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「恵みの雨」で収束へ!オーストラリアの山火事は“一般の観光客”にとって本当に危険なのか?

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Feb 20th, 2020. 更新日: Feb 21st, 2020

2019年の末から世界中を驚かせたオーストラリアの山火事。2020年2月に降った大雨により一気に終息に向かい、執筆時点ではほとんど全ての場所で火災が落ち着いている状況となっていますが、毎年繰り返される山火事は、観光客にどのような影響を与えるのでしょうか。オーストラリア政府観光局の情報を基に、まとめてみました。

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オーストラリアの山火事を日本人はどう考えるべきなの?

このところ、旅行者には心配のニュースがいろいろ聞こえてきます。世界的な異常気象、新型コロナウイルスに関するニュース映像などを見ると、思わず海外旅行をためらってしまう瞬間もあるかと思います。オーストラリアの山火事に関するニュースもショッキングでした。

人の手によりコアラが水を飲んでいる映像だとか、炎で真っ赤になった世界を消防隊員が駆け回っている映像だとか。今になっては記録的な豪雨で収束へ向かっていると言いますが、オーストラリアは日本人にとっても人気の旅行先。毎年のように発生するオーストラリアの山火事について、日本人はどのような点を注意し、どのように考えればいいのでしょうか。

大都市を訪れる限りそれほどナーバスになる必要はない


2020年1月4日のシドニーの眺め。山火事の煙でわずかにかすんでいる

2019年の末から2020年にかけて、オーストラリアで大規模な山火事が起こりました。その焼失面積の合計を、BBC放送(英国)が日本の地図と重ねて表示してくれています。

火災で燃えた面積は、東京を中心に南東北、犬吠埼沖、伊豆諸島、静岡の浜松、北陸などを含めた一帯の広さに相当すると分かります。動植物が焼け死に、人間の命も奪われました。それほどの火災だったのですから、旅行者も渡航を控えた方が賢明だったのでしょうか。

実際にさまざまな命が失われているため、表現に注意が必要ですが、オーストラリアの山火事について言うと、大都市観光を主なプログラムにする一般的な旅行者の行動には、深刻な影響がそれほど大きくはないと考えられます。その理由は主に3つあります。

オーストラリアの国土は広く、2019〜2020年の山火事でも焼失面積は国土の3%
旅行者が主に訪れる都市部と火災の起きている森は遠く離れている
火災のピーク時期はだいたい決まっている

オーストラリアの国土は広く、2019〜2020年の山火事でも焼失面積は国土の3%


オーストラリアの国土は広いです。日本の外務省のホームページによると、

<769万2,024平方キロメートル(日本の約20倍,アラスカを除く米とほぼ同じ)>(外務省のホームページより引用)

とあります。

地球儀が手元にあれば直感的に分かりやすいですが、アラスカを除くアメリカ合衆国とオーストラリアの大きさは、ほとんど同じくらい。日本の国土と比べると、約20倍という広さになります。

日本に暮らしながら激しい森林火災のニュース映像を見ると、何かオーストラリアの大半が燃えているような印象を受けてしまいます。10億匹の動物が焼け死んだというと、天変地異が起きているのではないかという印象すら受けます。

確かに毎年のように山火事が起きるオーストラリアでも、2019〜2020年は前代未聞の規模で火災が発生しました。しかし、燃えているエリアはオーストラリアの国土全体で考えると、あくまでも一部の3%です。

もちろん、オーストラリア政府観光局によれば、

「今回の山火事は規模が異なり、186,000 km²の土地が焼失(オーストラリア大陸の3%)、そして34人の方の命をはじめ、そこに住む野生動物が犠牲にあいました」

との話で、「3%だから大丈夫」という簡単な話では全くないそう。

キャンベラ周辺、ニュー・サウス・ウェールズ州とビクトリア州の州境にある山岳部、南オーストラリア州のカンガルー島など186,000km²の森が焼失し、実際の人が亡くなって、野生生物が犠牲に遭った事実については、大変に痛ましいニュースに違いありません。被災した地域に暮らす人々からは、政府に対する憤りの声も挙がったと、日本のニュースで報じられています。


しかし、オーストラリア大陸全体で見ると、焼失面積は3%です。国土が広いオーストラリアのため、3%と言っても広大な面積ですが、「オーストラリアの大半が燃えている」といった印象すら受けかねない各国の報道とは、少なくとも見え方が異なってくるはずです。

さらに毎年のように山火事が起きるオーストラリアでは、

「山火事が広がらないように、レンジャーなどが野焼きする『Control Fire』といった施策もとられています」

とオーストラリア政府観光局の方は言います。火災リスクが高いエリアに暮らしている人たちの尊い命が奪われた現実は、誠に痛ましいです。しかし、都市部を周遊する観光客が、オーストラリア行きの旅行を即刻中止すべきほどにリスクが高いとは、一概に言えないみたいですね。

旅行者が訪れる都市部と森は遠く離れている


山火事の煙でわずかにかすむメルボルン郊外

森林火災が起きているエリアは、森林です。シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレードなど大都市を訪れる旅行の場合、森林火災の影響は限定的です。

もちろん、都市部に火災の煙が流れ込むケースは考えられます。今回(2019〜2020年)の火災の広がりを、NASA(米航空宇宙局)の情報を基にBBC放送が可視化してくれた地図が、インターネット上で公開されています。その地図を時系列を見ると、シドニーの郊外の森で、2019年末に大規模な火災が広がった様子が分かります。

この時期の報道を振り返ると、50km離れた森からシドニーに煙が流れ込んできた様子が報じられていました。この時期の様子をオーストラリア政府観光に聞くと、

「郊外の山火事の煙が、風向きによりシドニーやメルボルンまで達成した日もあり、その際は空気の汚染率が高く、オーストラリア厚生環境局より、煤煙公害に対する注意喚起が発令されました。緊急の用がない限りは外出を控えること、循環器が弱い・悪い方、お子さま、お年寄りは注意するようにとのことでした。ただし、これは一時的なものでして、現地の住人たちはいつもと変わらない生活を過ごしていましたし、オーストラリア人はマスクはしません。また、シドニーの有名なハーバーブリッジを歩いて登る人気ツアー『ブリッジクライム』の中止は1回きりでした」

との話。

もちろん煙が届けば、ある程度の影響が出てきます。しかし、外からニュースで見ているほど、都市部に暮らす人たちは森林火災の影響を深刻には受けていない、「Business as usual」(普段通り)だと分かります。

「乾燥した大地で『Dry Country』などと呼ばれるオーストラリアでは、毎年夏に山火事(ブッシュファイヤー)はどこかで起こっていますので、日本の地震のようなイメージで慣れているイメージがあるかもしれません」

観光客については、さすがに地元の人と同じ感覚ではいられないはず。しかし、日本に暮らしながら日本でニュースを見ている印象ほど、都市部に暮らす人はナーバスになっていないのですね。

火災のピーク時期はだいたい決まっている


この記事は一部を2020年2月初旬に、一部を2月の中旬に書きました。豪ACT緊急事態庁(ACT Emergency Service Agency)によると、初旬の段階ではピークを過ぎたものの火災が続いている状態でした。特にオーストラリア南東部で、山火事が依然として盛んでした。

しかし、中旬の段階では、「恵みの雨」とも言われる記録的豪雨が降り、逆に火災のあった森に激流が生まれ、都市部に水害が起きているほどだと、やはり日本にもニュースが届き始めていました。

あらためて中旬にオーストラリア政府観光局が出している火災地域のリアルタイム情報を確かめると、ほぼオーストラリア全土で火災の影響がなくなってきている状態でした。

火災が始まったころは、「終わりが見えない」と日本のニュースで盛んに報じされていました。しかし、現状を聞くと、

「先週末を含め、先月から何度かまとまった雨が降っていますので、山火事は終息とは言えませんが、収束に向かっています。日本の自衛隊派遣も任務を終えて週末に帰国しました」(2020年2月10日時点の情報)

との話です。

もちろん、

「まだ乾燥するオーストラリアの夏はもう少し続きますし、ここ数年、日本で起こっている台風被害や温暖化現象を見ていると、油断はできないと思われます」

とのコメントがありました。ただ、一般的な見方としては、ピークは過ぎたと考えられるみたいですね。

※オーストラリア政府観光局のサイトでは、注意喚起が残っているエリアが、カンガルー島のみになっています(217日現在)


森林火災リスクの高い区域に暮らす人たちに豪ACT緊急事態庁が呼び掛けている「Prepare for Bushfire Season」を読むと、オーストラリアの山火事には毎年シーズンがあると分かります。オーストラリア政府観光局のホームページにも、

<山火事はオーストラリアの夏季(11月から2月)に、高温で乾燥した気候が原因となって発生>(オーストラリア政府観光局のホームページより引用)

と書かれています。

ピークは11月から2月。先ほども紹介したBBC放送の火災地図を時系列で見ても、2020年1月から2月にかけて、火災のエリアは急速に狭くなっている様子が見て取れました。

その意味で言えば、日本からの旅行者は毎年11月~2月の夏季に山火事リスクの高い区域への旅行をやめ、都市部に限って行動をした方が賢明だと考えられます。

動物が焼け死んだり、森が焼け野原になったりする様子を日本に居ながらニュースで見せられると、旅行をキャンセルしたくなる気持ちも分かります。しかし、実際にオーストラリアに予定通り出かける行動こそが、毎年の火災と向き合うオーストラリアを支援する形になるのだと、オーストラリア政府観光局も公式ホームページで訴えています。

今シーズンは収束に向かっている山火事ですが、次の夏以降、また同じような火災が起きる可能性は高いです。その場合、オーストラリアの山火事シーズンをどう考えればいいのか、あらためて参考にしてみてください。

[参考]
山火事に関する情報 – オーストラリア政府観光局
Incident Updates – ACT Emergency Service Agency
Australia fires: A visual guide to the bushfire crisis – BBC

[All photos by Shutterstock.com]

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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