(C)Masato Abe
磐梯山はなぜ「宝の山」か?
日本百名山のひとつ、標高1,816mの会津磐梯山。山の南側「表磐梯」には美しい田園風景や猪苗代湖が広がり、北側の「裏磐梯」では荒々しい山容と数多くの神秘的な湖沼群を見ることができます。
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昔から「会津磐梯山は宝の山よ♪」と歌われてきました。この宝の山とは何か、以前「ブラタモリ」(NHK)で紹介されていましたが、ご覧になったでしょうか?「宝の山」とは何か、追々ご紹介するとして、今回は裏磐梯から登ることにしました。
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磐梯山の登山ルートは6つあるといいます。今回歩く裏磐梯からのルートは、荒々しい裏側の山容を眺めながら4時間ほどの登山となります。
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スキー場のリフトが並んでいます。冬場なら中腹までリフトで運んでくれるのでしょうが、今回は草地をひたすら登っていくのです。草地を過ぎた樹林帯のあたりで、銅沼(あかぬま)という看板が現れました。このあたりは標高1,120mといいます。
磐梯山 噴火の痕跡がいまもあちこちに
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1888年(明治21年)磐梯山の北側、小磐梯を含む部分が水蒸気爆発によって山体崩壊を起こしました。このとき500名以上もの方々が犠牲となりました。岩なだれは川をせき止め、数百もの湖沼が形成されました。銅沼もこの時に誕生したといいます。
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銅沼は強酸性で、鉄やアルミニウム、マンガンなどが溶け込み、湖底の泥が水酸化鉄を含んで赤く見えるため、全体が赤い色に見えるといいます。しかも向こうに見える山体崩落のつめ跡が荒々しく迫ってきます。
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銅沼の向こう、斜面下の噴気孔から水蒸気が上がっているのも見えます。いまも磐梯山は火山活動をさかんに続けているのがわかります。
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銅沼を過ぎると登山道はやや急登となっていきます。雨も少し降って来たので、足元がぬかるみ、滑りそうになります。
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山頂を間近にして、弘法清水小屋という売店兼休息所がありました。ここでひと休み。現在、小屋の改修工事でスペースが少し狭くなっているらしいのですが、営業はしているそうです。山頂の真下にあるのですが不思議なことに、名前の通り、清水が湧いているのです。冷たくておいしい水でした。ちなみに近くには携帯トイレブースもあります。
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下界を覗くとすこしガスがかかっていますが、その向こうに広々と裏磐梯の緑と湖沼群が見えます。
実は噴火後、数十年間不毛の地となっていた裏磐梯に、遠藤現夢という地元の名士が私財を投げうって植林を始めたといいます。彼の努力がなかったら現在の美しい緑の森も、素晴らしい観光地も生まれませんでした。「ブラタモリ」では、遠藤現夢の努力とこの美しい裏磐梯の景色を「宝の山」のひとつとして紹介していました。
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ちなみに「ブラタモリ」で「宝の山」としてさらに紹介していたのは、裏とは対照的な表磐梯の美しい田園風景と猪苗代湖の絶景、そして「山塩」といいます。
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「山塩」とは塩のことです。日本列島が誕生する1,500万年前、海底火山によって噴出した火山灰・緑色凝灰岩には塩分が含まれていたそうで、先見の明のある人が「山塩」を見つけたのでしょう。江戸時代には年間400トン以上も採掘されていたといい、今でも年間2トンほど採れるそうです。
(C)Masato Abe
4時間ほどかかって山頂に到着です。その頃にはちょっとガスがかかり始めていました。一瞬でしたが、ガスのはるか下に大きな猪苗代湖を見ることができました。しかしカメラを向けた時には、アッという間に見えなくなっていました。残念。
(C)Masato Abe
ちなみに下山は弘法清水小屋の女将さんのおすすめで、登りとは別の火口原を通るルートを選びました。急坂を下っていき、明治のころ噴火で崩れた火口原を通り、最初の登山口に戻るルートです。
(C)Masato Abe
今もまだ樹木が育たない荒々しい現場で、132年前の噴火の痕跡が生々しく残されています。これはこれで強烈に記憶に残る磐梯山の風景で、確かにおすすめでした。
温泉も磐梯山の宝「裏磐梯レイクリゾート」
(C)Masato Abe
下界に降りるにしたがってガスは消えていきました。山の天気は変わりやすく不思議なものですね。ふたたび歩いて宿泊先の裏磐梯レイクリゾートに向かいました。そう、裏磐梯の温泉も「宝の山」のひとつです。
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裏磐梯レイクリゾートは大きな湖、桧原湖のほとりに位置し、磐梯山を臨む絶好のロケーションにあります。ロビーも広くゆったりとして、落ち着いた雰囲気です。
(C)裏磐梯レイクリゾート
温泉は目の前に広がる桧原湖を眺めながら気分爽快。敷地内から湧出する源泉をかけ流します。「黄金の湯」と呼ばれる鉄分豊富なこの湯は、湧き出る時は無色透明ですが、空気に触れると酸化して珍しい赤褐色のにごり湯となるのだそうです。
(C)裏磐梯レイクリゾート
泉質は、保温効果が高く湯冷めしにくい塩化物泉と硫酸塩泉。さらに天然の保湿成分メタケイ酸の含有量は、美肌効果が期待できる100mgをはるかに上回る200mg以上という、いいお湯なのです。
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山歩きの後は、とってもお腹が減りますね。地元福島の地産地消の夕食もおいしくいただきました。ごちそうさまでした。
裏磐梯の「宝」神秘的な五色沼湖沼群
さらにもうひとつ裏磐梯には、おすすめしたい見どころがあります。それが五色沼。正式には「五色沼湖沼群」といい、毘沙門沼・赤沼・みどろ沼・竜沼・弁天沼・るり沼・青沼・柳沼など、水の色が微妙に異なる数多くの湖沼の総称なのだそうです。
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上の写真は青沼。沼によってエメラルドグリーンやコバルトブルー、またターコイズブルー、エメラルドブルー、パステルブルーなど色が異なります。2016年にはミシュラン・グリーンガイド1つ星の評価を受けています。
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火山ガスに含まれる硫黄は水に溶けると硫酸になるのだそうです。また磐梯山の表土は鉄分を含んでいるために雨水によって沼に注ぎこまれると、酸化鉄で、赤茶けた色になったり、pHの違いで微妙に色が変わるというのです。
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この湖沼群を巡る五色沼自然探勝路は3.6kmほど。片道1時間から1時間30分の平坦なハイキングコースです。アップダウンはほとんどありませんが、岩がごろごろしていたり、雨が降るとぬかるみができるために運動靴をおすすめします。
(C)Masato Abe
それぞれの池の色合いが少しずつ違うのが不思議。山にしみ込んだ水がたどる道筋が違うため、それぞれ化学変化を起こしながら色を変えるといい、磐梯山はここでも奇跡を作り出しているのかもしれません。
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美しく雄大な山の姿、そして幻想的な色を楽しめる五色沼や温泉など、磐梯山はたくさんの宝をもたらしてくれる山なのです。秋の紅葉の美しいこと。いつか歩いてみてくださいね。