観光立国化を目指す近年、年間の外国人観光客受入数の最高記録を更新し続けている日本。しかし、実際にはまだまだ観光大国とはいえない課題があります。
「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」から、外国人観光客が日本で最も困っていることをご紹介しましょう。
外国人観光客が訪日旅行中に困ったこと
総務省と観光庁が発表した「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」(平成28年度版)によると、外国人観光客が訪日旅行中に困ったことは以下の通りでした。
第1位「無料公衆無線LAN(無料Wifi)環境」(46.6%)
第2位「施設等のスタッフとコミュニケーションがとれない(英語が通じない等)」(35.7%)
第3位「多言語表示(観光案内板等)」(20.2%)
第4位「多言語地図、パンフレットの入手場所が少ない」(18.8%)
第5位「割引チケット、企画乗車券の情報の入手」(14.9%)
第6位「公共交通の利用方法(乗換方法を含む)」(14.8%)
日本はWifi後進国
外国人観光客が日本で困ったことのうち、突出しているのが無料Wifi環境の不足。世界的に見ると、日本は超がつくほどの無料Wifi後進国です。外国人は、「日本はテクノロジーの発達した国」というイメージを持っているので、日本に無料Wifiが普及していない現状を知って驚きます。
世界の先進国や新興国の多くでは、旅行者が行くようなカフェやレストランには無料Wifiがあるのは当たり前。主要観光スポットや、電車やバスといった乗り物の中、駅、バス停などにも無料Wifiが備わっている国は珍しくありません。
無料Wifiが普及している国から来た外国人観光客が、「日本は無料Wifiが少なくて困る」と感じるのはしごく当然なのです。
外国人観光客が訪日旅行で感じる言葉の壁
近年、日本でも都市部や観光地を中心に英語表記が増えてきていると感じますが、外国人観光客から見ればまだまだ言葉の壁は厚いようです。
レストランに行っても外国語のメニューがなかったり、英語の話せるスタッフがほとんどいなかったりして困るという声や、駅員に目的地までの行き方を訪ねようとしたら「英語が話せない」と、そっけない態度を取られたという体験談が寄せられています。
日本人一人ひとりが、もっと英語をはじめとする外国語が話せるようになるのがベストですが、それは一朝一夕で実現できることではありません。しかし、レストランやカフェで英語メニューを用意する、外国人向けのガイドや注意書きを用意するといったことは比較的容易にできるはずです。
まずは、今すぐできることから一つひとつ外国人観光客の受け入れ体制を改善していくことが大切ではないでしょうか。
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訪日旅行全体の満足度は高い
ここまで、外国人観光客が日本で困っていることを見てきましたが、実は訪日旅行全体の満足度は非常に高いといえます。観光庁が発表した「訪日外国人の消費動向」(平成28年7-9 期)によると、訪日旅行全体の満足度は、「大変満足」が49.7%、「満足」が43.4%にのぼることが明らかになりました。国籍・地域別に見ると、フィリピンや英国、フランス、ロシア、米国、オーストラリアからの旅行者の8割以上が「大変満足」と回答しています。
「日本にまた来たいか」という質問には、58.4%が「必ず来たい」、35.2%が「来たい」と答えています。つまり、日本を訪れた外国人観光客の9割以上が日本旅行に満足し、できればまた日本に来たいと思っているのです。
そう簡単には変わらない、日本の食事や文化、観光地・景勝地などに対する満足度が高いことは大きな強みといえるでしょう。観光大国を目指す日本の課題ははっきりしていて、しかもそれらは無料Wifiや多言語表示といった、対処が比較的容易な課題が中心なのです。
簡単な英単語でも「おもてなし」は可能
無料Wifiや多言語表示は短期間で整備できたとしても、やはり対面でのコミュニケーションには課題が残ります。しかし、外国人観光客を助けるために、必ずしも流暢な英語を話せる必要はないのです。
外国人観光客が日本で困っている場面として多いのが、道に迷った、あるいは目的地までの行き方(どの電車に乗ればいいのか、どこで乗り換えればいいのかなど)がわからないというケース。それならば、ごく簡単な英単語だけで意思疎通が可能です。「ちゃんとした英語の文章を作らなければ」と気負う必要はまったくありません。
そもそも非英語圏から来た外国人観光客のなかには英語が苦手な人もいるので、単純な英単語を使って話してくれたほうがわかりやすいという人もいます。
外国人観光客を気遣う気持ちを行動で示そう
筆者は日本で困っていそうな外国人を見かけたら、できるだけ声をかけるようにしていますが、たいていは声をかけたことに対して驚くほど喜んでくれます。
あるとき、日本で困っている外国人に声をかけたら「日本人は全然助けてくれなくて、冷たい」と言われたことがありました。自身が日本人である筆者ならば、「ありがた迷惑かもしれない」「自分は英語が苦手だから」と声をかけるのをためらってしまう日本人が多いのだろうとわかりますが、外国人観光客にはそんな日本人の心の内はわかりません。声をかけるという行動を起こさない限り、彼らを気にかけていることは伝わらないのです。
たとえ英語でスムーズに意思疎通ができなかったとしても、「日本の人は快く助けてくれる」という安心感があるだけで、日本や日本人を一気に身近に感じてもらえるはずです。外国語ができなくても翻訳アプリがありますし、もし時間があれば目的地まで、あるいは途中まで一緒に行ってあげることもできます。
本当に大切なのは、英語がうまく話せるかどうかではなく、「力になりたい」という気持ちを行動で示せることなのです。外国人観光客の満足度向上は、政府や観光業に携わる人たちだけの仕事ではなく、私たち一人ひとりが貢献できる課題なのではないでしょうか。
[総務省・観光庁「訪日外国人旅行者の国内における受入環境整備に関する現状調査」(平成28年度版)]
[観光庁「訪日外国人の消費動向」(平成28年7-9 期)]
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