学模様の窓から光が差し込む
廊下を抜け、明日館の顔であるホールへ到着。
天井まで伸びた大きな窓から光が降り注ぎ、開放感ある室内を明るく照らします。なんとも美麗で、本当に画になる空間です!
木製の窓枠と桟で形作られた幾何学模様が美しいですが、このような装飾が用いられたのは、ステンドグラスを使わずに建築費を抑える意図もあったのだそう。
ライトの手によって、窓だけでなく建物全体に同様の意匠が配されたことで、洗練された統一感ある内装に。明日館ならではの魅力となっているんです。
天井の低い玄関周りや通路を通った先で吹き抜けのホールに繋がる導線も、視覚効果が計算されたもの。狭い空間から広い空間へ出るという対比によって、ホール内は面積以上に広く、大きく感じられました。
建築と調和する家具
建物と調和する家具にも注目です。こちらの椅子も、明日館にあわせてライトもしくは遠藤新が設計したものなんです。
暗くシックな色合いの木材でできた椅子は、6角形の背もたれに、シアン・マゼンタのシート部分がとってもポップ。
椅子としては、かなり背は小さめ。ですがこの椅子に座った状態だと、ちょうど目線と同じ高さに外の風景が! ライトは家具も建築の一部と考え、デザインや機能の合致を重視していたそうです。
戦前の貴重なフレスコ画も見どころ
ホールの窓に向かって右手には、1931年、創立10周年を記念して描かれたフレスコ画が。
旧約聖書の「出エジプト記」を題材にしていたこともあり、戦時中は漆喰で上塗りに。その後1997年に行われた工事で発見され、修復作業の後、今の姿を取り戻したのだそうです。
実際に火が入る暖炉も
窓と反対側には、立派な石造りの暖炉もあります。家庭的な学校を目指した羽仁夫妻の意向もあり、明日館の中には4つの暖炉が備え付けられているんです。
中でもこちらは冬季の夜間見学時には実際に火が入れられ、今なおホールに集う人々を暖かに照らし続けていますよ。
喫茶利用も楽しめる食堂へ
レトロとスタイリッシュが共存する空間
ホールから出て階段を上がると、食堂として使用されていたフロアへ。
天井や壁に施された縁取りが、立体感を演出。レトロな魅力と同時に、現代的・スタイリッシュな印象も受けます。
中でも存在感を放つ照明は、100年以上前のデザインとは思えません!
こちらの照明には、工事を視察した際に、天井の空間が広すぎると感じたライトが、たった一晩でデザインして急遽付け足した、なんて逸話も残っています。
学校のスタンダードといえばお弁当だった時代、食堂が校舎の中心に据えられているのは珍しい設計。当時は階下に厨房があり、生徒たち自らが昼食を作っていました。
開校当初の食堂の写真を見せていただくと、全校生徒が集まりお昼を食べていた様子がわかりますね。
また、写真内では壁の全面が窓になっています。実は生徒の増加に伴い、バルコニーだったところまで小部屋が増築されて今の姿になったのだとか。
立体感ある造りも素敵ですが、全面窓のパノラマも見てみたかったです!
当時に思いを馳せるカフェタイム
喫茶付き見学(価格:800円 ※建物の見学のみの場合は500円)の場合は、食堂内でコーヒーもしくは紅茶と、日替わりのお茶菓子をいただけます。
食堂内のテーブルや椅子は、学校時代からのデザインをそのまま踏襲したもの。明日館で過ごした女学生たちの生活を思い浮かべながら、カフェタイムを満喫できますよ。
筆者がいただいたお茶菓子はクッキー。こちらは「自由学園食事研究グループ」の手作りなんです。サクッと軽い口当たりのほっとする甘さで、シンプルながらもどこか洗練された味わいでした!
F.L.ライト・ミュージアム
食堂から数段の階段を上がると、ホールの吹き抜けに面したフロアへ繋がっています。上からの眺めも素敵でした……!
こちらはフランク・ロイド・ライトの生涯や、明日館の建築や歴史についての資料が展示される小さなミュージアムになっています。
企画展示は時折変更されているとのこと。筆者訪問時には「F.L.ライトと大谷石」として、大谷石に関する情報と、ライトが建築に用いた経緯、帝国ホテルと明日館の用い方の違いなどが解説されていました。
遠藤新設計の講堂も必見
本館から道路を挟んで南側には、1927(昭和2)年に完成した講堂があります。こちらはライトではなく遠藤新による設計ですが、本館と同じく重要文化財に指定されていますよ。
大谷石の用いられた柱やクリーム色の漆喰、幾何学模様の意匠がほどこされた窓など、本館と同様の美麗な建築となっています。
最大で300人弱が着席可能という講堂。整然と並んだ長椅子には窓からの木漏れ日が落ち、レトロでシックな魅力を一層際立てていました。
2階部分にも上がることができ、こちらはバルコニーからの眺め。西武グループの本社ビルやサンシャイン60、メトロポリタンホテルなどの高層ビルが見えます。
タイムスリップ気分でしばしの間忘れていましたが、ここが池袋駅からほど近い、都会の真ん中であることを思い出しました。
お土産も充実!「JMショップ」
明日館の敷地に併設される「JMショップ」も立ち寄りたい場所。こちらでは、工芸品や児童向けのおもちゃ、雑貨や文房具などのお土産を購入できますよ。
店内に並ぶのは、ヨーロッパへ渡った自由学園の卒業生たちによって1932年に創立した「自由学園生活工芸研究所」が手がける品々。
カラフルなパスケース(1,375円)やポーチ(1,650円)に用いられるストライプ柄は、工芸研究所創立以来の伝統あるデザインなのだそう。時代の隔たりを感じさせないポップさです。
店内の一角には、明日館に施された意匠をモチーフにしたクリアファイル(330円)などのグッズもありました。
中にはミニチュアサイズの椅子まで! (六角椅子:5,940円/食堂椅子:3,960円) でも確かに、手元に置きたくなるような秀逸なデザインですよね。
日本初の「動態保存」について聞く
1934年には生徒数の増加に伴い、東久留米市へ移転した自由学園。その後明日館は、主に卒業生などによって利用されてきました。
幸いにも関東大震災や第二次大戦の空襲の被害を受けることなく、竣工当時に近い姿で保たれていた明日館。しかし老朽化や雨漏りが目立つようになり、再開発が進む池袋にあって土地利用案なども浮上し、一時は取り壊しの危機に瀕していました。
長い議論の末、重要文化財の指定を受け、建物を保存する方針が決定しました。その決め手は、「動態保存」という建物を使いながら保存する方式が設定されたことでした。
明日館は「動態保存」が日本で初めて認められ、今も多くの人々を迎えながら、建物を活用しています。
1997年に重要文化財に指定、保存修理工事が完了した2001年から、現在のような動態保存を展開。見学を受け入れるだけではなく、各部屋や講堂を貸し出しての活用も行われています。
結婚式場や、講演会・コンサート会場としての利用をはじめ、テレビや雑誌・MVのロケ地から、中にはファッションショーまで開催されたとのことで驚きでした!
自由学園 明日館で建築美を満喫
見学のスケジュールをチェック
通常の見学時間は、10:00~16:00(15:30までの入館)。その間は自由に館内を見て回ることができます。
また、14時からは建物をツアーで案内してもらえる建物解説も実施中。竣工当時の貴重な写真も交えながら、明日館について深く知ることができますよ!
見学に並行して各部屋の貸し出しも実施されていますので、状況によっては、喫茶サービスの休止や、講堂ほか見学できない部屋があったり、見学全体が不可能な日程・時間も。詳細なスケジュールに関しては、公式サイトの見学カレンダーに記載されていますので、事前にご確認ください。
特別な見学日やイベントの開催も
月1回、指定の休日には、10:00~17:00(16:30までの入館)に全館を見学可能となる「休日見学日」も設けられていますので、くまなく見たい! という方にはこちらがおすすめ。
2024年度の休日見学日の開催予定は、以下のようになっています。
※変更する場合があります。直前にご確認ください。
また、毎月の第3金曜日には、18:00から21:00(20:30までの入館)で明日館を訪れることができる「夜間見学」も実施。
日中の見学が難しい方に向けてはもちろん、喫茶室では月替わりのテーマに沿ったお酒も楽しむことができますよ(お酒付き夜間見学:1,200円)。
さらに、夜間見学限定でイベントが開催されることも! お伺いしたところ、直近では8月にビアテラスの開催が予定されているとのことです。
美麗な建築をぜひ訪れてみて!
近代建築の巨匠が手がけた美麗な建築を見学することができる「自由学園 明日館」。歴史が感じられながらも現代に通じるような洗練されたデザインで、どこを切り取っても画になる空間でした!
大切に保存される文化財ですので、訪れる際には、スケジュールとあわせて見学時の注意事項もご確認くださいね!
所在地:東京都豊島区西池袋2-31-3
電話番号:03-3971-7535
休館日:毎週月曜(月曜が祝日または振替休日の場合はその翌日)、年末年始 ※不定休あり
見学料:建物見学のみ:500円/喫茶付き見学:800円/夜間見学・お酒付き:1,200円 ※中学生以下無料
公式サイト:https://jiyu.jp/
[Photos by ぶんめい]
※価格はすべて税込です
※時期により商品の仕様や品揃え、価格が変わる可能性がありますので、ご注意ください。
※見学実施のスケジュールについては最新情報をご確認ください。