同書の著者で、国際ボディランゲージ協会代表理事、イメージコンサルタントとして世界標準の装いや仕草に精通する、安積陽子氏へインタビュー。
連載 第3回 テーマ:日本の常識は世界の非常識?日本人を残念に見せる仕草とは
日本では礼儀正しいとされる仕草が、海外でも同じとは限りません。歴史や文化が国によって異なるように、尊重される仕草や立ち居振る舞いも異なります。時に、日本独特の文化や風習が、外国人に誤解を与えてしまうことも。日本から外に出たときに、私たちはどう振る舞えばよいのか、また、どのような仕草が自分をマイナスに見せてしまうのでしょうか?
以下のリスト、一つでもチェックがつく人は必読ですよー!
- 仕事で、外出張や外国人に対応する機会が多い
- 海外旅行が好き
- 風邪や花粉症の季節になると、鼻をすする回数が増える
- 相手の話を聞くときに、よく相槌を打つ
日本の満員電車で外国人が顔をしかめるワケ
「これについては、沢山あって困ってしまいますね(笑)。特に、これからの季節によくやってしまう例で言えば、鼻をすする仕草ですね。寒い季節や花粉症の季節になると、通勤電車などで、よくあちらこちらから『ズズズズズーッ』や『ズッズッ』と鼻をすする音が聞こえてきますが、それを不快に思われる外国の方は多いようです。鼻をすする仕草に対して、露骨に顔をしかめる外国人は結構いらっしゃいます。」
「地域や文化によっても対応が異なるのですが、欧米諸国などでは、鼻をすするよりも、ふんっとそのまま鼻をかんでしまうのが一般的です。イタリアの紳士の方なんかは、ポケットチーフでふんっと鼻をかんで、そのままポケットに(ポケットチーフを)入れてしまうくらいです(笑)。」
「もちろん、欧米人でも育った環境によって考え方は異なります。しかし、一般的に欧米人は、“一連の動き(仕草や動作)が、いかに洗練されているか”に重きを置く感覚があるようです。ですから、周囲にたくさんの人がいる中で、幾度も鼻をすするよりは、ポケットチーフやティッシュをすっと取り出して、さっと鼻をかんでしまう方が、動きをトータルで見たときにエレガント。そういった視点で捉えているのだと思います。日本では、こういった感覚は珍しいですよね。」
「郷に入っては郷に従え、という言葉がありますが、国外ではその土地の文化や風習にあわせて、臨機応変に振る舞うことが大切だと思います。」と、安積さんは訪れた先の地域文化や風習を知る必要性を伝える。
目は口ほどに物を言わない?!
「口に手を当てる仕草には、注意を払ったほうがいいですね。日本の方は、口に物が入っているときや上品に笑うときなど、口に手を当てることがありますが、欧米では、その感覚が理解されません。」
「例えば、口に食べ物が入っている状態で、日本の方が、相手への気遣いとして口に手を当てていたとしても、それは日本特有の感覚であり、欧米の方はそういった感覚を持ち合わせていません。ですので、(海外で)食事中に会話をする際は、口の中の物を噛んでから、口の中に何も入っていない状態でお話されるのが良いと思います。」
「日本では幼少期に、口を大っぴらに開けることははしたない、と教育された方もいると思います。日本の方は、上品な笑い方やマナーという観点から、口元を手で隠しますよね? しかし、欧米の方の中には、相手が臭い、または自分の口臭を隠すなど、臭いものをカバーする仕草として受けとめる人がいます。特にアメリカでは、そういった感覚の方は少なくありませんので、日本人が誤解される仕草のひとつに思います。欧米諸国では、笑顔のときは歯を見せていいですし、変に口元を隠す必要はないと思います。」
「そうですね。口に手を当てる仕草を“ついついやってしまう”という日本の方は多いと思いますので、まず、その辺りを自分で意識することから始めると良いのではないでしょうか。そして、海外では、むやみに口元に手を当てるのは避けて、嬉しいときは嬉しい、怒っているときは怒っている、我慢しているときは我慢していると、口元の表現をより分かりやすくしても良いと思います。
欧米の方々には“口元からその人の感情をより多く感じ取る”という傾向がありますので、そういったタイプの方に対しては、口元から自分の感情を表現したほうが、円滑なコミュニケーションに繋がると思います。」
「これは、一つの研究例ですが、日本人は相手とコミュニケーションをとる際、目を中心に相手の顔を見ているそうです。 日本では、口元よりも目から感情を表すような文化がありますよね?“目は心の窓”や“目は口ほどに物を言う”に代表されるように、目に関する慣用句がすごく多い。それは、おそらく、古の時代から日本の人々が、目で様々な感情を伝えるのが得意だったからなのだと思います。
ですが、日本人が口元の動きから何かを表現することは、目に比べると圧倒的に少ないと思います。この研究例からも、日本人は相手の口元を見ていない分、自分もあまり口元動かしていないという傾向があるとされています。日本の方は、口元を使って感情を表現するのが苦手なのかもしれません。これは、日本人女性のメイクアップの特徴からも読み解ける事だと思います。」
日本人女性のメイクの特徴から分かること
「日本人女性のメイクアップの特徴として、アイメイクにポイントを置いていることが挙げられます。何種類ものマスカラやツケまつ毛を使いこなし、流行とともに眉の形を研究し、アイプチで魅力的な目元を演出するなど、目元のメイクに時間とお金をかけていらっしゃいます。これは、日本人女性が、それだけ目というパーツに重きを置いている証だと思います。
しかし、逆に、口元については、時間をかけて丁寧に紅の縁をとったり、お金をかけてケアしたりする方は、思いのほか少ない。目元ほど、口元には視線や意識がいかないのかもしれませんね。」
SNS上の顔の絵文字、日本人とアメリカ人の認識の違いは読み解くパーツの違いにある
「そうですね。例えば、口元から感情を読み取るアメリカ人は、アイメイクよりも歯のホワイトニングを意識する方が多いです。あと、SNSなどの絵文字からも分かるように、同じ顔の絵文字でも、日本とアメリカでは受けとめ方が違います。これもやはり、顔のどのパーツを見て、相手の感情を理解しているかが関係していると思います。」
「個人差はありますが、傾向として、日本人が目から相手の気持ちを判断している一方で、アメリカ人は口で相手の気持ちを判断しています。例えば、目が泣いていて口が笑っていると、日本では、“心は泣いているのを堪えている”というように解釈される方もいらっしゃいます。しかし、欧米では、“口が笑っているならハッピーでしょ?”というように解釈されます。
魅力的なコミュニケーションを取る上では、誤解を生まないことも大切だと思いますので、極端に偏りのある方は、自分が普段あまり使っていない方のパーツをより豊かに使う事を心がけてみてはいかがでしょうか。」
>>>絵文字については、過去記事『海外でも人気のEMOJIは日本発祥!国や地域によって使い方が違う!?』でもご紹介しています。
礼節を重んじるあの振る舞いが、欧米では逆効果
「ありますね。日本人は、お辞儀をすごく大事にしますよね?外国の方でも、こういった日本の風習について、深い理解とまではいかなくても、把握している方も多くいらっしゃいます。ただ、海外では、あまりにもペコペコペコとお辞儀をすると、相手に迎合しているように思われてしまいます。ビジネスや外交の際は殊更、気をつけて頂きたい振る舞いです。」
「自分自身のカリスマ性を演出し、より威厳を醸し出したいときには、堂々と胸を張って、頭は真っ直ぐにしている方が、パワーや存在感が(相手に)伝わりやすい。」と安積さんは言う。
「そうですね。著書でもお伝えしていますが、外国人と握手を交わす際は、しっかりと相手の目を見て、名前を呼んだり、挨拶をしたりして握手を交わすのが基本です。このときに日本の方は、お辞儀も一緒にしてしまう事がありますが、これは、自信の無さや、不自然な形で相手に迎合しているように見えてしまいます。“自分を謙遜し過ぎている”というメッセージにも繋がってしまうので、国外ではぜひ、意識して頂きたい振る舞いです。また、会話の中での度重なる“頷き”も、お辞儀と同じくらいに誤解を受けやすい仕草ですので、過度な頷きや相槌も極力避けたほうが良いでしょう。」
「例えば、パーティーなどの歓談中に、日本の方が相手の話に対して、オーバーに頷いたり相槌を打ったりする様子を見て、“首振り人形”と揶揄する人もいます。さらに、日本人にとっては『あなたの話をちゃんと聞いています』というつもりの“頷き”や“相槌”が、『あなたの言っていることは正しいと思います、同意します』というサインに見なされてしまうこともあります。」
仕草の誤解が生む、国際恋愛トラブル
「そうなのです。この“頷く”という仕草は、時として、男女間のコミュニケーションにおいても、誤解を招く可能性があります。欧米の男性は、頷きを“合意”と捉える傾向があります。女性側が会話の中での単なる相槌と思っていても、相手が欧米の男性だった場合、『合意を得た』と誤った解釈をされてしまうことがあります。日本の女性が自分の身を守るという点でも、海外では注意を払うべき仕草と言えます。」
「“Indeed”とか “Really”、 “Right.” “Uh-huh.” とか、頷く代わりに言葉で示すのも一つの方法です。 特に、(ビジネスや外交において)上の立場の方や、リーダーシップをとる立場にある方は、海外では不用意に頷いたりお辞儀をしたりしないように、ある程度意識する必要があると思います。また、おへそや股間などの体の前で手を組むといった仕草も、控えるのが望ましいですね。」
日本特有の謙虚な仕草が、日本人を卑屈っぽく見せてしまう?
「手を体の前で組むというのは、日本では、慎ましさや謙虚さと捉える方が多いでしょう。しかし、日本のサービス業でもお馴染みの、おへその下で手を組むポーズを見て『卑屈っぽい』と捉える欧米人は少なくありません。もしくは、サーバントのように『あなたに仕えます』というメッセージに受け取る方もいます。
いずれにせよ、できるだけ体の中央(顔・胸・腹・股間・足の前)で手はクロスせず、開いておくようにしましょう。」
安積さんによれば、「手を体の前で組むのでなく、自然に(体の側面に)手を下ろし、胸を張って、堂々としているのが理想的」とのこと。会話中に、首に手をやる・ネクタイやネックレスをいじる・髪や顔に触れるのも、マイナスの印象に映るのだそう。
日本の文化に根付く仕草や立ち居振る舞いも、海外においては、沢山の誤解を招いていました。私たちは、郷に入(い)っては郷に従えという先人の教えを忘れかけてしまっているのでしょうか。次回は、他人事と呑気に思ってはいられない、誤解を招く日本人特有のジェスチャーについて、安積さんに尋ねます。どうぞお楽しみ!
『海外で笑われないための装い、洋服選び|安積陽子氏インタビュー<1>』『日本人は着物と一緒に「装いの哲学」も脱ぎ捨ててしまった?|安積陽子氏インタビュー<2>』もぜひチェックしてくださいね。
●国際ボディランゲージ協会代表理事
●IRC JAPAN代表
アメリカ合衆国シカゴに生まれる。ニューヨーク州立大学イメージコンサルティング学科を卒業後、アメリカの政治・経済・外交の中枢機能が集中するワシントンD.C.で、大統領補佐らを同窓に非言語コミュニケーションを学ぶ。そこで、世界のエリートたちが政治、経済、ビジネスのあらゆる場面で非言語コミュニケーションを駆使している事実に遭遇。2005年からニューヨークのImage Resource Center of New York 社で、エグゼクティブや政治家、女優、モデル、起業家を対象に自己演出術のトレーニングを開始。2009年に帰国し、Image Resource Center of New Yorkの日本校代表に就任。2016年、一般社団法人国際ボディランゲージ協会を設立。理念は「表情や姿勢、仕草から相手の心理を正しく理解し、人種、性別、性格を問わず、誰とでも魅力的なコミュニケーションがとれる人材の育成」。非言語コミュニケーションのセミナー、研修、コンサルティング等を行う。
《参考文献》
M.Yuki, W.W.Maddux, and T.Masuda, “Are the Windows to the Soul the Same in the East and West? Cultural Differences in Using the Eyes and Mouth as Cues to Recognize Emotions in Japan and the United States,” Journal of Experimental Social Psychology 43(2006): 303-11)
[Interview photo by MASASHI YONEDA]
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