(C) KPG-Payless / Shutterstock.com
精霊流しは灯籠流しと雰囲気が異なる
長崎市の県庁坂を登る精霊船(Wikipedia より)
皆さんの暮らす地域で、「灯籠(とうろう)流し」は行われますか? 灯籠流しとは、毎年お盆の終わりに行われる習俗で、火をともした灯籠を川や海に流し、先祖の魂をあの世に送り戻す儀式 ですね。
富山に暮らす筆者の場合でも、近所の小さな川で毎年、灯籠流しが行われていますが、似たような習俗として「精霊流し」もあります。
長崎を中心に、佐賀・熊本など、県境を接した都道府県の一部の地域でも行われている伝統行事です。言葉が似ているので、同じような儀式なのかと思ってしまいがち。しかし、長崎の精霊流しは全国の灯籠流しとはだいぶ雰囲気が異なるとご存じでしたか?
耳栓が売り切れるくらい爆竹がうるさい
長崎市の五島町交差点に辿り着いた精霊船。大量の爆竹による煙が辺りを覆う image by Hisagi(Wikipedia より)
さだまさしさん作詞・作曲の『精霊流し』という有名な曲があります。歌の雰囲気は、どちらかと言えば厳かで落ち着いていて幻想的です。同じく幻想的な雰囲気の灯籠流しと、イメージが余計に重なってしまいます。
しかし、両者は印象がかなり異なります。
<依代(よりしろ)であった供物の類を川や海に流して精霊を送る。北九州では盛大に行うところが多く,佐賀の花舟,久留米・長崎の精霊舟などが名高い> (平凡社『百科事典マイペディア』より引用)
とあるように、精霊流しは、盆前に亡くなった遺族のために船をつくり、極楽浄土へ送り出す伝統行事 です。
灯籠流しと実施する時期が一緒で、背景の意味も似ているのですが、この長崎の精霊流しは「盛大に行う」ので、ずいぶんと雰囲気が異なります。
何が盛大かと言えば、爆竹の存在が挙げられます。お盆前に亡くなった故人の遺族が、遺影などを飾った精霊船をつくり、決まった時間に流し場へ持ち込みます。
爆竹については、派手さを競って使用量が一部で増えているため、爆竹の使用を禁止できないか、市民から行政に苦情や意見も入るくらいです。
当日は耳栓が棚からなくなるほどの売れ行きをみせます。それだけ騒がしく、幻想的な灯籠流しとは様子が違う習俗なのですね。
粗大ごみの一般持ち込みがストップになる
長崎市の尾上流し場で解体される精霊船 image by Hisagi(Wikipedia )
精霊船の大きさもけた違いです。最大で全長10m以内と決められてはいますが、巨大な船に家紋や家名が掲示され、個人の写真や趣味などが飾り付けられます。一方で、灯籠流しの灯籠は、手のひらサイズといった感じではないでしょうか。
自治体や地域のかかわり方も違います。長崎市の場合、8月15日の夕方になると主要な道路に交通制限が掛かり、路面電車すら止められて、精霊流しのために道路が開放されます。
その間は、流し場までの路上を大小さまざまの精霊船が占拠し、移動中に遺族が鐘を鳴らし、爆竹をまき散らします。見物人も沿道に出てきます。もちろんその中には、観光客も含まれています。
ちなみに、流し場まで運ばれた精霊船は、どうなるのでしょう。
明治の初期に禁止されて以来、実際に海には流されなくなりました。各地から集まってきた精霊船は時間になると重機で破壊され、粗大ごみとして自治体に回収されます。そのため、長崎市内のごみ処理場では、精霊流しからしばらくの間、粗大ごみの持ち込みがストップになります。
厳密に言えば祭りではないですが、灯籠流しとはまた違う精霊流し。お盆がもうちょっとでまたやってきますから、覚えておきたいですね。
[参考]
※ 精霊流しの「お知らせ」
※ 精霊流し(ショウロウナガシ) – あっ!とながさき
※ ご意見(要旨) 【精霊流しについて】 – 長崎市へのご意見・ご提案等の紹介
Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(
https://hokuroku.media/ )創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。
島の数が多い都道府県第1位は1479島! 一体どこ?【ちょっと面白い都道
Sep 20th, 2023 | sweetsholic
小さな島国ながら、気候や文化の多様な日本。47都道府県それぞれに個性があります。ちょっと面白い都道府県ランキングをご紹介する当コラム。今回は、島の数が多い都道府県ランキングTOP5をピックアップします。1位は意外にも、あの県!? そして気になる東京は?
【実はこれが日本一】「日本一小さな公園」は離島の有志が1万円で手作りした
Mar 14th, 2023 | 坂本正敬
日本一高い山は「富士山」、日本一大きな湖は「琵琶湖」、日本一高いタワーは「東京スカイツリー」など、有名な日本一はいろいろありますが、あまり知られていない、ちょっと意外な日本一を紹介するシリーズ「実はこれが日本一」。今回は、名称に「日本一」が付く離島の公園を紹介します。
【日本三大夜景】函館・神戸・長崎の見どころ&アクセス方法は?
Sep 16th, 2022 | 内野 チエ
夜空の下に街々の灯りがきらめく夜景は、はっと目を見張るほどの美しさがあります。夜景が見られるスポットは日本全国にありますが、その中でもぜひ訪れてみたいのが「日本三大夜景」に選ばれているスポットです。各所の見どころやアクセス方法をまとめて紹介します!
続々誕生している車中泊場所「RVパーク」ってどこにあるの?6・7月新規オ
Aug 20th, 2022 | Mayumi.W
車の中で寝泊まりをする車中泊。安く自由に旅ができて気軽とも思える車中泊ですが、日本ではまだなかなか浸透しているとは言えません。そんな中、安心して車中泊を楽しめる場所「RVパーク」が続々誕生しています。今回は、全国に広がりつつある車中泊スポット「RVパーク」をご紹介。「RVパーク」を知れば、旅の選択肢がもっと広がるかも!
【日本の美しい禁足地vol.14】エメラルドグリーンの海が眩しい~長崎県
Aug 14th, 2022 | あやみ
歴史や宗教的な背景などで立ち入ってはいけない場所。それが「禁足地」です。今回は、長崎県の壱岐島最北端の沖に浮かぶ無人島「辰ノ島」にフォーカス。エメラルドグリーンに輝く海に囲まれた辰ノ島は、独特の自然美に恵まれた美しい島です。しかし、この島には立ち入ると危険だと言われている場所が! その驚くべき理由に迫ります。
【日本の禁足地18選】美しくも恐ろしい!オソロシドコロ・八幡の藪知らず・
Aug 13th, 2022 | あやみ
【2022年9月16日更新】禁足地とは、歴史や宗教的な背景などで立ち入りが禁止されている場所……。日本全国には、一般人の立ち入りが禁止されていたり、限られた人しか入ることができないスポットなどが点在しています。今回は、美しくも恐ろしい日本の禁足地を12ヶ所ご紹介。なんと東京23区にも禁足地が存在するんです。いずれのスポットも、圧倒的な神秘のパワーを感じますよ。
【お祭りトリビア連載10】長崎の「精霊流し」は全国の灯籠流しと別物だった
Jul 18th, 2022 | 坂本正敬
身近な祭り、よく知っている祭りの意外な一面を紹介するTABIZINEの祭り連載。今回は、正確に言えば祭りではないですが、ある意味で祭りのように見物人も集まる長崎の「精霊(しょうろう)流し」を紹介します。
【日本最古を探せ】キリシタン弾圧の歴史と奇跡の瞬間を伝える「大浦天主堂」
Jul 9th, 2022 | 内野 チエ
「日本最古」のスポットは史跡・名勝だけでなく、日常の意外なところにも潜んでいるものです。ホテルや遊園地、喫茶店など、数百年の時を重ねながら現在まで脈々と続く、歴史ある場所やコト、モノを発掘してみました。今回は日本最古の教会建築「大浦天主堂」を紹介します。
【実はこれが日本一】次の駅までたったの200m!長崎県「松浦鉄道」の最短
Jun 7th, 2022 | 坂本正敬
意外な日本一を紹介するTABIZINEの連載。今回は、旅の移動に不可欠な存在、鉄道に関する日本一を紹介します。
【日本の美しい禁足地vol.1】薄暗く荘厳な雰囲気~長崎・対馬の「オソロ
Apr 9th, 2022 | あやみ
歴史や宗教的な背景などで立ち入ってはいけない場所。それが「禁足地」です。この連載では、日本各地にある禁足地にフォーカス。1回目は、長崎県の離島・対馬にある「オソロシドコロ」をご紹介します。名前からして恐ろしい雰囲気を醸し出していますが、なぜこの場所は禁足地になったのでしょうか? 「オソロシドコロ」の歴史と今に迫ります。