(C)Masato Abe
層雲峡から大雪山の黒岳を目指す
大雪山の縦走は、まずは西側に位置する旭岳温泉のロープウェイで旭岳に登るか、東側にある層雲峡からロープウェイとリフトを乗り継いで黒岳に登ることになります。今回は少しだけ登山距離が短い層雲峡から黒岳を目指しました。
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大雪山の北東に位置する黒岳へは、標高670mの層雲峡から層雲峡・黒岳ロープウェイと黒岳ペアリフトを乗り継いで気軽に訪れることができます。周辺は初夏には高山植物やエゾシマリスなどの自然観察や登山、秋は紅葉狩り、冬はスキーなど、年間を通して大自然を満喫することができます。
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ちなみにロープウェイ片道7分、そしてペアリフト片道15分で7合目まで簡単に行くことができます。7合目の標高は1,520mで残り400mあまりを登れば黒岳にたどり着きます。
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登山道も整備されていました。後ろを振り返ると、断崖のように真下に落ち込んでいて、大雪山の北の山並みや原野が果てしなく広がります。
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7〜8月の短い夏の間には高山植物を見ることができます。こちらはエゾノハクサンイチゲでしょうか。このほかにもミヤマキンバイやダイセツトリカブトなど美しい花々を見つけました。
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7合目からゆっくり登って1時間半で黒岳山頂に到着です。山頂に立つと、さらにその向こうの大平原が果てしなく広がっているのがよくわかります。途方もないスケール感です。北海道に住むアイヌは、この大雪山を「ヌタップカウシュッペ」と呼び、神聖な土地、神々の山として敬っていました。ヌタップカウシュッペとは直訳すれば、山の上に広がる湿原の、さらにその上にそびえている山という意味らしいのです。
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目指すは10キロほど南西に位置する旭岳ですが、まずは上の写真の中央奥に見える「黒岳石室」と呼ばれる山小屋を目指します。黒岳からやや下り気味の坂を15分ほど歩きます。避難小屋ですが、夏から秋は管理人が常駐し、バイオトイレもあります。この周辺は盛夏、いちめんにチングルマが咲き乱れます。ちなみに石室とは文字通り、暴風雪にも耐えるよう石を積み上げて作った小屋を意味しています。
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大雪山の最高峰は標高2,290mの旭岳。この旭岳をはじめ2,000m前後の峰々が連なって大雪山は形作られています。そして南には十勝岳連峰、東には東大雪連峰が連なり「北海道の屋根」と呼ばれる巨大な山塊を作っています。この大雪山国立公園は東京都よりも広い、日本最大の23万haという途方もない広さなのです。
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黒岳石室にちょうど大雪山のルートマップがありました。大雪山の中央部に「お鉢平」と呼ばれる直径2キロほどの巨大なカルデラが広がり、旭岳まではその北側の稜線を歩くことになります。
息をのむ「お鉢平展望台」からの眺め
(C)Masato Abe
石室から40分ほど歩くと、「お鉢平展望台」という案内板があり、目の前に広大なカルデラが見えてきました。およそ3万年前の噴火で形成された「お鉢平」と呼ばれる巨大なカルデラです。底の部分では、温泉とともに強力な毒性を持つ硫化水素の火山ガスが噴出しているため、内部への立ち入りは禁止です。ちなみに3万年前の噴火では層雲峡が厚さ200mもの堆積物で埋まり、いまでは巨大な柱状節理を見ることができます。
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お鉢平展望台では、ちょうど3人の若者たちが双眼鏡で何かを観察していました。伺ったところ北海道大学の学生たちで、ヒグマの研究でお鉢平周辺のヒグマを確認しているといいます。幸か不幸か、この日ヒグマは確認できなかったといいます。野生のヒグマを一度見てみたい気もしますが、本当は出会いたくありません。
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学生たちを後にして、カルデラ北側の稜線に沿って西に進みました。この日はほとんど登山者に会いません。本州の山ならば、かならず誰かとすれ違うのですが、360度見渡せるお鉢平周辺でも人影がほとんどないのです。
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上の写真はおそらく太古の噴火によって吹き飛ばされた噴石が、長年の風化によって削られてできた、不思議な岩です。この縦走のあいだ、地球ではない、別の惑星を歩いているような奇妙な気分に襲われていました。
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お鉢平展望台からカルデラを左手に見ながら2時間ほどで標高2,185mの間宮岳に到着です。江戸時代、北海道や樺太を測量し、現在の北海道地図のもととなる「蝦夷図」を作った間宮林蔵の功績を称えて命名されたそうです。
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そして、ここから遠く西に旭岳の山頂が見えます。
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よく目を凝らしてみると、山頂に小さな人影が見えます。久しぶりにひとを見た思いです。
神の住む庭「カムイミンタラ」を歩く
(C)Masato Abe
アイヌに「カムイミンタラ」という言葉があります。「神のいる庭」という意味らしいのですが、もっと正確に言うと「ヒグマが繁殖期に歩き回って草を踏み倒した場所」を意味するらしいのです。アイヌにとって神とはヒグマです。大雪山系は、ヒグマが歩き回る庭だったのですね。
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8月後半だったのですが、間宮岳から旭岳に向かう草原地帯には、清々しいミヤマリンドウがあちこちに咲いていました。
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この縦走の中で、一番の難所は最後の旭岳へのこの登り道だったかもしれません。傍らには根雪が残っています。そして火山灰の細かな土、砂礫がずるずると滑って足が思うように上がりません。30分以上かかったでしょうか。ちなみに旭岳ロープウェイ姿見駅から旭岳への登り道はそれほど距離はありませんが、この砂礫ために2時間半かかるそうです。
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ようやく北海道最高峰、2,291mの旭岳山頂にたどり着きました。かつては標高2,290mでしたが、2008年に国土地理院によって2,291mと改められたそうです。ここから西側の旭川方面の眺めが最高です。
(C)Masato Abe
旭岳は、大雪山系でいちばん最後にできた山だそうで、誕生した時は現在よりもっと標高があったそうですが、500~600年前の爆発による山体崩壊で西側に大きく崩れ落ちたといいます。
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そして地獄谷と呼ばれる火口が馬蹄形に広がり、いまもたくさんの噴気孔から水蒸気を噴き上げています。その姿は剥き出しの自然のまま、壮観なのです。
(C)Masato Abe
山頂から1時間ほどかけて姿見の池まで降りていきます。標高1,600mほどの地点にロープウェイ姿見駅があります。砂礫の道は滑って歩きにくいのですが、7月から8月上旬まで姿見駅周辺はキバナシャクナゲ、チングルマなどの高山植物が咲き誇り、登山者の疲れを癒やしてくれます。8時間ほどかかった縦走もようやくゴールです。
旭岳山麓の名湯「湧駒荘」へ
今回お世話になったのは、温泉通のあいだでは良く知られる旭岳温泉・湯元 湧駒荘(ゆこまんそう)。日本秘湯を守る会会員の名湯です。旭岳ロープウェイからほど近い木立の中に山小屋風の建物があります。
(C)湯元 湧駒荘
大正3年に発見されたといいますから北海道でも珍しい100年以上の歴史がある温泉です。かつては勇駒別(ユコマンベツ)温泉と呼ばれていました。勇駒別とはアイヌの言葉で「湯に向かってゆく沢」という意味で、古くから温泉が湧いていたというのです。その後1997年に竹内隆治さんの経営に変わり、秘湯の宿として人気を博しています。
5つの源泉を17の湯舟で楽しむ
(C)湯元 湧駒荘
湧駒荘の自慢は5つもの源泉を持ち、すべてかけ流しであること。泉質は硫酸塩泉・正苦味泉、石膏泉、炭酸水素塩泉、緑ばん泉からなり、特にホウ酸塩素を有する「硫酸塩泉」は全国的にも珍しい泉質といい、岩の隙間から湧き出す、それぞれ泉質の異なるお湯をそのまま浴室に組み入れているそうです。
(C)湯元 湧駒荘
数えたことはなかったのですが、浴槽の数は17個もあるといいます。とはいえ岩を配置した浴室はどこも落ち着き、長湯をしてしまいます。大満足のお湯なのです。
(C)湯元 湧駒荘
ちなみに2014年にソチの冬季オリンピック女子大回転で、日本初となる銀メダルを獲得した竹内智香さんは、この宿の前社長竹内隆治さんの娘さんだそうで、冬場は温泉で体を温めながら、旭岳の雪でスキーのテクニックを磨いたのでしょうね。