
「のれん」の起源は、禅宗の寺院の入り口で下げられたすだれ

東日本のチチ仕立てののれん
そもそものれんとは「暖簾」と書きますよね。百科事典で調べていてびっくりしたのですが、「暖簾」に加えて「涼簾」もあって、もともとは禅宗のお寺で、冬の寒さや夏の暑さをしのぐために、入り口に下げた「簾(すだれ)」が由来なのだとか。
特に、冬の場合は、入り口から吹き込む風をしのごうとすだれを下げても、すき間から風が吹き込んできます。そこで、すき間を覆う目的で布が重ねられ、その布が、のちにのれんへと発展していくのですね。
この禅宗の寺院で下げられたのれんの原型は、平安時代から鎌倉、室町初期へと時代が変わると、町屋の入り口にも使われるようになりました。最初は、防雨・防風が目的です。
しかし、室町時代も後期になり、自由商業がいよいよ発達していくと、商売を営んでいる人たちが、町衆の存在と誇りを象徴化させる目的で、通りに面して下げたのれんに、カラフルな種々の模様を染め抜くようになっていきます。
ちょうど、室町時代の後期に、庶民にも木綿が手に入りやすくなった状況も重なったようです。
桃山時代以降になると、商人たちは屋号のような印を染め抜くようになります。火事になれば、真っ先にのれんを外して抱えて逃げる、のれんを持っていけばお金が借りられるなど、お店の信用をのれんが裏付けるようにもなりました。
もちろん今でも、企業の信頼度や価値、ブランド力を「のれん」と呼びます。
東日本のチチ仕立て、西日本の袋縫い仕立て

西日本の袋縫い仕立てののれん
そんなのれんも、実は東西でちょっとだけ特徴が違うとご存じでしたか?
オーダーメイドの注文を受ける工場などに聞くと、東西による違いは最近でこそ薄れてきているとの話ですが、「東日本=チチ仕立て」「西日本=袋縫い仕立て」という特徴がずっと存在してきたようです。
東京を中心とした関東の場合は、長方形ののれん本体の上部に布の輪を等間隔で取り付け、その中にさおを通します。この輪を「乳(チチ)」と呼ぶのだとか。
一方、京都・大阪を中心とした関西の場合は、のれんの上部に袋状の通し穴をつくり、その穴にさおを通します。この通し穴を「棒袋」と呼ぶそうです。
要するに、関東の場合は、のれんの上に断続的にさおが見える、関西の場合は、のれんの上にさおが見えないのですね。
東西の違いが生まれた理由

(C) Nikox2 / Shutterstock.com
この違いの由来について、いくつかの業者に話を聞きましたが、残念ながら明確にはわからないとの話。
ただ、複数の書籍に書かれている仮説では、公家文化の色濃い関西では「隠す文化」が主流で、武家文化の発達した関東では「見せる文化」が主流、その違いによってのれんの乳と棒袋の違いも生まれたのではないかと説明できるようです。
ちなみに、チチ仕立ての言葉の由来については、断続的に露出するさおの部分が複数の乳房を持つメスのイヌの腹に見えることから、そう呼ばれるようになったとか。
家の近所にあるお店ののれんはどうなっているか、このトリビアを頭に仕込んだ状態で、早速チェックしてみてはいかがでしょうか?
関東に住んでいる人が関西に、関西に住んでいる人が関東に旅行に出かける際にも、のれんの上部にぜひ注目してみてくださいね。
[参考]
※ 岡部敬史『ちがいがわかるとおもしろい!東日本と西日本』(汐文社)
※ 暖簾の竿を通す部分の名前は“乳(チチ)”!?その由来と仕立ての種類 – 水野染工場
※ 中世京都の町屋における暖簾の基礎的研究 – 立部紀夫
※ 『暖簾』その意と匠 – 北端信彦
あなたが知りたかったことが、この記事で参考になりましたか?
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
1979年東京生まれ、埼玉育ち、富山県在住。成城大学文芸学部芸術学科卒。国内外の媒体に日本語と英語で執筆を行う。北陸3県を舞台にしたウェブメディア『HOKUROKU』の創刊編集長も務める。
https://hokuroku.media/
【世界三大財閥】ロスチャイルドも!けた違いにすごい一族のサクセスストーリ
Jun 9th, 2023 | 坂本正敬
世界を代表するとされるものを3つ取り上げて、「世界三大〇〇」と呼ばれるさまざまなものがありますよね。そこで、どんな事物がそういわれているのか調べてみました。あなたはどれだけ知っているでしょうか? 今回は「世界三大財閥」を紹介します。
【世界地理トリビア】「砂漠」は南極にもある?おぼれて死に至ることも!
Jun 8th, 2023 | 坂本正敬
先月ごろまで、日本海側を中心に、黄砂の気になる季節が続きました。この黄砂、ご存じのとおり、ユーラシア大陸のタクラマカン砂漠やゴビ砂漠から飛来する砂ぼこりに由来しています。縁遠い印象のある砂漠の存在を、暮らしの中に感じた数カ月だったのではないでしょうか。そこで今回は、この砂漠に関するトリビアをいくつか紹介します。
【日本の不思議スポット5】現代人の想像をはるかに超えた古代の天文台とされ
Jun 7th, 2023 | あやみ
イギリスのストーンヘンジや、エジプトのギザの三大ピラミッドと近い時期に、日本でも縄文人によって巨石建造物がつくられた可能性があります。それが岐阜県下呂市の「金山巨石群」です。この巨石群はどのような目的でつくられたのでしょうか? 今回は、その謎に迫ります。
【実は日本が世界一】55年の歴史!『ボンカレー』がギネス世界記録の理由と
Jun 7th, 2023 | 坂本正敬
日本にいながら、意外と知らない日本の「世界一」。いつも何気なく目にしているものから、知られざる自然の世界、そして努力や技術の賜物まで、日本には世界に誇れる「世界No.1」がたくさんあるんです。そんな「実は日本が世界一」、今回は、日本で独自に発展したカレーに関する世界一を紹介します。
【東京】「雨の日サービス」がある百貨店&商業施設5選!割引やプレゼントも
Jun 6th, 2023 | TABIZINE編集部
梅雨の時期、雨が降ると、出かけるのがおっくうになってしまうという人も多いのでは? そこで、雨の日のお出かけが楽しくなる、東京都内の百貨店や商業施設の「雨の日サービス」5選を紹介します。商品が割引になったり、プレゼントがもらえたりといったお得なサービスもあるので、チェックしてみてくださいね。
【実はここが日本一】総延長約23km!最長の洞窟は岩手県の子どもの遊び場
Jun 6th, 2023 | 坂本正敬
日本一高い山は「富士山」、日本一大きな湖は「琵琶湖」、日本一高いタワーは「東京スカイツリー」など、有名な日本一はいろいろありますが、あまり知られていない、ちょっと意外な日本一を紹介するシリーズ「実はこれが日本一」。今回は、夏が近付いてきたこの時期にこそ知っておきたい洞窟(どうくつ)の日本一を紹介します。
エコツーリズムの発祥の地といわれる「コスタリカ」ってどんな国?
Jun 4th, 2023 | あやみ
スペイン語で、『富める海岸』を意味する国「コスタリカ」。世界で唯一の非武装永世中立国だったり、国土の約4分の1が国立公園だったり、ユニークな特徴があります。今回は、そんなコスタリカの基本情報はもちろん、観光地や世界遺産、人気のスポーツもご紹介します。
全長4,260km!北海道から沖縄の距離よりも長いアメリカの歩道「トレイ
Jun 3rd, 2023 | 坂本正敬
1955年に書籍から始まった「ギネス世界記録」。人間が達成した記録や、自然界で起きた「世界一」など、さまざまな世界記録を認定・登録しています。その中から、旅行に関するギネス世界記録を紹介していきます。今回は、トレイル(長距離自然歩道)に関する世界一を紹介します。
【日本三大神社】三重「伊勢神宮」・奈良「石上神宮」以外に有力候補が3社あ
Jun 2nd, 2023 | あやみ
日本全国には8万社を超える神社があります。そのなかで、日本三大神社には有力な2つの説が存在します。とはいえ、「日本三大神宮」「日本三大大社」「日本三大稲荷」など、神社をさらに細かく分類した「日本三大」は存在しますが、「日本三大神社」というものはありません。そこで今回は、格式がとても高い神社とされ「日本三大神宮」に挙げられる5つの神社をすべて紹介します。
【6月の祝日・連休・記念日一覧】今日は何の日?紫陽花がきれいな梅雨の月
Jun 1st, 2023 | まる
1月1日は元日、5月5日はこどもの日、7月の第3月曜日は海の日など、国民の祝日と定められている日以外にも、1年365日(うるう年は366日)、毎日何かしらの記念日なんです。日本記念日協会には、2021年2月時点で約2,200件の記念日が登録されており、年間約150件以上のペースで増加しているそう。今回は6月の祝日・連休・記念日を一覧にしました。今日がどんな日なのか探してみてくださいね。