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メキシコ国境犯罪多発地区が、食と文化とエコロジーの発信地へ生まれ変わる

ライター: Miho Nagaya
更新日: Jan 16th, 2017


国境都市ティファナのグルメムーヴメント「バハメッド」を巻き込んだ挑戦


メキシコ国境犯罪多発地区が、食と文化とエコロジーの発信地へ生まれ変わる
ティファナとサンディエゴの海の境界線 © Miho Nagaya


アメリカメキシコの国境にある都市、バハカリフォルニア州ティファナは、アメリカのサンディエゴから車で20分ほどの立地から、アメリカへ旅行した観光客が、そのついでにメキシコを楽しむ町として知られています。

しかし、元々は砂漠だったところに建立された都市で、メキシコの他の都市と比べたら歴史も浅いため、観光地としてはイマイチな場所でした。そこへ2009年からの麻薬組織抗争がティファナで激化したこともあり、町には観光客がほとんど訪れない状態になったのです(2011年ごろまで危険な状態でしたが、現在はかなり落ち着いています)。かつて栄えていたメキシコ雑貨を扱うお土産物屋街もすっかり寂れる一方でした。

そんなとき、2010年ごろから地元食材を使った、コンテンポラリーなメキシコ料理のムーブメントが、ティファナを中心としたバハカリフォルニア州で起こりはじめました。

バハカリフォルニア州は豊かな自然があり、酪農、ワインやビールの食産業もさかんです。漁業では、日本へ輸出されるマグロのほとんどが同州産なのです。そんな新鮮な地元の素材を使ったティファナ発の革新的メキシコ料理が、「バハメッド(バハカリフォルニア+地中海料理の造語)」と呼ばれて、注目を集めています。
ティファナでは数年前まで、オシャレなレストランやバーはほとんどなかったのですが、ここ3年ほどでバハメッドの素敵なレストランやバーが増えてきました。この流れは、町の雰囲気を大きく変えるものとなっています。

バハメッドを象徴する場所が、食の屋台市場フードガーデンです。ビーガン向け料理、スイーツ、シーフードタコス、地ビールを飲める店など、地元の食材を使った新感覚の店が軒を連ねます。

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バハメッドを代表する食の屋台市場、フードガーデン © Miho Nagaya


そのなかで、ひと際目を引くのが、「Picuditas(ピクディータス)」の屋台です。

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ピクディータスの屋台。ポップで可愛い外観に目を奪われます © Miho Nagaya

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サンドイッチでもタコスでもないピクディータスは、具沢山でボリュームたっぷり © Miho Nagaya

このピクディータス、一見タコスやサンドイッチに見えますが、ベースとなっているパンはトルティージャに使うトウモロコシの粉、小麦のほか、プロテインが豊富な穀物を使ったオリジナルのもの。そこに肉(もしくはシーフード)、野菜などをサンドします。肉類を使わないベジタリアン向けのメニューもあります。1つのピクディータスには、1食あたりに必要なビタミンや栄養素をバランス良く含んでいるのです。パンは香ばしく、具は新鮮な地元の素材を使っているので、シンプルでも本当に美味しい!

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豊富なサルサには、マンゴとチレ(トウガラシ)、キュウリとチレハバネロ、ピーナッツとゴマとチレといった一風変わったものがあります。どれも絶品 © Miho Nagaya


実はこのピクディータスは、スナック菓子や清涼飲料水、ファーストフードといった食事を摂るようになって、肥満や糖尿病患者数が世界でトップクラスとなってしまったメキシコ人の食生活へ警鐘するアートなのです。「健康、美味、新鮮、ローカル」をテーマに、地元の素材を使い、健康も配慮し、メキシコ人に馴染み深いタコスのような、気軽に食べられるものとして開発されました。

ピクディータスを生んだのは、メキシコの現代アーティスト・建築家ラウル・カルデナスが率いる、ティファナの現代アートコレクティヴ、Torolab(トロラブ)。
社会活動や環境問題を視野に入れたアート表現を行い、ニューヨーク近代美術館でも作品が展示される組織として、内外から注目されています。


町で最も危険だった地区にコミュニティセンターを設立


トロラブが行う重要な活動が、ティファナで最も犯罪率が高く、ギャングが拠点とし、ドラックの売買問題も深刻だった地区カミノベルデにおける教育と持続可能性をテーマにしたプロジェクト、『Granja Transfronteriza (グランハ・トランスフロンテリサ=越境する農園)』です。
このプロジェクトでは、メキシコ政府社会開発省の支援により、2013年に職業訓練校も兼ねたセンター、ラ・グランハを設立しました。

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1年前に完成したコミュニティセンター、ラ・グランハ。センターの電力には太陽光発電を利用しています © Miho Nagaya


ラ・グランハでは、アメリカのハーバード大学を含む海外の教育科学研究機関と提携し、エコシステムを利用した農園、植物園造りを始めています。農園にはもちろん、コンポストを使っています。

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耕された土地とこれから植えられる植物。数年後には緑豊かな空間に生まれ変わるのでしょう © Miho Nagaya


同地区では、元はゴミ捨て場のように荒れていた土地を清掃しただけで、治安に変化が訪れたそうです。
緑が増えたら、もっと雰囲気も良くなるでしょうね。

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ダンス、演劇、音楽講座などワークショップが行われる部屋があります © Miho Nagaya


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地元の少女は、毎週バハカリフォルニア州交響楽団の児童部でレッスンを受けている© Miho Nagaya


センターでは、バハカリフォルニア州交響楽団の支援により、子どもたちに楽器を貸して指導を行う活動も行われています。
子どもたちが望めば、将来的にバハカリフォルニア州交響楽団に所属することも可能なのです。

施設内を案内してくれた、地元の主婦アルマさんは、こう語ってくれました。
「センターの建立された場所は、元は子どもたちのためのスポーツ施設だった。しかし、地元の管理が行き届かなかったことから、ギャングたちがドラッグを売る場所になっていたの。でもラ・グランハが建設されたことで、この場所に子どもたちの姿が戻って来た。子どもたちの笑顔が増えたの」

また、海外や地方からプロジェクトに参加する人たちのための宿泊施設も備えています。
すでに色んな国から、このプロジェクトに興味を持ったひとたちが訪れています。

センターでは、毎週地元の人々との話し合いが行われ、トロラブの事務所もこの建物内にあります。

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この日は、カミノベルデ発信のコミュニティ向けのラジオ番組を作るための会議がトロラブのメンバーと住人たちの間で行われた © Miho Nagaya

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業務用厨房機器を備えた調理室 © Miho Nagaya


将来的には、農園で育てた野菜や果物でサルサやジャムを作り、その食品を売る店舗を備える予定。そのレシピにも地元のシェフが指導にあたります。センター内に工房と店を持つことで、地域の人たちが働ける場所になることを目指しています。


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グランハの設計図。この地区になかった中学校も敷地内に建設予定。かなり大きなプロジェクト © Miho Nagaya

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トロラブのメンバーとカミノベルデの住人たち © Miho Nagaya


地区の住人たちによれば、かつては隣人と話すこともなかったそうですが、このセンター設立で交流の機会が増えたと語っています。
地産地消、環境問題、教育、コミュニティの活性化を目指すプロジェクトの発展が、メキシコ全体に影響を与える日も近いでしょう。


[取材協力:Torolab]
[写真提供:Secretaria de Turismo Bajacalifornia ]
[Special Thanks: Ejival y Nororu ]

Miho Nagaya

長屋美保 ライター
メキシコシティの路地裏から見た生のラテン文化や社会を追い続けるフリーライター兼なんでも屋。雑誌、WEB、ラテン圏アーティストのCD解説、映画、コンサートのパンフレットなど、メキシコを中心としたラテンアメリカの記事を日本の媒体に執筆するほか、リサーチやスペイン語⇔日本語翻訳も行う。情報サイトAll Aboutのメキシコ公式ガイドでもある。

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