出雲大社の幽世界に舞う石見神楽
「日本書紀」の国譲り神話によると、出雲大社(島根県)に鎮座するオオクニヌシが、神々や祭祀の世界を司り、大和(奈良県)の地で天皇が政治の世界を司り、「幽」と「顕」の世界として象徴されてきたそうです。その「幽」の世界に伝わる日本神話を題材に、お祭のたびに奉納されているのが「石見神楽」です。心の琴線にふれる独特の笛の音と、活気ある太鼓囃子を奏で、豪華絢爛な衣裳と表情豊かな面を身につけて舞います。
政府から神職の演舞が禁止され、神楽は神職から氏子(民間)に受け継がれる中、神楽改正の影響を受けた「八調子」と受けなかった「六調子」に分かれたそうです。スピード感があり、現在多くの団体に受け継がれているのは「八調子神楽」で、農作業での動作が「型」となり、腰を落とし、ゆっくりと舞う神楽の原型なのが「六調子神楽」だとか。
さらに、手織り感ある眩い衣裳、張り子技術を活用した神楽面、大蛇の胴には伝統工芸の「石州和紙」が使われていて、神楽全体が文化・産業においても大変貴重なものとなっています。
130以上の団体が継承する神へ奉納する舞
神様をお迎えする「儀式舞」や、古事記や日本書紀を題材にした物語性ある舞「能舞」など30演目以上があり、火や煙を吹くリアルな演出も。また、善を勧め悪を懲らしめるといった分かりやすい物語が特徴的です。
今回の「出雲と大和」の公演は、日本神話「八岐大蛇(ヤマタノオロチ)」が題材でした。出雲の国にある斐の川に降り立った須佐之男命(スサノオノミコト)が大蛇にさらわれた稲田姫(イナダヒメ)を救うため、大蛇に酒を飲ませ退治し、姫を救い出すという、日本人に馴染みある神話です。
本来は約2時間の公演を30分に凝縮して、次から次へと迫真の舞が繰り広げられました。想像以上に見事にうごめく蛇腹の大蛇、指先まで柔らかな姫の舞、勇壮な須佐之男命の姿を鑑賞。
笛太鼓のお囃子により、さらに躍動感が増し、観客は圧倒されて、息をする暇もありません。
公演の最後、登壇された皆さんの熱い鼓動が伝わり、満席の客席からは拍手が鳴り止みませんでした。
「神楽が自分の人生そのもの」石見に生きる人々が受け継ぐ神の世界
神楽を舞う父の姿を見て育ち、 代々親子で神楽を舞う家庭、それを支える地域の人々。「石見神楽」は、石見に生きる人々の日々の営みの一部となり脈々と受け継がれ、2019年5月には日本遺産に登録されました。現在、年間を通じて石見各地で観ることができ、2020年8月25日には東京・国立劇場での上演も控えています。
日本書紀編纂1300年を機に、神の創りし日本の始まりのお話を鑑賞し、日本人のルーツに触れてみるのもいいでしょう。
※2020年1月の情報です。予めご了承ください。
HP:https://www.all-iwami.com/kagura/index.html
[All photos by kurisencho]