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【お祭りトリビア連載10】長崎の「精霊流し」は全国の灯籠流しと別物だった

Posted by: 坂本正敬
掲載日: Jul 18th, 2022. 更新日: Jul 17th, 2022

身近な祭り、よく知っている祭りの意外な一面を紹介するTABIZINEの祭り連載。今回は、正確に言えば祭りではないですが、ある意味で祭りのように見物人も集まる長崎の「精霊(しょうろう)流し」を紹介します。

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長崎県精霊流し
(C) KPG-Payless / Shutterstock.com

 


精霊流しは灯籠流しと雰囲気が異なる


長崎市の県庁坂を登る精霊船(Wikipediaより)

皆さんの暮らす地域で、「灯籠(とうろう)流し」は行われますか? 灯籠流しとは、毎年お盆の終わりに行われる習俗で、火をともした灯籠を川や海に流し、先祖の魂をあの世に送り戻す儀式ですね。

富山に暮らす筆者の場合でも、近所の小さな川で毎年、灯籠流しが行われていますが、似たような習俗として「精霊流し」もあります。

長崎を中心に、佐賀・熊本など、県境を接した都道府県の一部の地域でも行われている伝統行事です。言葉が似ているので、同じような儀式なのかと思ってしまいがち。しかし、長崎の精霊流しは全国の灯籠流しとはだいぶ雰囲気が異なるとご存じでしたか?

耳栓が売り切れるくらい爆竹がうるさい


長崎市の五島町交差点に辿り着いた精霊船。大量の爆竹による煙が辺りを覆う image by Hisagi(Wikipediaより)

さだまさしさん作詞・作曲の『精霊流し』という有名な曲があります。歌の雰囲気は、どちらかと言えば厳かで落ち着いていて幻想的です。同じく幻想的な雰囲気の灯籠流しと、イメージが余計に重なってしまいます。

しかし、両者は印象がかなり異なります。

<依代(よりしろ)であった供物の類を川や海に流して精霊を送る。北九州では盛大に行うところが多く,佐賀の花舟,久留米・長崎の精霊舟などが名高い>(平凡社『百科事典マイペディア』より引用)

とあるように、精霊流しは、盆前に亡くなった遺族のために船をつくり、極楽浄土へ送り出す伝統行事です。

灯籠流しと実施する時期が一緒で、背景の意味も似ているのですが、この長崎の精霊流しは「盛大に行う」ので、ずいぶんと雰囲気が異なります。

何が盛大かと言えば、爆竹の存在が挙げられます。お盆前に亡くなった故人の遺族が、遺影などを飾った精霊船をつくり、決まった時間に流し場へ持ち込みます。

爆竹については、派手さを競って使用量が一部で増えているため、爆竹の使用を禁止できないか、市民から行政に苦情や意見も入るくらいです。

当日は耳栓が棚からなくなるほどの売れ行きをみせます。それだけ騒がしく、幻想的な灯籠流しとは様子が違う習俗なのですね。

粗大ごみの一般持ち込みがストップになる


長崎市の尾上流し場で解体される精霊船 image by Hisagi(Wikipedia

精霊船の大きさもけた違いです。最大で全長10m以内と決められてはいますが、巨大な船に家紋や家名が掲示され、個人の写真や趣味などが飾り付けられます。一方で、灯籠流しの灯籠は、手のひらサイズといった感じではないでしょうか。

自治体や地域のかかわり方も違います。長崎市の場合、8月15日の夕方になると主要な道路に交通制限が掛かり、路面電車すら止められて、精霊流しのために道路が開放されます。

その間は、流し場までの路上を大小さまざまの精霊船が占拠し、移動中に遺族が鐘を鳴らし、爆竹をまき散らします。見物人も沿道に出てきます。もちろんその中には、観光客も含まれています。

ちなみに、流し場まで運ばれた精霊船は、どうなるのでしょう。

明治の初期に禁止されて以来、実際に海には流されなくなりました。各地から集まってきた精霊船は時間になると重機で破壊され、粗大ごみとして自治体に回収されます。そのため、長崎市内のごみ処理場では、精霊流しからしばらくの間、粗大ごみの持ち込みがストップになります。

厳密に言えば祭りではないですが、灯籠流しとはまた違う精霊流し。お盆がもうちょっとでまたやってきますから、覚えておきたいですね。

[参考]
精霊流しの「お知らせ」

精霊流し(ショウロウナガシ) – あっ!とながさき

※ ご意見(要旨) 【精霊流しについて】 – 長崎市へのご意見・ご提案等の紹介

坂本正敬

Masayoshi Sakamoto 翻訳家/ライター
翻訳家・ライター・編集者。東京生まれ埼玉育ち。成城大学文芸学部芸術学科卒。現在は、家族と富山に在住。小学館〈HugKum〉など、在京の出版社および新聞社の媒体、ならびに〈PATEK PHILIPPE INTERNATIONAL MAGAZINE〉など海外の媒体に日本語と英語で寄稿する。 訳書に〈クールジャパン一般常識〉、著書(TABIZINEライターとの共著)に〈いちばん美しい季節に行きたい 日本の絶景365日〉など。北陸3県のWebマガジン〈HOKUROKU〉(https://hokuroku.media/)創刊編集長。その他、企業や教育機関の広報誌編集長も務める。文筆・編集に関する受賞歴も多数。


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